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サスティナビリティ(144)
2020年~2024年 「世界規模の環境被害の5年間」(14)
更新日:2012年06月15日

    

 「ヨサコイソーラン祭り」も先週終わり、今週は札幌神宮祭だ。暦の上では北海道にも短い夏が訪れたわけだが肌寒い日が続いている。一方、関東以西では本格的な梅雨入りで、思い出しただけでも汗がにじみ出てくるような蒸し暑い日がこれから続くことになる。先日、向かいのホテルで前橋から来たという旅行者の方と話す機会があった。札幌での観光旅行を満喫している様子で、前橋地方の夏の暑さと冬の底冷え、さらに海産物の鮮度の悪さについて散々こぼしていた。「こちらに移住されたらどうですか」と話を向けると、「考えなければならないでしょうね」と言う答えが返ってきた。

 2020年~2024年にかけて、本州以南(以西)と北海道の住みやすさはどうなっているのだろうか。そのヒントとなるような本と出会った。本のタイトルは「2050年の世界地図」-迫り来るニュー・ノースの時代-で、執筆者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のローレンス・スミス教授。原本は2010年に発行されたが、翻訳版は今年3月にNHK出版社より出されている。
 著者のスミス教授は地理学が専門だが、北半球北部の河川、氷河、氷床、永久凍土の融解が土壌炭素や湖に及ぼす影響を現地に入り込んで研究・調査し、その結果を米国議会で発表して一躍有名になった。また、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書でも研究成果を詳細に報告している。
 本書は翻訳版で350頁の大作。人口構造、エネルギー資源、気候変動、グローバル化の4つの視点から多面的に2050年の世界を予測している。本ブログで取り上げている「2025年」の25年先の世界ではあるが、方向性で共有している部分多く、また新たに考えさせられる点が随所にあり大変興味深く読まさせてもらった。その概要を数回にわたって紹介したい。

 スミスは、近い将来北極を取り巻く北緯45度以北の地域が、地球温暖化の中でも繁栄し続ける「ニュー・ノースの時代」が来ると予測している。
 これらの地域はNORCs(North Rim Countries:環北極圏)と呼ばれ、米国、カナダ、アイスランド、グリーンランド(デンマーク領)、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの8カ国が含まれる。
 地球温暖化の負の影響が、これらの地域は軽微であるとともに、農業生産や天然資源の生産増加が見込まれる。それにつれて各種関連産業が成長し、北への人口移動が進み、定住化と都市化が進展すると見ている。
 一方、急激に人口が増えているアジア・アフリカの各国は、地球温暖化の被害をモロに受け、干ばつによる食料生産の激減、水位上昇によるデルタ地帯の損傷、深刻な水不足に陥ることになるだろうと予測している。

 スミスは遺伝子組み換えなどの技術大革命、第三次世界大戦の勃発、死に至る病気の大流行や隕石の衝突など“想定を超える”事態は考慮せず、現在発生している現象や予測可能なケースを徹底的に分析した上で将来を描いている。IPCCのコンピュータモデルが彼の分析の基本になっている。そういう面では極めて保守的な手法を用いているが、発表された2050年の世界では深刻な環境被害の様相を呈している。

 2050年、ニュー・ノースを除いた世界各地はどんな状況になっているのだろうか。
 まず指摘されているのが、人口の急増によって深刻度を増す食料と水の不足だ。
 2050年、世界の人口は現在よりさらに20億人以上が増えて92億人になると予想されている。特に急増するのがアフリカとアジアで、この地域では劇的な都市(近代的都市ではなく単に人口が密集している地域)化傾向が続く。都会の方が稼げるからだ。農村部から都市部への大移動はすでに始まっている。都市生活者は2007年の33億人から64億人にほぼ倍増するという。

 例えば、ナイジェリアのラゴス。2025年には人口が50%増えて1600万人になるが、今でも交通渋滞、不衛生、治安の悪化、さまざまな病気の蔓延などが問題となっている。海岸部は海抜が低く、深刻な洪水被害が頻発するという環境の中での生活だ。その上にさらに500万人が農村から移動してくるのだ。
 中国も都市生活者が10億人増えて都市生活者の比率は70%を超える。
 ここ2、3年で世界各地に異常気象をもたらしたラニーニャは、今後数十年続く恐れがあり、米国でもカリフォルニア州など南西部では深刻な干ばつが続き、農作物生産に深刻な被害をもたらす。
 干ばつは、中国北西部、ブラジル東部、オーストラリア、アフリカでも2050年にかけて頻発が予想され、人口の急増が確実なサハラ砂漠の南部(サヘル地域)では収量が20%程度減少すると予想されている。
 現在でも全ての国民がきれいな水を飲めるのは日本やカナダなどごく限られた国だけだ。2025年には人口の増加、気候変動、あるいはその両方が原因で人類の大半が〝水ストレス状態〟に陥る。不衛生な飲料水による疫病の多発、かんがい用水の不足による農業生産の落ち込みは世界各地で深刻な事態を引き起こすだろう。
 ナイル川、ヨルダン川、チグリス・ユーフラテス川、インダス川に水を依存する人は2050年には倍増するとみられ、水をめぐり「極度の緊張と暴力紛争の周期的発生」を招くと指摘されている。かつて古代文明が開花し、栄えた地域が今後の歴史の中では悲惨な生活を強いられることになる。それらの地域の国には、タンザニア、コンゴ、スーダン、ケニア、エチオピア、エジプト、トルコ、イラク、ヨルダン、イスラエル、パキスタン、インドなどが含まれている。
 水の最大の利用者は都市住民ではなく農村と工業地帯。人類が消費する水の約40%は家畜を含む農産物や工業製品に利用され、それらはグローバル貿易に組み込まれている。これらの生産に投下された水をバーチャルウォーターと呼んでいる。北米はバーチャルウォーター輸出で世界最大であり、欧州・日本・中東・北アフリカ・メキシコは純輸入国になっている。
 その北米も、米国南部では長期の干ばつが予想されており、すでに穀倉地帯のカンザス州、オクラホマ州、テキサス州の井戸は干上がり始めている。カリフォルニア州でも今世紀半ばには、都市市民が飲む水はあるだろうが、農家が使う水があるかどうかは心もとない。
 インドのかんがい用地下水は、多くの場所で年間4~10センチ下がっている。いずれ枯れる運命にあるとスミスは指摘する。

 次に深刻なのは海面上昇である。その被害を直接受けるのが人口100万人以上を抱える主要な港湾都市である。南極大陸の西側、グリーンランド、ヒマラヤなどの氷河は融解のスピードを高めており、海面が徐々に上昇している。海面上昇に加え、温度上昇による海水膨張、エルニーニョ・ラニーニャの勢力拡大で大型ハリケーンや台風の頻発がもたらす高波。世界の港湾都市は甚大な水害に遭遇する可能性が高い。
 人口100万人を超える港湾都市は現在世界に136あるが、いずれもがその危険性をはらんでいる。その中には、東京、名古屋、大阪、上海、マイアミ、ニューヨーク、バンコクなど、なじみの名前が並んでいる。これらの都市は海面上昇、地盤沈下、沿岸の堆積物不足で、海の波のエネルギーと大波で水没する危険性が増しているという。

 スミスは、「干上がるカリフォルニア、水没する上海」と刺激的なメッセージを発している。果たして、東京・名古屋・大阪も同じように水没するのだろうか。
 次回は、エネルギーの現状と将来、なぜ「ニュー・ノース」が有利な地域なのか、そして北海道はどのように対応すべきなのかについて述べていきたい。