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Interview

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中島元社長の遺志に絶対応える掲載号:2013年9月

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野島誠 JR北海道社長

 今月号に登場した新トップの中で、最も厳しい船出になったのが野島誠JR北海道社長だ。就任早々、特急列車出火事故が起き、現役運転士が覚醒剤使用で逮捕された。どのように道民の信頼回復を図っていくのか。野島氏を直撃した。(取材日=8月5日)

各部署の朝礼に立ち会い現場を把握

――東京大学卒業後、国鉄に入社されました。
野島 大学で土木を専攻していました。当時、国鉄が東北新幹線の工事を進めているころで、ぜひそういう仕事に携わってみたいと志望しました。
――入社後はすぐ、北海道で勤務したそうですね。
野島 新入社員研修後の最初の配属先が札幌でした。札幌駅の高架化の最中で、本体工事を立ち上げる現場の担当になりました。ちょうど「東3丁目」の工区が持ち場で、朝から晩まで現場につめました。高架がどんどんできあがっていく光景は、いまでも強く印象に残っています。
――JR北海道発足後は、経営企画部長や財務部長、専務鉄道事業本部長などを務めました。6月の人事で、小池明夫前社長から後継を言い渡されたとき、どのような気持ちでしたか。
野島 2011年5月の石勝線脱線火災事故から、全社が一丸となって信頼回復に取り組んでいるときであり、北海道新幹線の開業も3年を切ったという時期でした。大変難しい状況の中で社長という大役を引き受けるということで、身の引き締まる思いがしました。
――社長になられてすぐの7月6日、特急北斗のエンジン付近から出火するという事故がありました。
野島 私が社長を引き継いで1カ月の間、とくに特急の車両トラブルが発生しています。ご利用いただいているお客さま、地域のみなさまに大変なご迷惑をおかけして、反省しています。
現在も一部の特急が運休していますので、夏のトップシーズンに万全な体制で列車を提供できないという意味で、観光関係の方々にも、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
――7月15日に特急スーパーおおぞらの配電盤からの出火事故がありました。翌日、社員向けにコメントを発表したと聞いています。
野島 7月に入り、連続して出火という事象が起きました。加えて、その間に国土交通副大臣から私に直接、注意がありました。
すぐに社員にも「JR北海道発足以来の最大の危機である。お客さまの安全を最優先に考え、取り組んでもらいたい」という思いから、コメントを出しました。
特急北斗の事故後、本社内では、私がそれぞれの部署ごとの朝礼に立ち会っています。お盆休みに入る前には、社員の気持ちを1つにしようと、当社の役員と部長クラスが今の状況をきちんと把握するため、全道の現場に入りました。
社員は、ここで(トラブルを)食い止めたいと、頑張ってくれています。鉄道の運行にはいろいろな系統の社員がかかわっていますので、全社一丸で安全な運行に努めてほしいと訴えています。

JR東日本と2つの意見交換会設置

――なぜ、JR北海道だけが突出して、事故が多く発生しているのでしょうか。
野島 当社はお客さまを少しでも速く、少しでも便利にしたいと、列車も新型車両をどんどん入れて、輸送を増やしてきました。当社の特急は、かなり速い速度で運行しています。また、冬期間の運行があるなど、他社より車両に負荷がかかっているのは確かです。
最近起きている事象を見ると、以前の故障に対する原因の究明が浅かったケース。あるいは、車両を計画的に補修していく体制が完全にできあがっていないところがありました。
これらの要因が積み重なってきたものが、車両故障という事象で出てきていると考えています。
一つひとつの事象は、それぞれ理由があって起きています。きちんと原因を究明して対策を打っていくことが必要だと思っています。
――車両整備のシステムが、事故多発の要因の1つと指摘する声もあります。
野島 車両整備の一部を外注化していますが、それが原因とは思っていません。外注といっても、われわれのグループ会社です。車両を保守点検して、安全な車両にするという意識は変わりません。
ただ、車両のメンテナンス体制について、見直すべきところがまだあるんだろうと感じています。石勝線の事故後に安全基本計画をつくりました。その中に10年間かけて車両の保守体制を確立しようと計画して、進めていたところでした。
――国交省は、JR東日本から車両整備の技術的な協力を受けるよう指示をしました。
野島 冨田哲郎JR東日本社長には、私からも協力をお願いしています。「われわれができることがあれば、協力します」という返事をいただいています。
現在、JR東日本とは、車両保守と安全運行管理体制の2つの意見交換会を設置する予定です。東日本からご意見をいただいて、当社のどのような部分が不足していたのかを考えていきます。
当社の特急は気動車(ディーゼル車)を中心に走らせています。トラブルが起きているのは、この気動車に集中しています。東日本さんは新幹線と電車が中心という体制ですが、ベースにある車両の保守計画、考え方は同じです。
――国鉄分割民営化から26年が経過しました。社員の年齢構成を見ると、働き盛りの40代の割合が極端に少なくなっています。
野島 民営化に移行する時にもう少し効率化を図ろうと、人員を削減し、採用をストップしました。その年代が今でいうと40代で、各現場で指導的な役割を果たす立場です。その年齢層がいないというひずみが生じているのは確かです。このような状況になることは、民営化直後からわかっていたことです。
いま、反省材料としては、もう少し計画的に技術の継承をやらなければいけなかったと思っています。まだ最後のベテランが残っています。今年から3年間、新入社員の数を増やします。
この間に多くの若い社員に技術の引き継ぎをおこないたいと考えています。
――この年齢構成と頻発する事故との因果関係はないのでしょうか。
野島 広い意味では、車両メンテナンスの技術力が落ちていることも、トラブルの要因の1つになっていると言えるかもしれません。
若い社員には経験がありません。ベテランの経験が車両整備を支えている部分があるのです。マニュアルだけでは対応できないこともあります。こうした経験に基づく技術を引き継ぐことが大切です。

覚醒剤逮捕は「信じられない」

――石勝線事故後、当時社長だった中島尚俊さんが、自ら命を絶ちました。その際、自宅に「社員の皆さんへ」と書かれた遺書を残しています。
中には「年間に日本の人口とほぼ等しい、1億3000万人の方にご利用いただいています。これだけ多くのお客様の尊い人命をお預かりしているという事実を認識し、『お客様の安全を最優先する』ということを、常に考える社員になっていただきたいと思っています」という文面がありました。

野島 この中島元社長の遺志は、私たち全社員一人ひとりが、きちんと肝に銘じなければいけないことだと思っています。私は先ほど申し上げた朝礼でも、中島元社長が残した書き置きを話題にした上で、「お客さまの安全最優先でしっかりやりましょう」と話しています。
――しかし、車両事故だけでなく、乗務員のミスも頻発しています。いまだに中島氏の遺志が社員全員には浸透していないと言わざるを得ません。
野島 覚醒剤を使用していた社員までいました。全社あげて安全運行に取り組もうとしている矢先に、極めて残念な話です。お客さま最優先という考え方が、完全に自分のものになっていない社員が、まだいるということだと思います。
――運転士が覚醒剤使用で逮捕されたのは7月30日でした。一報を聞いたときの心境は。
野島 この日の午後に警察から逮捕という発表がありました。知らせを聞いた瞬間は、もう、信じられなかったですね。そのひと言です。覚醒剤は人間としてやってはいけないことです。「なぜ、なんでそんなことをやっていたんだ」と。私だけではなく、役員、社員全員が同じ気持ちだったと思います。
――覚醒剤を使用した状況で運転していた可能性もあります。
野島 そこはまだわかりません。警察の方で調べていますので…。
――この不祥事発覚後、運転士1100人と個人面談をおこなっています。
野島 風邪薬も服用すると、眠くなったりするので、乗務前は注意しなければいけません。現場長が運転士に心身の健康状態を確認しています。

安全な北海道新幹線を運行させる

――現在のJR北海道は、道民からの信頼を失った状態です。
野島 当社が置かれている状況は、石勝線事故後よりも極めて深刻であると認識しています。「JR北海道はもう利用できない」という厳しいご批判も頂戴しています。JR北海道を信頼するかどうかは、お客さまが判断されることです。
当社はお客さまの安全を最優先に、社員一丸となって取り組み、この危機を乗り越えなければいけません。
われわれは安全をきちんと積み上げていき、当社が変わったと思っていただけるようにならなければならない。現下の状況で言えば、安全な鉄道をつくっていくということに尽きると思います。これはJR北海道のグループ会社も含めてひとつになり、それぞれの任された仕事をやり遂げていく。
そのとき、初めてお客さまが安心してご利用でき、それが信頼につながっていくということだと思います。
――北海道新幹線の開業まで3年を切りました。
野島 北海道新幹線では、JR北海道には2つの立場があります。1つは新幹線の建設工事は鉄道運輸機構がおこないますが、一部は当社が担当しています。工期内にしっかり終えなければいけません。
その後、開業した新幹線を運営するのは当社です。車両の用意、乗務員の養成をしっかりおこなっていきます。北海道新幹線の開業はゴールではなくスタートです。その後、どうやって効果を発揮するのか。地元のみなさんと協力して観光活性化の役に立てられるような準備もしていきます。
新幹線は道民のみなさんも待望しているものです。必ず安全な新幹線を運行させます。まずは、その言葉を道民のみなさんに信じてもらえる企業にならなければいけません。
――お忙しいところありがとうございました。

=ききて/前田圭佑=