【田中賢介・まだ見ぬ小学校へ】北海道新聞社・広瀬兼三氏と語る(後編)

 本誌連載「田中賢介 まだ見ぬ小学校へ」より記事を抜粋して紹介。立命館慶祥小学校の開校を目指す田中学園は授業で新聞を活用する――北海道新聞社と包括連携協定を締結。道新と共同で「MNI」教育に取り組む。広瀬兼三社長(収録当時、現会長)と新聞の可能性などについても語り合った。以下はその後編から。

正しく情報を扱い、発信する人材を育む

新聞を読むという習慣を家庭にも

 ――あらためて、連携内容を教えていただけますか。

 田中 今回の連携によって、情報を適切に取捨選択し、自らの考えをまとめ、発信できる人材の育成を目指す「MNI(Master of News & Information)」教育に取り組んでいきます。

 田中学園の授業には、道新が取り組んでいる国際的な教育運動「NIE(教育に新聞を)」を活用したものを取り入れる予定です。

 広瀬 共同開発していくカリキュラムの中で、当社の教育用記事データベース「まなbell(べる)」を活用します。もともと、国が推進する「GIGAスクール構想」をにらんで開発しました。遠くない将来、小中学生に1人1台ずつタブレットなどの情報端末を割り当てる時代がくるでしょう。

「まなbell」は学級や学年単位を想定し、同時に100人が利用可能です。検索した切り抜き記事に、アンダーラインを入れたり、書き込んだりもできます。

 NIEの取り組みでいうと、学力向上につながるという日本新聞協会の調査結果があります。学力テストでNIEの実践校は全国平均を上回っています。科目で顕著だったのは、やはり国語になります。とりわけ読解力で差がついています。このほか、新聞をとっている家庭の子どもたちの国語の学力が高いという調査結果もあります。

 田中 田中学園での授業を通じて、子どもたちは新聞に触れる機会が増えます。学力や読解力だけではなく、新聞を読む習慣がつくということにも期待しています。

 広瀬 今回の取り組みが、親世代にも波及できればとも考えています。

 田中 僕らの世代は、残念ですけど新聞を読まなくなっています。インターネットで簡単にいろいろ検索してしまいますからね。

 ただ、素人ながら、新聞にはまだ可能性があると感じています。新聞って、年齢によって、読む記事も変化しますよね。いまは関心がなくても、のちのち興味がわいてくるかもしれない情報がたくさん載っています。そこが面白いと思っています。

 読解力もそうですけど、間違いなく知識や教養につながります。そういうものが新聞には詰まっています。

 広瀬 たとえば、田中学園は「世界に挑戦する12歳」を学校目標に掲げています。世界というのは、さまざまな人間の多様性で成り立っている空間です。

 そこにこれから臨んでいく子どもたちが、自分の好きなことだけでは生きていけない。意見の違う相手を尊重しなくてはならない場合もあるでしょう。新聞の記事を通じて、「世界は多様性でできている」ということも学べます。

 ――ほかには、どのようなカリキュラムを?

 広瀬 新聞社には、政治、経済、芸術、音楽、スポーツなど、さまざまな分野の人的ネットワークがあります。そうした分野の第一線で活躍している人たちの“生の声”を、子どもたちに届けたいと思っています。

 ――広瀬社長からみて、田中学園設立をどのように感じていますか。

田中賢介氏(左)と広瀬兼三氏 ©財界さっぽろ

 広瀬 企業を興すのとはわけが違う。学校をつくる=子どもたちを育てる空間をつくるわけですからね。それが未来永劫続いていくわけです。

 教育現場は本当に大変だと思いますけど、田中学園を巣立った子どもたちがどんな大人になっていくのか、今から楽しみです。

 当社としても、田中学園のプロジェクトに携わることができて、ワクワクしています。65歳を過ぎている私から見ても、夢があふれていますよ。本来、教育というのはワクワクするような仕事なんじゃないかな。田中さんと話しているだけで、心が弾みます。

 田中 当学園としても、道新との連携によって、MNI教育がどういう形になり、子どもたちを成長させていけるのか、ワクワク感でいっぱいです。

 いま、道新をはじめ、多くの方々の協力を得ながら学校をつくりあげています。多くの方々が携わっていただいているからこそ、楽しみが大きくなるとも感じています。子どもたちが成長できる小学校を一緒につくっていく輪をもっともっと広げていけたらと思っています。

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