【特集・核のゴミ騒動―1】“ビジネスマン町長”片岡春雄(寿都町長)の功罪

 放射性廃棄物の最終処分場立地選定にともなう「文献調査」の検討を表明した、寿都町長の片岡春雄氏。目下、大騒動の最中だが、片岡氏は、まち自らがカネを稼ぐ手腕に定評のある“ビジネスマン”だ。風力発電を始めとするその“営業成績”をまとめた。

寿都町長の片岡春雄氏 ©財界さっぽろ

病院問題と風力発電をセットで推進

「片岡式ビジネス」――寿都町長の片岡春雄氏は、自ら推進する事業について、そう豪語する。

 片岡氏は1949年旭川市生まれ。専修大学卒業後、東京都内のインテリア卸会社など2社で3年半、営業マンとして勤務したが退職。

 その後、旭川に戻った片岡氏は、兄の知り合いだった当時の寿都町長の誘いで町職員に。その後は主に農政畑を歩み、2001年に当時の町長が死去すると、町長選へいち早く名乗りをあげた。

 選挙では対抗馬の元教育長より10歳若いことを前面に打ち出し、約300票の差を付けて初陣を飾った。その後は5期連続で当選を重ね、2期目から無投票が続いている。

 町長就任後、片岡氏がまず取り組んだのが、代名詞でもある風力発電事業だ。

 寿都町は89年、全国の自治体で初めて風力発電施設を町営事業として始めた。

 太平洋側の噴火湾から町の湾に「だし風」と呼ばれる強風が吹くことから、これに目を付けたものだ。

 当初は中学校で使う電力を自前でまかなうのが目的だったが、それ故に場所の制限があり、発電効率が悪く失敗。00年に運転を停止していた。

 片岡氏は町長就任後の02年に、あらためて3基の風車を設置した。

 本誌の取材に、片岡氏はこう答えている。
「町長になる直前、保健福祉課長時代に道立病院の町立移管問題を担当した。道は毎年4億円の赤字を出す病院を閉めて町に移管したいと、もう四半世紀は議論していた。自分はこれが、考えようによってはお金になると考えた」

 この当時、片岡氏は道立病院の移管を受け、町立診療所に転換した。その際、町民の声に応えて救急医療体制を整え、無床から有床に変更。その上で道と交渉し、医師やスタッフの確保と赤字補填などの財政支援を引き出したのだ。

「移管後も当初は1億~1億2000万円の赤字が予想されていた。この分を風力発電で儲けられないかと考え、セットで議会に諮った。対案がないなら賛成しろと。議会も渋々ながら承認してくれた」(片岡氏)

 風力発電はその後、稼働率によっては維持費などが上回り、赤字になることもあったが、増設を続けた。転機を迎えたのは11年の東日本大震災がきっかけだ。

 震災による福島第一原発の事故以後、再生可能エネルギーに注目が集まり、翌年には「再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)」ができた。

 当初、この制度は発電施設の新設に重点が置かれており、既存の発電施設は適用の対象外。片岡氏は道内でほかに再エネ施設を稼働させている首長とともに、国へ陳情し、制度の対象となることを認めさせた。

 現在、町内に11基ある風力発電施設は合計出力1万7000㌔㍗。これが年間7億円の売電収入を生む。

 現在は11億円以上の寄付を集めるふるさと納税とともに、まちの“主力事業”となっている。

 一方、片岡氏のワンマンぶりを指摘する声もある。

 前出の町立診療所への移管では、隣の島牧村との対立が表面化した。

 旧道立病院で受け入れていた島牧村の救急患者について、06年の診療所への移管後は、受け入れ分の負担金を村に求めたが、村側は拒否。町は村の急患受け入れを中止する事態となった。

 後に道の取りなしで受け入れを再開したが、片岡氏は、村との間に立った助役のクビを飛ばした。

「初当選の際に役場の票を取りまとめた腹心だったが、容赦なく切った。相容れない時はドライな一面がある」(地元関係者)

 稼いでいる一方“使いすぎている”という指摘もある。公共施設の建て替えなどを一度にやり過ぎたというのだ。

 片岡氏本人も「風力発電で7億円儲かったら、本当は半分は基金に回すなどしておけばいい。財政規模から言えば、一般会計で毎年50億円というのはやり過ぎと自分でも思う」と語る。

鈴木直道知事(右)と会談する片岡氏(2020年9月3日) ©財界さっぽろ

「のんきになんてしていられない」

「正直、自分のまちでもこの金額(交付金20億円)は魅力的だった。調査したら必ず、つくらなければいけないわけではないのだから。庁内で幹部に相談もしたが“絶対炎上しますよ”と言われて、思い留まった」

 道内のある自治体首長はこう明かす。

 寿都町が検討する放射性廃棄物最終処分場の選定は「文献調査」「概要調査」「精密調査」の3つのステップがある。

 文献調査は2年ほどかかり、その間最大20億円の電源立地地域対策交付金が自治体に交付される。

 概要調査は同じく4年ほどの期間おこなわれ、こちらは最大70億円。計90億円が交付されることになる。

 本誌別項に示した通り、自治体財政は人口減少や地方交付税の漸減で、総じて厳しい。道内で余裕があるのは、原発の固定資産税や交付金がある泊村だけ。片岡氏でなくとも、ノドから手が出るほどの金額だ。

「古い公共施設を1つ更新したら、国の補助金がついたとしても、しばらくほかの事業は我慢するしかない。このカネがあれば、いくつやりたいことができるだろうか、と思う」(前出自治体首長)

 片岡氏も「(話を聞いて)ちょっと“おいしすぎる”と思った」とした上で、こうも話す。

「(新型コロナウイルスの蔓延で)私の頭によぎったのは、02年の小泉政権下でおこなわれた三位一体改革。あの時は交付金が大きく削られましたけど、コロナ禍で今後、それ以上に地方に対する国の支出に大きな影響を与える可能性がある。ふるさと納税だってもし休止なんてされたら、これまでのまちの利益はすべて吹っ飛ぶ。お手上げです。私の残り任期はあと1年半。すっと身を引くのが一番楽ですが、私はのんきになんて、していられないんです」

 9月3日、知事の鈴木直道氏との会談が実現した。

 鈴木氏は会談で「北海道には核抜き条例があるのだから、核のゴミは持ち込まないように再考してほしい。拙速な判断はしないでいただきたい」と片岡氏に要望した。

 片岡氏は「核のゴミをいま受けますと話しているわけではありません。長い時間をかけて勉強しようと言っているのです。逆にすぐやめろという知事のほうが拙速ではないでしょうか」と反論。

 その上でこうも話す。

「調査に応募して得られる交付金は、国の予算です。知事がいろんな省庁から取っているお金と一緒です。北海道も泊原発の交付金をもらっています。なぜ寿都の交付金は汚い金になるのか。おかしいでしょう」

「私は寿都湾への洋上風力発電配備を推進しています。国は優先的に洋上風力を配備する「促進区域」の指定を進めていますが、今回の調査応募は、それと交換条件ではないかという見方があると聞いています」

「商売は貸し借りです。いろんなことが考えられるでしょう。ただ、本来であれば、道が昨年内の促進区域指定を目指していました。それが1年ずれ込み、たまたま今回のタイミングと重なったのです」

 片岡氏自身が語った文献調査応募の真意や、次期町長選挙に向けた覚悟については、2月24日公開のインタビューもご覧ください。

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