【特別掲載】インターハイ全道王者候補たちの「幻の夏」(後編)

 新型コロナウイルスはインターハイすら中止に追い込んだ。全道優勝候補と期待された部活の部員たち、そして指導者たちも落胆を隠せない。だが、インターハイに向けた努力は必ず報われるときがくる。月刊財界さっぽろ2020年9月号では各競技優勝候補の「幻の夏」を特集。8月20日更新の前編に続き、いくつかのエピソードを抜粋し紹介する。

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 札幌東豊高校レスリング部監督の大羅信夫氏は「ようやく少しだけ組み合う練習も始めました。ただ消毒は大変です。まだまだ以前のようにがっちりと組む普通の練習はできそうにありません」と話す。

 同部は道内屈指の強豪で、昨年の国体では少年男子フリースタイル80キロ級で米田侑太選手が5位に入賞している。今夏のインターハイでも5位以上、またはメダル獲得が期待されていた。

「春の全国選抜大会に続き、インターハイもなくなり、部員たちになんて声をかけていいのかわかりませんでした。大会が開かれる街に行って試合して、その後はその土地のおいしいものをいただくことが楽しみの一つでもありました。中止を伝えたとき、生徒は泣いていましたね。日ごろの練習をやりきったことを自信にしてほしいと伝えました」(大羅監督)

 旭川龍谷高校柔道部は昨年11月の選手権旭川支部予選で、旭川工業高校に惨敗を喫した。歴代最弱とも揶揄されたが、悔しさをバネに翌月の北北海道大会では見事優勝。全国への切符を手にした。

 顧問の葛西大樹氏は「中学段階で何の実績もなかった3年生たちは、本当によく頑張ってくれました」とねぎらう。

 恵庭南高校空手部は昨年のインターハイ男子団体組手で全国ベスト16まで勝ち上がった。敗れた相手はこの大会の優勝校。しかも大将戦まで持ち込み、僅差の負けだった。今年はこのときのメンバーも残っており、春の全国選抜大会、夏のインターハイで3位以上も狙える位置につけていた。

「夏の大会中止が決まったときは、特に3年生には声をかけられませんでした。彼らも頭ではわかっていますが、体はまだ戦いたがっています。練習を見れば手に取るようにわかります。一切手を抜かない。それから下級生に託す思いも出てきており、上級生としての成長を感じます」(同部顧問の南澤徹氏)

 全国最強の富良野高校少林寺拳法部の女子団体演武は今年、全国5連覇を狙っていた。だが全国高校選抜に続いてインターハイも中止に。塚田望生主将は「私の代でよかった。先輩後輩の代だったとしたら、もっとつらい」と仲間に語った。

富良野高校少林寺拳法部 ©財界さっぽろ

 昨年12月の選抜道予選女子団体演武で富良野に1点差で敗れた札幌北陵高校は夏にすべてをかけていた。単独演武では大槻夏鈴主将が難易度を上げ、2度目の全国優勝を目指していた。

「生徒に『この悔しさを人生に生かすことが大切』という話をしようと思いましたが、選手の気持ちを考えると、どうもうわべだけな言葉に感じられ、実際には残念だという話しかできませんでした」(同部顧問の金子房人氏)

 士別翔雲高校ウエイトリフティング部はまさに全国トップレベルの成績を残してきた。3年の羽田創選手(102キロ超級)は昨年、全国選抜大会、インターハイ、国体をすべて制し、高校3冠を達成。

 さらに2年の瀬川瑠奈選手(71キロ級)は昨年、1年ながらインターハイで全国優勝を果たし、今年2月にはアジアジュニア・ユース選手権大会に出場した。15~20歳のジュニア、13~17歳のユース、両部門で準優勝し、現在は日本協会の強化指定選手に選ばれ、2024年のパリ五輪出場を目指している。

士別翔雲高校ウエイトリフティング部 ©財界さっぽろ

「今年3月の全国選抜には4人の選手が出場する予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で大会は中止に。出場予定だった4人は全員、優勝または入賞できる選手です。新たに入部してきた1年生の伊藤柊哉は全国中学王者。主将で3年の丹翔琉もこの冬に力をつけてきました。実力あるメンバーがそろっており、インターハイでは『全国団体優勝』も狙っていました」(同部監督のの中川卓氏)

 インターハイに13年連続で出場しているのが南富良野高校カヌー部だ。

 顧問の金澤駿吾氏は「部の目標は全国大会優勝です。それに加えて、レスポンスをしっかりする。マイナスな発言をしない。常にカヌーのことを考える。笑う門には福来たる。というテーマも設けていました」と語る。

 3年の安西百々子選手は、小学生のころからカヌーとアルペンスキーの“二刀流”で体を鍛えてきた。日ごろの練習から集中力を切らさず、自ら道を切り開いていくことができる選手で、夏冬両方の競技で結果を出し続けてきた。

 努力を重ねたのは安西選手だけではない。部員全員が冬の間も、体幹トレーニングや最大酸素摂取量を向上させる練習に取り組んできた。

 金澤氏は「生徒たちには今後もカヌー競技を続けてほしいと声をかけました。秋ごろには北海道選手権がおこなわれる予定です。そこに照準を合わせ、3年間の集大成を発揮できるようにしていきたいです」と語る。

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