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Interview

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2009年8月30日国民はなぜ民主党に投票したのか
その原点に立ち戻れ
掲載号:2010年12月号

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山口 二郎 北海道大学教授

昨年8月、自民から民主へ劇的な政権交代が実現した。しかし、その後の政権運営は疑問符のつくことばかり。民主党の応援団を自認し、誰よりも強力に政権交代を訴えてきた山口二郎北海道大学教授が、この1年の民主党政権を総括する。

選挙から政権発足まで何をしていた

――衆院5区補選は町村信孝さんの完勝でした。
山口 結果そのものは、こういうことになるだろうと思っていました。やはり小林千代美さんの辞め方が悪 すぎた。民主党はクリーンで清新、自民党は古臭いという図式は崩れてしまった。町村さんが「クリーンな政治」というのも奇妙な感じがしますが、言われても 仕方がない状況を民主党がつくってしまいました。
――民主党政権のこの1年を振り返ってみると、やはり期待外れだったと言わざるを得ないと思います。
山口 1年を振り返るという話をするならば、最大の裏切りは、鳩山由紀夫さんがあまりにも早く総理を辞めたことでしょうね。
――いつごろから“変だぞ”と思い始めましたか。
山口 昨年の予算編成のころでしょうか。変だなというか、困ったなという感じがしましたね。民主党は政 権を取るまで4年も5年も準備をする時間があったはずで、自分たちが政権を取ったらこういうことをやるという議論をしていないほうがおかしい。にもかかわ らず、予算編成のころから党内の議論がぐちゃぐちゃになって、子ども手当の所得制限がどうしたとか、揮発油税の暫定税率をどうするとか、非常に重要な問題 について自分たちで決められない。最後は小沢一郎さんが出てきて決着をつけた。出だしでこんなことをやっていたのでは、もっと難しい問題が出てきたときに 対処できるのか、非常に不安になりました。
――鳩山さんのリーダーシップがなかった。
山口 言っても仕方ないことですけどね。それよりも8月30日に選挙があって、9月16日に鳩山政権が できた。その期間、一体何をしていたのか非常に疑問です。そこで鳩山政権の基本的な戦略を立てて、主要閣僚と党がきっちり共有すべきでした。ほかの国の政 権交代はそういうことをやっているわけです。
――その後、小沢さんのカネの問題も再燃しました。
山口 年明け、通常国会が始まってから、小沢さんの問題もあって議論が尽くされない。自民党政権時代とまったく同じというか、それ以下の国会。まったく期待外れでした。
――2010年度予算、この財政難に95兆円などという概算要求に対し、鳩山政権はさして削れもせず、92兆円という過去最大の予算を組みました。
山口 それは当然だと思いますよ。非常に厳しい経済状況で、景気対策という側面もなければいけないし、子ども手当をはじめとして民主党の政策を実現しようとすればお金がかかるわけですから。問題は歳入のほうです。
i11――しかし、国民は予算の組み替えである程度は対応するのだろうと思っていた。それがまったくされずに終わりました。
山口 予算の組み替えは野党時代だったから言えたというところもある。“ウソも方便”と是認するわけにもいかないけれども、野党のときに考えた財源論と、実際に政権をとって現実に直面した財源論は多少違ってくるのは当然なんで、そのへんは正直に言ったほうがいいでしょうね。
もちろん組み替えは必要です。事業仕分けをやって、特別会計の、いわゆる埋蔵金を出させるということはしたほうがいいけれども、それで経常的な財源が確保できるという代物ではない。
ですから参院選のときに菅直人首相が消費税論を出してきたというのは正直な話なんです。あれは間違っているとは思わない。ただ、政治の世界であのやり方は、拙劣というか稚拙な話です。
――陳情を幹事長室に一元化ということもあった。
山口 あれは小沢さんの悪いところでしたね。今回の政権交代の目的は何だったのか。自民党をただ追い出 して、永田町、霞が関の権力構造を乗っ取るという政権交代なのか。自民党や官僚には絶対できなかったようなことを民主党だから実行するという政権交代なの か。前者の乗っ取り型だと小沢さんの政権交代ですよ。幹事長室に陳情を一元化して、金がほしけりゃ頭を下げてこいみたいな。もう1つびっくりしたのが、個 所付けの情報を地方組織を通して流すというやり方。これは自民党と同じどころか、もっと下品。えげつないやり方です。
本来の政権交代は政治システムの刷新です。情報公開とか事業仕分けとか。政策面でいえば子ども手当とか。民主党だからできたこともあるから、それはよかったとは思います。しかし、単に権力を乗っ取ったというだけの政権交代が前面に出てきてしまった。

聞くべき声を間違っている民主政権

――ずっと応援してきた立場からすると忸怩(じくじ)たるものがあるのでは。
山口 正直、こんなはずではなかった、とは思いますよ。もう少しいろんなことができただろうになと。 結局、自分たちが政権をとったら、こういう日本をつくるという基本的な方向性とか理念が共有できていなかった。いろんな人がいろんなことを言って収拾不能 になってしまったのだと思います。
他方で、50年以上自民党と官僚が築いてきた政治や行政の仕組みが、たった1回の政権交代でスパッと変わるほど世の中、単純ではない。非常に頼りない政 権の姿を国民は見せられていますが、こういう形で試行錯誤していくしかないんだろうなと、自らに言い聞かせているところです。
i12 ――いま民主党には何が必要だと思いますか。
山口 やはり昨年の8月30日を思い出せと言いたい。なぜあのとき国民は民主党に投票したのか。いま の菅政権を見ていて、あの日、投票した人の思いはまったく聞いていない。およそ民主党には投票したこともないし、政権交代なんか起きてほしくないという人 の声を聞こうとしている。法人税の減税なんかその典型。ポピュリズムの罠にはまっているところがある。
――抜け出すためには。
山口 民意にそった政治をするのが民主主義ですから本来、民主党政権をつくった人たちの思いを受け止 めなければいけない。その部分がまだまだ不十分。他方で、むしろ民意とある程度距離をおくという部分もないとポピュリズムになってしまう。たとえば、中国 に対してとにかく強硬姿勢を示せばいいみたいな民意。そういう単純な民意には従ってはいけない。外交というのはそういうものではありません。検察審査会が 小沢一郎を起訴したから、議員辞職だという民意にも従う必要がないと思います。あれは検察官と違う判断を審査会がしたというだけの話で、有罪と決まったわ けでもない。
民意というのは時として暴走するし、単純なもの。そういうものをいちいち気にしていたら、政治なんてできません。これはこうなんだという、政治家自身が 何かを言わなければならない場面がある。世論調査をしたら必ずしも多数ではないかもしれないけど、自分たちとしてはこういう信念で、こういう価値観でやっ ているんだという、問いかけ、説得の態度というのが必要です。
――そんなものは聞いたことがありません。政治家の資質の問題でしょうか。
山口 それは言っても仕方がない。国民が政治家を鍛えていくしかない。
――国民も短気になりすぎている。
山口 あまり悠長なことも言っていられないですが、いったん選んだら3年4年我慢して見守るっていうくらいの、こらえ性は必要でしょうね。

いま必要なものは中期的なビジョン

――国民が8月30日に期待したものは何だと思いますか。
山口 1つは民主主義ですよ。透明性を高める。まさに民主党が言ってきたように、官僚の特権を排除し て公正公平な世の中にしていくということ。もう1つは、小泉流構造改革がもたらしたさまざまな問題を是正することだと思います。貧困問題、地方の疲弊、若 者の雇用の問題、医療・介護の問題。民主党が政権を取ったらそこをきちんと立て直すというイメージがあったはずです。
――今回の予算でそれが見えなければ、何ら理念がなかったことがはっきりするということですね。11年度予算は92兆円を超えないみたいな話をしています。
山口 予算こそ政策が現れるわけで、民主党の政策とは何かが問われています。今年度の予算こそ最初か ら描けるわけです。それなのに各省が出してきた予算で、概算からあふれるものは特別枠などと言って、人気投票のような形で決めようなどというのは非常に無 責任な話で、政党の体をなしていない。
いま必要なことは中期的な国なり社会なりのビジョンですよ。菅さんが選挙で負けたから税金の話はやめましたが、続けないといけない。私は基本的に、いま 民主党が出してきている現金給付を基本とした生活サポートの路線は支持する立場ですが、それにしても財源をどうするかということは、これからきちんと議論 していかないといけない。逃げちゃダメです。党でも政府でも議論はこれからするとは思いますが、まずこういう社会をつくるというゴールを明らかにする。そ れに向かっていく手段も明示し、そのためにはどの程度の負担が国民に必要なのか、所得税はこう、相続税はこう、消費税はこうと具体的に示さないといけな い。
――政界再編は。
山口 私はないと思います。たとえ民主党政権に不満があっても、次の総選挙で振子が逆に振れるかというと、そうでもない。みんなの党のようなところが全国的な第3極になる可能性も低いと思います。

=ききて/鈴木正紀=