Jリーグ次期チェアマン内定、コンサドーレ会長・野々村芳和氏が語るサポーターへの感謝と決意

 1月31日、Jリーグは3月で任期満了となる村井満氏に代わり、次期チェアマンに北海道コンサドーレ札幌運営会社会長の野々村芳和氏が内定したことを公表した。

 村井氏が4期8年で任期満了となることを受けた次期チェアマン選考は、2020年9月から同リーグ法務委員長で弁護士の野宮拓氏をトップとする役員候補者選考委員会が立ち上げられ検討を開始。アドバイザーとして、外資系コンサルティング会社のコーン・フェリー・ジャパンを起用し、村井氏以下現理事らが関与しない形で選考が進められてきた。

 31日の理事会後記者会見で選考委トップの野宮氏が説明したところでは、昨年3月に160人程度がリストアップされた後、選考委の討議を経て10数人ほどに絞り込まれた。それまでは野々村氏も選考委員の1人に名を連ねていたが、絞り込みの時点で外れた。

 その後、複数回の面接などを経て9月中旬に野々村氏が次期チェアマンに内定。同時期に進められていた常勤理事のメンバーについては、野々村氏の意向も反映させた上で決定した。

 今回の選考では、昨年11月初旬にスポーツ紙の報道で楽天ゴールデンイーグルス元社長の島田亨氏の名前が浮上。同記事中では野々村氏とJリーグ専務理事の木村正明氏も候補に残っているとされていたが、この時点で野々村氏に内定が出ていたことになる。

「野々村氏の内定は、9月の段階ではごくわずかな関係者しか知らなかった。その後次第に噂が広まっていったが、野々村氏ではない人を推す一部の関係者が“巻き返し”を図ろうとしている、といった噂が流れた。11月の報道は逆にその動きを停めようという側の動きの一端だった」(事情通)

 常勤理事などほかの選考対象者に内々定が出たのは昨年12月中旬。巻き返すならこのあたりまでだったということだろう。月刊財界さっぽろ本誌でも複数の関係者から情報を得て、チェアマンが野々村氏で固まったことを報じた。

 31日の会見で野宮氏は、野々村氏を選出した理由として「Jリーグの経営課題に取り組むチェアマンに求められる要件をおおむね有しており、フットボールの強化、フットボール視点での事業の成長の両方を追求してJリーグの価値が最大化を図ることが期待できる最良の候補者」と説明。

 その上で「クラブを成長させた能力、経験とJリーガーとしての選手経験、Jリーグ実行委員、理事としての経験を合わせ持ち、フットボールをリーグ運営の基軸に置くという方針を明確に持つ。さらに組織内外への効果的なコミュニケーション能力と説得力、経営トップとしての勇気ある決断力等を併せ持ち、高いリーダーシップを発揮すると期待されます。フットボールの魅力を高める新たなビジョンを示し、現場感覚を持った実効性の高い変革をフットボールと事業の両面で実現できる」とした。

オンラインで行われた記者会見で“2ショット”に収まる現チェアマンの村井満氏(左)と次期チェアマン内定の野々村芳和氏(スクリーンショット) ©財界さっぽろ

 現チェアマンの村井氏は、野々村氏について「新型コロナウイルス禍が広がる前の一昨年2月22日、柏レイソルとコンサドーレの試合を観戦した後、駐車場で野々村さんの車の中でコロナの対応をどうするかと1、2時間じっくり話をした。それがその後の4カ月中断につながった。洞察や将来の展望に対する見識の高さを再認識した。30周年を迎えるにふさわしい新たなチェアマンですし、野々村さんらしい大改革を歓迎しますし心から応援します」とエール。

 続いて野々村氏は「いま49歳ですが、これまで40年以上、サッカーと一緒に生きてきました。サッカー少年の気持ち、プロの選手になった気持ち、メディアに出演してサッカーを伝える気持ち、そしてクラブ社長としての気持ち。それぞれの時代に感じた気持ちを大切に、より良いリーグにしていけたらいい」と挨拶。

 競争力強化やサッカーの魅力向上といった経営課題については「より多くの人たちにどうやって日本のサッカー、Jリーグを届けるかという課題はリーグ創設から30年経ってもそう変わっていない。ビジネスという点では(村井氏がチェアマンだった8年間で)進歩してきている。(自分としては)もう1回フットボールに基軸を置いていく」と述べた。

 その上で「僕にとってサッカーは1つの“作品”。試合の質も大事であるけど、スタジアムの機能やクラブが行うイベントなども含めて『あのスタジアムに行きたいな』というもの。何よりもサポーターの人たちがつくってくれる熱量、雰囲気が相まってサッカーという作品ができると思う。より良いサッカーの作品を全国の60近いクラブで毎週提供していくという、当たり前のところをもう1回各クラブのスタッフ、選手、監督と意識しながらやっていく。それがいろいろなことを決めていく上でもっとも大事な基軸になっていく。そして、その作品をどうやったら多くの人に伝えられるかというところも一番ポイントにして進めていきたい」と今後の方針にも触れた。

 またJリーグの会見終了後、道内メディア向けにもオンライン取材に対応。財界さっぽろ2022年2月号で本誌記者に語っていた通り、次期チェアマンに内定していながらも、自身の口から話せなかったことについて「選手にもはっきり伝えることができず、苦しい時間を過ごしてきた。できる範囲でやってきたが、迷惑をかけたところがあれば申し訳ない」と吐露した。

 今年1月に強化担当でゼネラル・マネジャーの三上大勝氏が代表取締役となり、自身は会長へ退いたこともそうした準備の一環だが、コンサの会長職は間もなく退任の方向。時期については「リーグ側とも話をしているが、まだこれからで決まっていない」と述べるに留めた。

 今後は三上氏がチーム強化だけでなく経営の中心となって舵取りをしていくことになるが「コンサドーレは上手くいかなくてもはい上がっていくことを一番多く経験しているクラブ。まだ上にはいくつかのクラブがあるけど、どういうことがあっても乗り越えていく力がある」とエールを送った。

 その上で「今の自分があるのは多くの人たちが仲間になってくれたのがすべて。コンサを気にかけてくれる方々の力で少しコンサは良くなった。それが評価されたとするならみなさんのおかげです。その立場に置いてくれた石水勲さん(石屋製菓名誉会長、コンサドーレ元会長・最高顧問、昨年9月26日死去)にはしっかり話そうとした矢先に亡くなられたのが残念ですが、感謝するところは大きいです」と語った。

 なおオンライン取材の合間には、三上氏、小野伸二選手、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督らが会見に“乱入”。事前に聞かされていなかったようで、思わぬサプライズに笑顔の野々村氏だった。

道内メディア向けの会見最中に三上大勝ゼネラル・マネジャー(左から2番目)やミハイロ・ペトロヴィッチ監督(右)が“乱入”(スクリーンショット) ©財界さっぽろ

 今後、3月15日のJリーグ定時総会および理事会で正式に就任が決まる野々村氏。続くコロナ禍、アジアサッカー協会による日本代表出場大会等のスケジュール変更など、山積する課題にどう対応するのかに注目だ。