世界で活躍するデザイナー・相澤陽介氏がコンサドーレ新ユ二で感じた“緊張感”(対談前編)

 J1リーグ・カップ戦で激闘を繰り広げている北海道コンサドーレ札幌の選手たち。今シーズンから彼らが袖を通しているユニホームは、新サプライヤー・ミズノが供給したもの。そのデザインを手がけたのが、2019年からクラブのクリエイティブ・ディレクター(CD)に就任した相澤陽介氏だ。

 相澤氏は1977年埼玉県出身。多摩美術大学染織デザイン科卒業後、コムデギャルソンを経て06年に自身の手がけるブランド「ホワイトマウンテニアリング」をスタートさせた。

 パリ・メンズコレクションを始め自身のブランドでの活動のほか、これまでにモンクレールやバートンスノーボード、バブアービーコン・ヘリテージ、アディダス・オリジナルスなど、さまざまなブランドとのコラボレーションを展開。また12年のロンドン五輪では、日本選手団のウォームアップウェアを手がけた。さらに近年はヤマト運輸やトヨタグループのユニフォームをデザインするなど、活動は多岐に渡っている。現在は母校・多摩美大の客員教授としても後進の育成にも力を注いでいる。

 4月15日に発売された月刊財界さっぽろ2021年5月号では、コンサOB・砂川誠氏による好評連載「コンサの深層」に相澤氏が登場。4月3日にオンラインで実施した対談では、クリエイティブ・ディレクター就任のきっかけや、自身とサッカーとのかかわりなどについて語った。

 自身のデザインしたユニホームを纏って戦う選手たちの姿に「パリコレクションで自分のショーを確認するのと同じ気持ちで興奮しています」とも話した相澤氏との対談について、誌面に載せられなかった部分を特別掲載する。以下、内容は取材当時のもの。

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 砂川 新ユニホームのデザインはどういった形で進行したのですか?

 相澤 もともとCDに就任する際からユニのデザインを手がけたいと考えていましたが、実際に始めてみると、思った以上にやるべきことが多く、驚きましたね。

 1st・2nd・3rdと3パターンあり、GKも別途で3パターン。トップスだけではなくパンツとソックスも含めた下半身のデザインも必要ですよね。

 そして、それを踏まえた上でチャレンジ、つまり「こういうデザインは今までJリーグのクラブで見たこと無いよね」といったものをデザインとして出していくわけですから、デザイン単体で考えると、クラブ側にまず提案するだけで15~20パターンはつくったと思います。

 砂川 サプライヤーであるミズノではなく、相澤さんが主導してデザインした、という点が画期的でした。とくに2ndはミズノのランバードマークや石屋製菓などのパートナー企業ロゴも含めてカラーリングが統一されています。

 相澤 どのパートナー企業のロゴがどの位置に入るか、が決まる前からデザインが進むのが通常です。途中からそれが決まるとまたデザインのし直し、ということで新たなパターンをつくる必要もある。ですから、今回はロゴありきでデザインをしていて、2ndユニのカラーリングだけでなく、1stの縦じまは、ランバードのマークやチームエンブレムの幅と合わせてあります。1stはクラシックですが、もっとも綺麗にロゴが映えていくものをと考えてつくりました。

 その意味で、セカンドユニフォームの黒に対して、赤いパートナーシップ企業のロゴを入れさせてもらったのは画期的だったかもしれません。ミズノさんには、契約初年度からコーポレートカラーを変えてまで協力していただいたのは有り難かったですし、石屋製菓さんやほかのパートナー企業さんも同じく自分の案を受け入れていただいて感謝しています。

2020年12月に発表された今シーズンの新ユニフォーム ©財界さっぽろ

 砂川 クラブ主導でデザインされたユニって、記念ユニホームのようなもの以外では、なかなか例がないと思います。

 相澤 自分もブランドを持って自分の服をつくっているメーカー側の立場ですから、デザインを外部にというのはそれだけで難しいものだと思います。

 今回、ミズノさんとの交渉では野々村さん(野々村芳和社長)と一緒に参加をして話をしたのですが、野々村さんからも「相澤にやってもらいたい」という思いを伝えていただきましたし、クラブとしても、グッズの売り上げを増やしていく中で、ユニホームというのは割合が非常に大きいもの。その意味で、新しいサプライヤーを迎えた上に、デザインも含めて丸投げしてしまうと、サポーターになかなか受け入れて貰えないのではないかという危惧がありました。

 砂川 サポーターは、前サプライヤーのKappaに対する愛着が強いですからね。

 相澤 その通りです。だからこそ野々村さん以下クラブとしても僕としても、そういったサポーターの思いに応えたものをつくりたかったということです。実際の作業では、ロンドン五輪の日本選手団公式ウェアを手がけた時に、ミズノさんと一緒に仕事をしていたことも仕事を進める上での手助けになりました。

 砂川 自分も選手時代から、ユニに対する意見を目にすることがありますけど、サポーターの思いにどう応えるかは難しいですよね。

 相澤 コンサに限らず、ヨーロッパのクラブを見ていても、ユニのデザインが悪いとハッキリ叩かれますから。「これってウチっぽくない」とか「ダサい」と。僕自身、コンサというクラブに対する強い愛情を持ってやっているので、サポーターのそういう心情も理解しているわけです。ですから、自分でデザインすることに対しては“緊張感”がありました。

 たとえば、日本代表DFの冨安健洋選手がいるセリエAのボローニャは、ネイビーと赤の縦じまですが、そのラインがすごい太い。コンサの縦じまであれをやると、サポーターからは不評だろうな、といったネガティブチェックはかなりしましたね。

 サポーターの思いを代弁しないといけない、という気持ちを踏まえつつ、デザイナーとしてのエゴも出さないといけない。でもエゴだけでは絶対に成り立たない。サポーターに受け入れられないものをつくっても仕方がないですから。

 砂川 赤黒のラインには、かなり強いこだわりがありますよね。

 相澤 このくらいがいい、という目安はあっても、毎年同じだとダメでしょうし。パートナー企業ロゴとの相性も非常に重要で、通常、デザインを始める時はロゴが入らない状態でやりますが、今シーズンについては、ロゴありきで考え始めました。たとえば、クラブのエンブレムとミズノさんのランバードのマークは赤黒のラインにかからないように入れています。

 砂川 さまざまなハードルを越えて完成したユニについて、実際の反応はいかがでしたか。

 相澤 僕自身、それとクラブを通じていただいた反応としては、ポジティブに受け入れていただいていると思っています。来シーズン以降に向けて、さらにいろいろなことにチャレンジできるのか、ということの確認にもなりましたね。

 砂川 ご自身のデザインされたユニを着て選手がプレーし、サポーターが応援してくれている、というのは、どういった感覚ですか?

 相澤 極端なことを言えば、僕が参加しているパリコレクションの映像を見るのと同じくらい興奮してみています。

 砂川 それはすごい(笑)

 相澤 先日のサガン鳥栖戦(3月27日・ルヴァンカップ第2節)では選手たちが2ndユニを着ていましたけど、それを見た時に初めて、自分が狙っていたものが自分の思っていた形になった、と思ったんです。

「赤と黒の戦士になる」というのが自分の中でのコンセプトでしたが、当初狙っていたことと、デザインを始めた時から先ほど話したロゴの話なども含めて積み重ねてきたことが、選手が集まったり躍動したりという姿を実際に見てやっと合致したことを確認できた。こんなうれしいことはないですよ。

 砂川 アカデミーの子たちは別のデザインのユニですけど、彼らにとってのトップチームが、ユニの面からも憧れになってほしいですね。「あのユニを着てプレーしたい」って。同じ年代のころの僕自身もそう思っていましたから。

 相澤 僕の下の子どもが双子で、いま小学校4年生ですが、僕と同じくサッカーを見るのはすごく好きなんです。僕が試合を見ていると、その横で「このチームのユニがカッコいい」とかいう話を双子同士でし始めるんです(笑)。僕の影響もあるとは思いますが、選手、サポーターだけでなく、アカデミーの子たちも含めてカッコいいと思ってもらえたらと思いますし、僕のモチベーションにもつながっていきます。

 こうしてコンサと仕事をしていく上で、来年はどんなユニになるのか、2ndユニはどんなチャレンジをしてくるのかという楽しみを持ってもらえたらうれしいですね。それも新たなサッカーの楽しみ方の提案ですし、そういったことに僕は責任を負ってやっていますから。

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 このほか月刊財界さっぽろ2021年5月号連載「コンサの深層」では、コンサのクリエイティブ・ディレクターに就任したきっかけ、サッカー文化を北海道・札幌へ根付かせるための方策などについて、相澤氏が実体験などをもとに語っている。

 5月号は北海道内書店・コンビニエンスストアおよび当社オンラインショップ、オンライン書店等で発売中だ。

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