【特集・核のゴミ騒動―3】鈴木知事、メディア、反対派…調査名乗りに困惑する人々

 文献調査の応募という強烈な“一石”は、道内外にさざ波では済まないうねりを及ぼしている。困惑する者、静観する者、対抗する者……関係各所の影響を調べた。

鈴木直道知事 ©財界さっぽろ

核抜き条例を盾に鈴木直道“前のめり反対”

 IR誘致見送り、緊急事態宣言の発出、これまで鈴木直道知事が“独断”で下した案件について、結果、判断は正しかった。今回の核のゴミ騒動ではどうだったか。

 まず今回の騒動が浮上した直後、鈴木知事はすぐさま“NO”と表明。道の「核抜き条例」を盾に、かたくなに主張し続けている。

 鈴木知事はコロナ禍で北海道独自の緊急事態宣言を出した際、迅速な対応に決断力あるリーダーとして、全国的に高い評価を得た。

「核のゴミ騒動については、まだ第一ステップにあたる文献調査の段階。にもかかわらず、鈴木知事は『議論する余地もない』という姿勢だ。知事は人気を気にしているところがある。IR誘致見送りも、反対派の意見のほうが多かったことが一因とされる。原発対応は、それ以上にナイーブな問題だ」(道議会関係者)

 9月3日におこなわれた鈴木知事と片岡町長の初会談は、フルオープンだった。

「知事側としては、本人が反対する姿勢をマスコミに報道させようとしたのではないか」(メディア関係者)

 実際の会談では鈴木知事の姿勢はややトーンダウン。前日に開かれた道議会特別委員会で与党の自民党から反対姿勢を追及されたことに対する配慮とみられる。

「核抜き条例は、道の姿勢の宣言で現実的な効力はない。一方で自民党政権は核のゴミの最終処分場問題は推進の立ち場だ。そのことについて、知事はどう考えているのか。8日からの道議会3例で追及することになるだろう」と自民関係者は語る。 

便利のいい立地とはいえない寿都町と札幌を連日往復(写真はイメージです) ©財界さっぽろ

片道3時間、メディアはとんぼ返りの毎日

「寿都町内に宿泊施設は少なく、近隣町村の宿に泊まるにしても、微妙に遠い。泊まりで取材しているメディアはまれで、大半は札幌から片道3時間かけて寿都町に通っています」(報道関係者)

 寿都町が核のゴミ最終処分場選定調査に応募を検討していることが判明してから、道内メディアは毎日この問題を取り上げている。

 町内にはアンケート結果を書き込む紙を挟んだバインダーを持ちながら、たたずむ記者の姿も見られた。

 町役場2階の会議室には毎日のように、調査応募に抗議、または慎重な対応を求める近隣自治体の首長や団体などが訪れ、その度にメディアも殺到する。

 あるマスコミ関係者は「町の産業団体と意見交換会がおこなわれた日は、30人以上の報道陣が集まった。町長が結論を出すまで、とんぼ返りの日々は続くでしょう」と話す。

寿都町・神恵内村を含む後志管内が選挙区の中村裕之氏 ©財界さっぽろ

地元選出・中村裕之(自民党衆院議員)は“静観の構え”

 寿都町の片岡春雄町長が、最終処分場選定調査への応募の検討を表明したことについて、多くの関係者は「寝耳に水だった」と驚いた。

「片岡さんは昔から国とのやりとりも、政治家などを通じてではなく、直接自ら、おこなうタイプだ」(行政関係者)という。

 寿都は後志管内にあり、衆院選の道4区内にあたる。地元選出の自民党代議士は中村裕之氏だ。その中村氏も、「町が国の担当者を招いたエネルギーに関する勉強会などを開いていたことは把握していたようだ」(地元関係者)が、片岡町長から事前の相談などを受けてはいなかったようだ。

 今回の核のゴミ騒動は一気に注目度が高まり、次期衆院選では争点にもなりかねない。「最終処分場問題は政府の政策であるものの、核反対派を刺激しないためにも、うかつな発言は許されない。中村氏は周囲に『動向を“見守る”』と語っているそうです」と自民党関係者は語る。

吉野商店 ©財界さっぽろ

反対派の急先鋒・吉野商店の意外な評判

 核のゴミ問題で反対派の“急先鋒”としてメディアの取材にたびたび応じているのが、寿都町随一の人気飲食店として知られる「マルトシ吉野商店」社長の吉野寿彦氏だ。

「吉野商店」は1952年創業。水産加工品の製造、販売をおこなう。海鮮食堂ではカキの食べ放題などを提供しており、多くの観光客が訪れる人気店だ。

 今年5月、町民から驚きの声が上がったという。

「新型コロナの感染者が出るのを恐れ、ほかの店が休業する中、ゴールデンウィークに観光客相手に店を開けていました。商工会の理事を務めているが、会合はほとんど欠席している。地元の有力者たちとの関係は希薄」(地元関係者)

 昨年はカキの殻の扱いをめぐり、一悶着あった。

 カキの殻は本来、産業廃棄物として処分する必要がある。ところが、吉野商店は店の駐車場に砕いてばらまいていたという。その報告を受けた同町と後志総合振興局の職員から行政指導を受け、すぐに撤去した。

 吉野氏は「砂利の代わりにカキの殻で舗装しました。海沿いの田舎町ならよくあることです。カキ殻は産廃業者ではなく、農家など土壌改良に必要とする人に譲っています。GW中の営業は町の経済を考えてのことです。カキの殻を捨てるのは大したことではないですが、核のゴミは絶対にダメです」と説明した。