【全文公開+α】帯広畜産大学内に“教育施設” 上川大雪酒造の目指す“地方創生蔵メソッド”

三重県から酒造免許を移転するという前代未聞の経緯を経て誕生した「上川大雪酒造」。同蔵は帯広畜産大学構内で〝教育施設〟として2つめの蔵「碧雲蔵」を建設、酒造りをおこなう日本初の試みを始めた。今年6月から始まった試験醸造は、7月1日に無事初しぼりがおこなわれた。

月刊財界さっぽろ2020年2月号(2020年1月14日発売)では、同社社長の塚原敏夫氏が目指す、酒蔵を起点とした地方創生の手法を解説した。以下に全文を掲載し、補足情報を追記した。なお、記事の内容は掲載当時のもの。

上川大雪酒造社長の塚原敏夫氏 ©財界さっぽろ

日本酒造りの担い手も育成する

「『碧雲蔵』と名前をつけさせていただきました」

昨年11月、上川町内のレストラン「フラテッロ・ディ・ミクニ」でおこなわれた発表会。帯広畜産大学学長の奥田潔氏は、大学の構内に新設される酒蔵の名称を、かつて同大にあった学生寮「碧雲寮」から取ったことを明かした。

昨年11月から「上川大雪酒造」(上川町)のグループ会社が出資する新会社「十勝緑丘」が、同大の構内約6000平方メートルの敷地内に、醸造施設棟とショールームを併設するセミナー棟の2棟を建設。今年5月に竣工した。大学構内の酒蔵で日本酒を醸造、販売するのは日本初の試みという。すでに6月から試験醸造を開始し7月1日に初しぼりがおこなわれた。本格醸造は今秋からの予定だ。

酒蔵は教育施設として、発酵学の研究にも活用。道内の大学には日本酒醸造を学ぶ専門科がないため、将来的には道内で酒造りの担い手を育成する構想という。

酒蔵は観光客が自由に来館でき、醸造工程を見学室などから見られるよう整備する。また十勝緑丘の転換社債を引き受ける形で出資し、地域活性化で連携する「北海道コカ・コーラボトリング」(札幌市)を通じ、同社の親会社・大日本印刷の最新の技術を活用して、酒造りを実感できるような設備も検討する。

同大は2022年4月に小樽商科大学、北見工業大学との経営統合という、大きな転換期を迎えている。上川大雪酒造社長で、十勝緑丘の社長も兼務する塚原敏夫氏は小樽商大卒。同じく転換社債を引き受けた「いちまるホールディングス」(帯広市)社長の加藤祐功氏も小樽商大出身だ。

塚原氏は「醸造量は上川の蔵と同程度になる見込みで、個人向けの四合瓶だけでなく、飲食店向けの一升瓶の製造も考えています。この取り組みが3大学の強みを生かした、6次産業化による地方創生のモデルケースになれば」と意気込みを語る。

クラウドファンディングサイト「Makuake」でおこなっている碧雲蔵支援プロジェクト ©財界さっぽろ

酒蔵から派生するものを生かす

17年設立の上川大雪酒造は、道内産米と大雪山系の水による酒づくりにこだわる、純米酒100%の酒蔵として、本格的に醸造を開始してから3年目。18年度の札幌国税局主催日本酒鑑評会の純米酒部門で金賞を受賞したほか、日本航空の国内線ファーストクラスで短期間に2度も提供されるなど、品質はすでに高い評価を受けている。

日本酒業界はここ30年で蔵元がほぼ半減し、残る蔵も3割以上が赤字という状況。その中で塚原氏が目指すのは「地方創生蔵」だ。

塚原氏は上川大雪酒造の設立前から、フランス料理シェフ・三國清三氏の関連会社役員として、上川町内のレストラン「フラテッロ・ディ・ミクニ」の運営を手がけていた。

同店は、大雪山系の自然や層雲峡温泉などの地域資源を生かすために町が整備した「大雪森のガーデン」内にある。夏に比べて厳しい冬の集客についての方策を練っている中、知人と再会した際に、知人の家業である酒蔵の操業休止を聞いたことから、上川の自然を生かした酒造りを思い立った。酒蔵の経営については素人だったが、過去に例のない酒造免許の移転や、小樽商大人脈を活用した資金集めを成功させ、蔵の設立にこぎ着けた。

町内への誘客が立脚点ということから、年に四合瓶で約12万本という醸造量のうち2割を地元限定酒「神川」として販売。アウトドアメーカー「スノーピーク」(新潟県三条市)と町との3者提携や、醸造後の酒粕を使った商品の販売など、酒蔵と酒蔵のある地域で考えられるもの、生成されるものをどんどん活用していった。帯畜大での取り組みも、こうした酒蔵を中心とする〝地域創生メソッド〟をアレンジしたものだ。

塚原氏は「上川の蔵を視察に訪れる方は本当に多く、その中からわれわれの取り組みに共感した自治体などから、お声がけをいただくことが増えています。すでに道外の複数の地域からお話をいただいています。酒蔵を起点として地域に足を運んでもらい、地域活性化のお手伝いを今後もしていきたいと考えています」と語っている。

なお「碧雲蔵」は5月から、試験醸造酒6種類を応援購入できるクラウドファンディング(CF)を支援サイト「マクアケ」で実施。開始から約30分で目標額100万円を突破し、7月17日までの期間に2966万7400円を集め、同サイトで実施された日本酒のCFとして歴代1位の記録を更新した。

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