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吉見 宏 ◎北海道大学大学院経済学研究院教授
取材日:2019年6月

写真大 よしみ・ひろし 1961年生まれ。九州大学大学院経済学研究科で博士課程を修了。1991年から北海道大学で教べんをとり、同大の大学院経済学研究科長、副学長などを歴任。現在は大学院経済学研究院の教授。専門は会計学で会計専門職大学院長も務める。公職も多数。HBCラジオなど、メディア出演も。

目指すべき道内経済のスタイルは以前から明らかだ

 アベノミクスの三本目の矢に位置づけられた「成長戦略」は失敗した。そもそも狙う的すらはっきりしなかった――北海道大学大学院経済学研究院・吉見宏教授のアベノミクスへの評価は厳しい。一方、本道経済に目を転じると、狙うべき的は明らかだ、と吉見教授は断言する。しかも、その的は昔から変わっていないという。第1次産業、エネルギー、そして観光の3分野だ。

道内経済の伸び方は全国よりも弱い

 ――近年の道内経済についてどう見ていますか。
 吉見 日本経済が全体としては良くなってきている中、本道経済も同様にジワリと良くなっている傾向が各種のデータに現れています。
 しかし、道内の伸び率は全国よりも低めで、勢いが弱い。景気回復が本州よりも遅れるのは本道のいつものパターンですが、道民の間では、景気回復を実感できない人は少なくありません。
 また、今の道内経済は何か大きな問題が発生すると、少しずつ良くなっている部分がいっぺんに相殺されてしまう状況です。昨年秋の胆振東部地震でもそうでしたが、大きな天災があると、それによる落ち込みが良くなった部分を一気に消し去ってしまう。そういう意味では、道内経済は薄氷を踏むような伸び方をしていると言えるのでは。
 ――薄氷を踏むような、ですか。
 吉見 例えば北海道の今の観光業界は、インバウンドの伸びに大きく頼っている側面があります。中でも中国から道内観光に来る人は多いですが、中国人観光客数は中国の経済状況、日本との政治的な関係に影響を受けます。日中関係が悪化し、中国政府が何らかの指示を出すと、一気に減る危険性があります。
 現状の道内観光業界は、そういうリスクを常に抱えており、しかも、外交関係は北海道がコントロールできるものではありません。もちろん、昨年の大地震のような天災も同様です。
 つまり、北海道がいくら頑張ったとしても解決できない要因で、経済がガクンと落ち込む可能性を秘めている。それが今の道内経済だと考えています。
 ――昔から「北海道は支店経済」と言われます。道内経済の特徴については。
 吉見 目指すべき道内経済のスタイルを考える時、主要産業はずっと変わっていません。第1次産業、エネルギー、それから観光です。この3つが北海道において将来、期待できる分野です。
 ところで安倍政権の経済政策に対する評価はけっこう分かれていますが、私はアベノミスクの三本の矢のうち、三本目の矢の政策が実行できていないと考えています。
 ――大胆な金融政策、積極的な財政出動と……
 吉見 成長戦略です。この三つ目の矢が、一体どこに刺さったのかわかりません。もっと厳しく言うならば、そもそも的がはっきりしない。
 確かに安倍政権になって株価は上がりました。輸出面では自動車産業を中心に堅調です。しかし、自動車産業に依拠している経済構造は従前と変わりません。かつて日本産業の中心が繊維から自動車に移った時のようなドラスティックな変化は起きていないわけで、本来は、同じ様なドラスティックな変化があって然るべきです。それが安倍政権の成長戦略だったはず。ところが、我が国が目指すべき次の主要産業がいまだにはっきりとしていません。
 それに対し、北海道経済の的は明確です。誰の政権であろうが、さきほどあげた3分野なのです。その3つの的に向かって矢を射ていくしかないと考えています。
 ――昔から、その3分野は道内の基幹産業と言われているますが、十分ではない?
 吉見 まず第1次産業に関しては産業の特性として、どうしても工業製品と比較すると効率はよくありません。たくさん農作物を作っても、その割にはもうけが薄い。
 一方で、海外からの自由化圧力を受けながらも、第1次産業が将来的にも発展していけるのは、日本の中では北海道エリアだけでしょう。
 では、本道の第1次産業はどうやって自由化圧力などに対抗していくべきのか。
 北海道の1次産品にはいいものがたくさんあります。これをいかに高く売るか。しかも日本人だけでなく、海外に向けても。
 実際、さまざまな地域で付加価値を高める取り組みが道内で積み重ねられています。しかし、そうした地域の努力に対し、国がきちんとした位置づけをし、十分な支援をしているでしょうか。
 水産業でも同様です。これだけ世界的に水産資源が注目されている中、AI技術の導入なども含め、近代化された水産業をいかに展開できるかが鍵です。そこに国が資金を投じるべきでしょう。
 ――近年、育てる漁業も注目されています。
 吉見 そうですね。サケを例にとって話をしましょう。日本の居酒屋などで出る刺身のサケには、ノルウェーなどから輸入したものが少なくありません。一方で、スモークサーモン用に道産サケがヨーロッパに大量に輸出されています。地球の裏側とサケの交換会がおこなわれているようなもの。
 ――おもしろい例えですね。
 吉見 この現象は何を示しているのでしょうか。私たちが刺身として好む脂がのったサケは、ノルウェーの水産業者が養殖で生産しています。極論かもしれませんが、ニーズがあるにもかかわらず、刺身用のサケを養殖で安定生産する体制が、残念ながら日本の水産業界に整っていないと言えます。

本道は日本のエネル ギー基地になり得る

 ――次に成長分野として期待されているエネルギー分野については。
 吉見 道内は太陽光、風力といった自然エネルギーの点で優位性があります。それに加えて、海域も含めた北海道エリアは日本の他の地域に比べて、資源が多く眠っていると言われています。最近では、石炭も見直されていますよね。
 さらにはサハリンなど、そもそも資源があり、すでに採掘が進むエリアから本道は地理的に近い。天然ガスを直接的にパイプラインで輸入できる可能性もあります。
 将来的に北海道から全国にエネルギーを流す姿を想像してみてください。本道が日本のエネルギーの供給元、元栓のような役割を果たす姿はあり得ると思ってます。
 もっと言えば、北海道電力がサハリンなどで発電事業をおこない、北海道に供給してもいいのではないでしょうか。
 ――興味深いですね。
 吉見 北海道は日本のエネルギー基地になり得るのです。
 ご存じのように6月、ペルシャ湾で日本向けのタンカーが攻撃を受けました。中東地域からのエネルギー資源に頼るのはやはり、もろい面があります。そのため、以前からエネルギー源の多様化が言われていました。
 ――原子力発電が推進された背景でもあります。
 吉見 しかし、原子力発電はすでに事実上、頓挫しており、将来にわたって原子力発電を広げていくのは困難だと考えています。
 ――核燃料サイクルはいまだに機能していません。日本はそもそも地震大国な上、地震が多発する周期に入ったと見る専門家もいます。
 吉見 ですから、エネルギーの多様化の1つとして従前通りの形で原子力を位置づけるのは難しいと思います。そういう前提で日本のエネルギー政策を考えた時、北海道は日本を救える可能性があると思いませんか。
 ただし課題もあります。電気に関して言えば送電技術です。北海道と本州の連携線が細い(容量が小さい)とよく言われますが、この点は政府が政策としてきちんと位置づければ太く(容量を大きく)できます。技術的に大きな壁があるわけではありませんから。
 一方で、さきほど申し上げたサハリンの発電所から送電するなら、非常に長距離になるので効率が落ちないようにする技術の開発が求められます。実は、長距離送電技術の開発は、世界的に注目されているテーマになっています。

エネルギー分野で極東ロシアとつながる

 ――知りませんでした。
 吉見 石狩市でも超電導を活用した送電技術開発の試みが少しおこなわれていますが、まだ実用化のメドはたっていません。長距離送電の技術開発が進めば、日本だけではなく、世界的なインパクトを与えるでしょう。
 また、サハリンで発電するならば最大の問題はロシアとの外交関係です。北方領土問題が横たわっていて、隣国なのですが、道内企業は経済的活動を積極的におこなうのをちゅうちょしている印象があります。あえて言うなら、道内企業は日本政府の意向を忖度し過ぎているのかもしれません。私は、考え方として北方領土は日本固有の領土なのですから、北電が北方四島の住民に売電してもかまわないのでは、と思っています。
 ――ユニークな発想ですね。
 吉見 個人的には、それを実施しても北方四島返還の妨げになるとは思えません。外交問題の解決を待っていると、今の時代、遅すぎます。むしろ北方領土、サハリンを早く北海道の経済圏に組み込み、現地の住民たちが「北海道なしでは生きられない」と考えるように持っていき、領土返還につなげる。そういう発想もあるのでは。その鍵になるのがエネルギーです。
 ――3分野の最後、観光産業についてうかがいます。
 吉見 道内でのインバウンドの急増は、厳しい表現をすれば、北海道側が狙ってそうなったわけではないと思います。最初はインバウンドをメーンターゲットにしていなかったから、外国人観光客がどうやって移動をするのか、どんな事や場所を好むのかといった準備を、十分にしてきませんでした。
 例えば移動手段について申し上げると、レンタカーで移動する外国人観光客がいますが、中国本土の人は自国の免許が日本で適用されませんから、公共交通を使うしかありません。ところが、偽造免許が使われているという話も耳にします。外国人観光客の視点も踏まえた公共交通網をきちんと整備していかないと。
 ――最後に10月に予定されている消費税増税の影響について。
 吉見 昨年4月に年金支給が減額された時、各スーパーの業績に大きな影響を与えました。社会がこれだけ高齢化が進んでいる中、消費税増税に対する高齢者の消費行動を考えると、個人消費が落ち込む可能性があるでしょう。

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