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Interview

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大間原発差し止め訴訟は市民を守るための裁判だ掲載号:2014年6月

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工藤寿樹 函館市長

 無期限凍結を求めて国を訴えるという、前代未聞の展開となった大間原子力発電所建設差し止め訴訟。〝怒り心頭〟の訴訟時会見から1カ月後、工藤寿樹市長はまだ怒っていた。なぜ、どんな経緯から司法の場を選んだのか、本人を直撃した。

2年半前から訴訟の準備をしていた

――2011年4月の市長選出馬時から、大間原子力発電所の建設凍結を訴えていました。
工藤 実は、東日本大震災が起こる前は、大間原発を含めて原発に対する関心が特別高かったわけではないんです。選挙公約でも原発については一切言及していませんし。でも福島第1原発の事故と、その後の対応を見て考えが変わった。これまでは私も安全神話を信じていましたから、こんなにずさんなものだったのかと驚きました。
――当選後、さっそく安全性について説明を求めた。
工藤 4月27日に市長に当選して、6月に当時の多田健一郎北海道副知事と一緒に、経済産業省と当時与党の民主党、建設を進めていた事業者の電源開発を訪ねました。でも説明を聞いた限りでは、凍結どころかやる気満々に感じられた。事故から3カ月で、まだ収束もしていないのに。
――8月には大間原発を直接視察しました。
工藤 原発から出た放射性廃棄物が、原発内では20年しか保管できないと聞いたので、その後その廃棄物はどうするのかと質問したら「それはわかりません」という。それだけ聞いてもなんて無責任な話だと思いました。正直、話し合いでの解決は難しいと感じたので「場合によっては裁判をするから準備してくれ」と内々に事務方へ指示しました。だから今回の裁判は突然のことではなく、2年半前からすでに準備をしていたものなんです。
――周辺の自治体とも〝共同戦線〟を張りました。
工藤 12年1月に、私と高谷寿峰北斗市長、中宮安一七飯町長などと一緒に、2度目の要望書を出しました。この時は津軽海峡は国際海峡だから、自由に船が行き来できるのでテロの危険性が高いとか、活断層の調査をすべきだとか、具体的な指摘もしましたね。
i2――でも工事が再開されてしまった。
工藤 12年9月に当時の枝野幸男経産相が青森で建設容認の発言をしたのを受けて、10月1日に電源開発の役員が建設工事の再開を伝えに来ました。それも「今日から再開しました」と、事後報告ですよ。
――当時は「緊急時防護措置準備区域(UPZ)」を定めて、原発から30キロ圏内の自治体が避難計画を含めた防災計画を作成することになった頃です。
工藤 函館市は大間原発から最短23キロのUPZ内で、防災計画と避難計画の作成が義務づけられたんです。つまり、自治体の責任で市民を安全に逃がす必要ができた。でも、建設や稼働に関する同意権はない。そもそも原発に関しての説明会すら開かれない。こちらから意見をいう場がないのに避難計画は自治体の義務。こんなバカな話があるかと。
――なぜ同意権が必要なのでしょうか。
工藤 原子力規制委員会は、原発の稼働について新しい規制基準を決めて、地震や津波に対するハード面ばかり審査しています。要するに〝第2の安全神話〟をつくっているわけです。でもどんなに対策しても、事故は起こり得ると福島の事故でわかった。これからは、事故は起こるという前提で、 実効性ある防災計画や避難計画が必要。でもそれを自治体に義務づけるだけでいいのかと。避難計画だって、誰が責任を持つのか。自治体なのか、国なのか、あ るいは事業者か。実効性があるかの審査はしなくていいのか。このあたりが全部曖昧なんですよ。
――責任の所在がわかりませんね。
工藤 少なくとも周辺の住民が安全に避難できる計画と、建設や稼働がセットにならなければおかしい。そのための同意権なんです。

裁判か泣き寝入りするかの選択

――建設再開を受けて、3度目の要望書を提出。
工藤 10月15日に、松本栄一函館商工会議所会頭や地元の産業団体の代表と一緒に訪問しました。16日には超党派の国会議員で結成した「原発ゼロの会」の方々とも懇談しましたし、11月には道内35市の市長でつくる北海道市長会(会長・田岡克介石狩市長)が原子力規制委員会と資源エネルギー庁に申し入れをした。北海道市議会議長会も続いてくれた。大間については道内が一枚岩となって声をあげてくれたんです。
――それでも建設は止まらなかった。
工藤 いよいよ裁判だと覚悟しました。12月には差し止め訴訟の費用が市議会で可決された。でもその同じ月に政権が代わってしまったんです。
――タイミングが悪かった。
工藤 民主党に対しては3回もお願いしたけど、自公政権に代わった以上、すぐ訴えるわけにはいかなかった。ある意味振り出しに戻りましたね。ただ公明党は段階を踏みながらですが、脱原発を掲げていた。望みはあるかもしれないと思いました。
――13年2月に、現政権にも要望書を出しました。
工藤 今度は自民党と公明党を訪問した。これで4度目ですよ。でも結局、建設が止まる気配はなかった。
――7月には福島県南相馬市と浪江町を視察されました。
工藤 事故が起きた後の周辺自治体がどれだけひどい状況なのか、目の当たりにしました。町民はバラバラに避難して、帰ってくることもできない。除染も進んでいない。函館がこの状態になったら、と考えただけでもゾッとしました。
――函館市だけで27万人の人口を抱えています。
工藤 避難計画を立てるといっても、自治体だけで何ができるのかという話なんです。事故が起きれば20キロだろうと30キロだろうと、周辺の人は一斉に逃げる。福島の事故の前ならまだしも、あんな状態を見た後でまた事故が起きたら、パニックになるに決まっている。
逃げるといってもお年寄りや入院患者もいるし、バスだけで何千台と必要です。道路も当然混雑するだろうし、バスの運転手だって自分や家族が大切なのは当たり前。市の職員に何かをさせるといっても、こんな状況の中、避難せず我慢して残ってくれ、なんてとてもいえない。
――そもそも、避難計画を立てても意味がない。
工藤 今のままでは逃げられないのはわかっている。机上の空論です。たとえばアメリカでは1979年のスリーマイル島の原発事故以降、周辺住民の避難計画が建設認可の条件になっています。実際、建設したものの避難計画の実行が不可能と判断されて、動かす前に廃炉になった原発もある。動いている原発についても、軍が避難指示をするとか、いろいろな制度がある。でも日本は、自治体まかせでわれ関せず。なぜかといえば、そんな制度があったら原発をつくる場所がなくなるから。大間原発は新規制基準の審査を受けずに建設が再開された。まずつくることありきなのもおかしな話ですよ。
――脱原発にまでは踏み込んでいませんね。
工藤 私たちは周辺自治体として避難計画を義務づけられるのに同意権がない、というところからスタートしているから、脱原発を訴えているわけではないんです。泊原発については、その周辺の自治体を中心に考えればいい。それに私が脱原発を叫びながら行動すれば、自民党や公明党の市議会議員もいるんで、議会は割れてしまうと思う。実際、共産党からは脱原発や再稼働についても声をあげてほしいといわれたけど、そこには触れなかった。もっと切実なものとして、函館市民を守るために裁判をしているんです。そのためには右も左も思想信条も超えて、このままではダメだという思いを1つにしたかった。残されていた手段は裁判か泣き寝入りするかの2つ。そこで泣き寝入りするような考えの市長なら、辞めたほうがいい。
――最終的に訴訟を決意したのは。
工藤 昨年の10月です。12月に訴状案の概要を公表して、今年2月12日に正式表明。3月26日に市議会で全会一致で可決されて、4月3日に東京地方裁判所へ提訴しました。第1回口頭弁論は7月3日に決まりました。

新幹線は早く札幌に延伸してもいい

――北海道新幹線の開業まであと2年です。
工藤 今年の秋には函館港に新幹線の車両が陸揚げされて、年内には試験走行が始まります。冬期間でも安全に走行できるか、今年の冬と来年の冬の2度、試走させる必要があるということです。開業は2年後ですが、今年の11月か12月には、実際に新幹線が走り出すのです。
――またとないPRの機会ですね。
工藤 まず津軽海峡を挟んだ〝青函圏〟で、JR東日本と一体でキャンペ―ンをしようと準備を進めています。函館と青森、弘前、八戸の4市で昨年3月に「青函圏観光都市会議」も立ち上 げました。首都圏を中心にPRを進めていて、修学旅行の誘致に向けた取り組みなどをしています。4市合計でちょうど人口100万人。札幌と仙台の間で埋没 しがちなところを、青函圏としてアピールできないかと。道内で他県の市町村と具体的に連携しやすいのは、やはり函館ですから。
――札幌への延伸が早まるという話もあります。
工藤 今のところ札幌延伸は新函館(仮称)の開業からおおむね20年後。その後はいわゆる「終着駅効果」が失われるという人もいます。でも私は一貫してそれは違うといってきた。むしろ札幌を経由してもっと観光客を呼べるから、早く延伸してもいいと言っている。
――その理由は。
工藤 たとえば新千歳空港に降りる海外観光客は、これからまだまだ増える。新千歳と函館空港とで競うのは、周辺人口の差もあってさすがに難しい。だから新千歳から札幌へ行って、そこで1泊してもらった後が狙い目なんです。札幌は1泊あれば十分観光できるでしょう。だから2泊目以降は必ず道内各地へ移動します。でも札幌から道北や道東へ行くなら必ず3?4時間かかってしまう。でも札幌まで新幹線がつながれば、函館までたった45分。これは圧倒的に有利なんです。旅行会社のツアー商品にも活用しやすいですから。ある調査では、全国の魅力ある都市ランキングで、3位の札幌を抑えて函館が2位。京都が1位でその次です。今、ミシュランが本国フランスで出している日本旅行のガイド本でも、函館は道内のどこよりも〝星〟が多い。すでにたくさんの魅力がある以上、単なる通過駅にはなりません。何も恐れる必要はないんですよ。

=ききて/清水大輔=