T’s(ティーズ)
つだ・まさのり/1977年札幌市生まれ。酪農学園大学酪農学部卒。自動車部品メーカーの店長や障害者施設での勤務を経て2021年T’s設立。
障害者の恋愛や結婚、子育てをサポート
福祉の常識を打ち破り障害者の人生に寄り添う
――事業内容は。
津田 障害福祉事業を中核に2棟のグループホームを運営しており、知的、身体、精神の3つを受け入れています。家具や家電が設置され、体一つで入居できるのが特徴です。重度の利用者を対象にした定員14人の「エムズイン西野」と、比較的軽度の利用者を対象にした定員7人の「エムズイン西野2」があります。「西野2」には2DKの部屋があり、夫婦や親子、兄弟で住めるようにしました。現在はいずれも満床です。もう1棟増やして、軽度の方が一人暮らしに近い形で生活できる施設や重度の方が共同生活を送る施設、そして夫婦や親子で暮らせる施設という3つの形にできればと考えています。
――事業の多角化も進めています。
津田 私が自動車部品メーカーの販売店で店長をしていた経緯もあり、自動車用アクセサリーパーツ「SEV」社の製品を代理店として販売しています。今年2月にはブランド品や時計、貴金属、家電など中古品の買取事業も始めました。ただ、単純に買って売るだけではなく、使えるものは福祉事業でも活用しています。例えばグループホーム用のテレビや洗濯機をストックしておけば、利用者さんの負担も減らせます。買い取った食器や家具などを施設のイベントで利用者さんに販売してもらうこともあります。
――独立の経緯は。
津田 家族に障害があり、いつかは自分が面倒を見なければならないという思いがありました。実際に福祉施設で働いてみると、制度上の制約や施設側の都合によって、利用者さんの人生そのものに寄り添えていない部分もあると感じたからです。特に恋愛や結婚、子どもを持つことなどは、障害があるという理由だけで、最初から諦めてしまうケースがあります。でも、それは本当に本人が望んでいることなのか、という疑問が残りました。そこを変えていきたいと思ったんです。
――なぜでしょうか。
津田 現状の福祉サービスでは、障害者個人の支援のみで、配偶者やその子どもは想定されていませんし、例えばカップルや夫婦の場合、けんかもありますし、別れ話になることもある。一人ひとりを支援していた時とは違う難しさも出てきます。そのため多くの施設では、入居者同士の恋愛はご法度で、付き合ったら別々の施設へという考え方がまだあります。しかし、人を好きになることは、障害があるからといって否定されるものではないですよね。結婚して一緒に暮らしてもいいし、子どもを持ってもいい。もちろん、そこには責任もありますから、何でも自由にということではありません。ただ、「できないからやらせない」のではなく、「どうすればできるのか」を一緒に考えるのが本当の支援だと思っています。誰かがやらなければ変わりませんから。
――入居者の中には今年子どもが生まれた若いご夫婦がいるそうですね。
津田 はい。軽度の知的障害がある20代の夫婦が暮らしています。当初は就労継続支援を受けながら夫の実家に住んでいましたが、体調不良になったため生活保護を受けて暮らせる場所を探しており、受け入れ後に妊娠がわかりました。2024年の制度変更で、本人たちが望めばグループホーム内での出産や子育てを容認する特例があるのですが、0歳児の支援は全国的にも例がないため手探り状態です。
――支援方法は異なりますか。
津田 子どもに対する国や行政のサポートは健常者と変わりません。子育て支援などの行政や民間の制度やサービスの情報を夫婦に提供し、我々も活用しています。夫婦はとても繊細な部分があり、日常生活で大変な部分もあるのですが、職員が夜泣きした子どもにミルクをあげるなどの世話をするということはありません。あくまで親が子どもを育てる。その上で、親だけでは難しい部分を私たちが支えるという考え方です。グループホーム内で子どもがいつまで一緒に暮らせるか規定はありませんが、一般住居に移れるまでサポートしたい。
――事業拡大について。
津田 「このスタッフたちとなら次もできる」と思えたら、次の施設をやる。その意味では、今いるスタッフには本当に恵まれています。利用者さんのことで私が何かやろうとしていると、「社長、それ私がやりますよ」と言って、私の仕事をどんどん奪ってくれるんです。まずは現場が自分たちで考えて動いてくれる組織をつくることが、役割だと思っています。
誰もが自分らしく暮らせる福祉を全国へ
――今後の目標を。
津田 受け入れ先を全国の事業者さんに拡大したい。障害者向けグループホームは全国的に空きがありますが、夫婦や親子で暮らせるところは極めて少ないです。当社だけでは限界がありますから。「こういうことをやっている施設があるんだ」と知ってもらって、ほかでも取り組んで欲しいと思っています。
もう一つ、私は酪農学園大学で学び、将来は牧場をやりたいと思っていました。でも、資金の問題があって断念したんです。今は福祉と農業を組み合わせる「農福連携」に関心があります。住居と農業を一体化するのは簡単ではありませんが、まずは就労という形から、利用者さんを畑に連れていって農作業をしてもらうようなことを実現したいですね。