今振り返る、私の思い出紀行 第二十一回【小林石材 社長 小林 誠氏】

石造りの建造物・遺産に学ぶ旅を継続中
私は墓石をはじめ、石仏、記念碑などを造る石材施工技能士で、家業(明治34年創業)を継いで5代目になります。50歳を過ぎた頃から石仏を訪ねて全国を巡る旅を思い立ち、これまでに40都道府県を訪れています。
古い歴史を持つ各地の神社・仏閣、城郭等を訪れて先人の知識・技術の一端に触れるのが主な目的です。江戸時代以前の昔に、限られた道具や知識、情報を駆使して造られた宗教的建造物や遺産からは、独特の魅力が伝わってきます。
中にはお気に入りとなって数回訪れているところもあります。大分県の豊後地方にある「臼杵磨崖仏(うすきまがいぶつ)」もその一つです。磨崖仏とは自然界の岩崖に直接彫り込まれた仏像で、木彫と違って長年風雨にさらされながらも朽ちることなく、その姿を今に伝えています。臼杵の石仏像は平安時代の作と伝えられ、国宝にも指定されています。
石仏以外では〝最上の三鳥居〟と呼ばれている山形県内にある「石造三鳥居」(元木の石鳥居、高擶の石鳥居、成沢の石鳥居)も私のお気に入りです。鳥居を形成する石は、その重量のために高さが制限され、3~4㍍の物が多いのですが、それでも地震や災害にも耐えて、木造の鳥居とは違った独特の形を現在に伝えています。技術的にも学ぶ点が数多く、とても勉強になります。
日本にある最大規模の石造鳥居は、岡山県真庭市にある茅部神社の鳥居です。高さが13㍍もある巨大な明神型石鳥居で、1863年(文久3年)に、当時の氏子が日本一の石鳥居を作ろうと資金を集め、付近の山から花崗岩を切り出して3年かけて完成させました。ここはまだ訪れてはいないのですが、今後の旅行の楽しみの一つになっています。
群馬県の前橋の寺には、私が30年ほど前に製作した高さ6㍍ほどの観音像があります。修業時代の終わりに造った作品で、いわば卒業制作でした。昨年、久しぶりに訪れ、師匠の指導や制作時の苦労を思い出し、感慨深いものがありました。
墓石や仏像は宗教と関わるものですから、仕事にしても旅にしても自然と鎮魂の思いが伴います。ですので宗教物を訪ねる旅以外にも地震、津波、豪雨など自然災害の被災地を訪れ、復興を願いながら手を合わせることも続けています。
熊本城では崩れた石垣を見て、地震の規模の大きさを感じました。また、阪神淡路大震災の発生から30年の節目となった今年1月に兵庫県へ足を運び、震災メモリアルパークを訪れて、復興した神戸の街並みに手を合わせました。今年の11月には災害が続いた北陸を訪れる予定です。
日常の中でさまざまなことに気づき、新たな感情が湧くことに、旅を続ける意味があるのかもしれません。

小林 誠氏