札幌・住宅街ヒグマ出没、道内テレビ局に「どう報じたか」を問う!【回答全文掲載】
「クマです、クマです。住宅街の中をクマが走っています。今走り出しました。今道路を横断しようとしています。非常に危険です!非常に危険です!」
「札幌市東区にヒグマが出没」との目撃情報第一報があった6月18日午前3時半ごろから約8時間。重軽傷者4人の被害を出したクマが駆除されるまで、道内マスコミはは文字通り“爪痕”を探して東区内を駆け回った。
冒頭はその中の1社、UHBの動画から(参考リンク)。同社は18日午前9時50分からレギュラー番組「ノンストップ」をクマに関する緊急特別番組に差し替えて放送。番組内では上記の“スクープ映像”が繰り返し流された。
すると番組を見ていた視聴者から、その取材手法や記者を批判する内容がツイッターに投稿、拡散され、約2万6000件の「いいね」や批判のコメントで炎上状態となった。
本誌は道内テレビ局6社に対し、18日の第一報から11時過ぎの駆除、そして当日夕方の自社番組までの取材の様子や報道内容について質問書を送付した。
STV、TVhからは期限までに返答はなかったが、UHB、HTB、HBC、NHKについては回答があった。
以下、各社の報道内容(編集部調べ)と当社からの質問(2021/6/28付け送付)およびその回答を全文掲載する。
●UHB
9時50分から緊急特番を編成(参考リンク)。特番内で元旭山動物園園長で札幌市環境局参与の小菅正夫氏と随時電話中継。また日本クマネットワーク代表で酪農学園大学教授の佐藤喜和氏とも電話収録によるインタビューを同番組内で放映した。
特番から駆除までの現地中継は少なくとも3人の記者が確認できる。夕方の情報ワイド「みんテレ」では北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所専門研究主幹の間野勉氏が解説。
(1)6月18日金曜午前3時半頃にヒグマ目撃の第一報が北海道警察にありました。その後同日11時過ぎの射殺による駆除までの取材体制について、差し支えない範囲で教えてください。
→ 取材体制についてはお答えしておりません。
(2)貴社によるクマの追跡映像が「クマを駐屯地側に追いやっている」「駐屯地のゲート付近の自衛隊員が負傷したのはクマを追い立てたせいだ」といった見方があります。これについて以下伺います。
ア 追跡は現場記者及びカメラマンによる判断だったのでしょうか。それとも貴社報道部または編成局からの指示で捜索したのでしょうか。
→ 「追跡」はしておりません。走っている車の前に偶発的にクマが現れました。公道を走行中だったため、進行方向に10数メートル走り、大通り(丘珠空港通り)との交差地点で車は止まっています。ドライバーは道路交通法を遵守した上で職務を遂行していただいたと認識しております。この場面においては同乗の記者がドライバーに対して指示を出したという事実もありません。
取材スタッフが遭遇する前にクマはすでに近隣の住人3人に重軽傷を負わせており、付近を何台ものパトカー、及び各社の取材車が走り回っている状態でした。夜行性のクマが日中、住宅街を走り回っていること自体、当該のクマが既にパニック状態だったと考えられます。
「取材」自体は報道情報部のデスクの指示に基づき「遭遇」時は現場の記者の判断で撮影しています。仮に、弊社の取材によってクマを追い立て、自衛隊員に怪我を負わせた原因になっていると声をあげている報道機関があれば、その根拠、その場面を目撃した状況と判断基準について質問させていただく所存です。
イ 前項に関連し、上席からの判断であれば、特別番組編成のための画数が必要だったということでしょうか。
→ その段階では特番を編成するかどうかも決まっていませんでした。偶発的にクマと遭遇した場面を撮影したということです。現場の記者は人を襲ったクマが住宅街を徘徊しているという異常な状況の中でそれらを知らずに出歩いている住民がいることに危機感を抱き、住民に出歩かない方がよいと呼び掛けながら取材をしていたとのことです。
ウ 駐屯地のゲートにいた自衛隊員がクマに襲われ負傷したことについてはどのような見解でしょうか。
→ 自衛隊員が職務中に負傷したことは、誠にお気の毒でありお見舞いを申し上げます。
エ ウに関連し、自衛隊員が負傷した結果について現場の記者はどのような見解を持っているのでしょうか。
→ 個人の見解はお答えしておりません。
オ 事件や事故に関する報道時、現場の貴社社員がとるべき指針やガイドラインに類するものは設定されていますか。設定されている場合、その内容をご開示ください。
→ 取材対象者や自身の安全に十分に配慮するよう指導しています。社内では就業規則、コンプライアンス行動基準、コンプライアンス規則、放送基準、報道・制作ガイドライン、個人情報保護基本方針等が定められております。
(3)HBC・STVについてはヘリコプターによる空撮を行っています。貴社で行う予定はありましたか。また、しなかった、できなかったのはなぜですか。
→ 空撮を行う予定で空港に向かいましたが、空港が封鎖になりフライトできませんでした。
(4)特別番組の視聴率は通常編成の「ノンストップ」に比べても非常に高い視聴率を記録したと聞きます。特番編成はいつごろの判断か、そして高視聴率の要因はどのようなものだったのか見解を教えてください。
→ 特番編成を決定したのは本番20~30分ほど前です。市街地にクマが出没し、怪我人が出ていたため、視聴者に広く注意を呼びかけるために編成しました。災害特番と同様の判断です。
(5)当日夕方の「みんテレ」では顛末についてどのように報じましたか。概算の放映時間や専門家による解説など、報じた内容について概要を教えてください。
→ スタジオに専門家を招き、17時台と18時台に合わせて30分ほどお伝えしました。
(6)今回のクマ取材について、道警当局からは注意・指導はありましたか。あればどのようなものかを教えてください。
→ 弊社に対しては特段、注意・指導はありませんでした。
●HTB
自社制作番組「イチモニ!」(あさ6時~8時)内で「北31条東15丁目付近にいる」旨の速報を含む生中継を他局に先駆けて実施(参考リンク)。警察車両を追跡しての映像、タクシーを利用してのクマ追跡、至近距離からの映像も。
現場では3人ほどの記者によるリポートが確認できる。駆除時の中継カメラ位置が最も良く、射殺までの状況がよくわかる(参考リンク)。
特番は実施せず、YouTubeの自社チャンネルで生配信(参考リンク)。夕方の情報ワイド「イチオシ!!」(午後3時45分~7時)内では、日本クマネットワーク事務局長で北海道大学獣医学研究院准教授の下鶴倫人氏を起用し解説(参考リンク)。
(1)6月18日金曜午前3時半頃にヒグマ目撃の第一報が北海道警察にありました。その後同日11時過ぎの射殺による駆除までの取材体制について、差し支えない範囲で教えてください。
→ 『イチモニ!』では6時台に2回、7時台に2回、現地からの生中継映像にスタジオのアナウンサーがコメントいたしました。
いずれの映像も警戒にあたる警察車両などを映したもので、コメント内容としては登校時間が近かったことから「札幌市教育委員会は見守り登校を呼びかけている」「決して子どもを一人で登校させないように」と注意喚起するものでした。
「タクシーを利用したクマ追跡」とのご指摘ですが、警察の警備体制・警戒態勢に重点を置いて場所移動したものです。
「至近距離への接近映像」とのご理解については、ヒグマが突然カメラの方角に走ってきたタイミングで撮影できたものであり、ヒグマの接近映像を狙ったような撮影をしたわけではありません。現場リポート、取材態勢については詳細を控えさせていただきます。
(2)HBC・STVについてはヘリコプターによる空撮を行っています。貴社で行う予定はありましたか。また、しなかった、できなかったのはなぜですか。
→ 取材に関して撮影の予定があったか、なかったか、撮れなかったかなどの詳細は控えさせていただきます。
(3)現場からの生中継については、どのような報道をおこないましたか。当日朝5時25分からの「グッド!モーニング」~10時25分からの「ワイドスクランブル」終了までの通常編成について、中継等のために変更した部分はありますか。
→ 通常編成のままで、ヒグマ中継を行うために特別番組を編成したりはしていません。
(4)事件や事故に関する報道時、現場の貴社社員がとるべき指針やガイドラインに類するものは設定されていますか。設定されている場合、その内容をご開示ください。
→ 取材の安全に関する指針はテレビ朝日系列のニュースネットワークでガイドラインを設けており、ニュース取材をする関係スタッフに周知しております。
対外的に公表することを目的とはしておりませんので開示については差し控えさせていただきます。
(5)当日夕方の「イチオシ!!」では顛末についてどのように報じましたか。概算の放映時間や専門家による解説など、報じた内容について概要を教えてください。
→ 『イチオシ!!』の時間帯である15:45~19:00に適宜ニュースゾーンで放送。15時台に15分弱、17時台に7分程度、18時台に15分弱取り扱いました。一連のクマの目撃・駆除情報、現地中継、専門家解説をお伝えしました。
(6)道警当局から当日の現場で、または後日、今回の報道や取材手法についての指示や注意、指導などはありましたか。
→ 有り無し含めて北海道警察にご確認下さい。
●HBC
クマの至近映像は午前6時ごろ、イオン元町店駐車場で記者がクマを発見しタクシーの車内から撮影(参考リンク)。その後3人目の負傷者(重傷者)が襲われた直後、警官が駆けつけた模様の映像も(参考リンク)。
クマを見つけたすぐ後には、女性の歩行者に窓から「逃げて!」と案内している映像、ほかにも通行人などに注意喚起した映像を使用している。
またヘリからの空撮に成功したうちの1社で、午前8時すぎに丘珠空港付近の緑地を走るクマの模様を上空から撮影。先にヘリを飛ばせており上空から里記者が実況を入れたほか、丘珠4号橋付近の水路を歩く模様を空撮と地上から同時に撮ることができた。
特番編成は行わなかったがYouTubeで生配信を実施(参考リンク)。駆除時は記者、その後の中継はアナウンサーも現場に入っていた。
夕方情報ワイド「今日ドキ!」(午後3時49分~7時)では前出の小菅氏を生出演で起用し解説(参考リンク)。
(1)6月18日金曜午前3時半頃にヒグマ目撃の第一報が北海道警察にありました。その後同日11時過ぎの射殺による駆除までの取材体制について、差し支えない範囲で教えてください。
→ 取材活動に関することはお答えできません。記載されている映像のほか、記者が車内から住民に注意喚起した映像も使用しています。
(2)空撮については貴社と契約する企業のヘリによるものと確認していますが、ヘリを出す判断と飛ばしていた時間はどのくらいですか。
→ 取材活動に関することはお答えできません。
(3)現場からの生中継については、どのような報道を行いましたか。当日朝6時からの「あさチャン!」~10時25分からの「金曜ブランチ」終了までの通常編成について、中継等のために変更した部分はありますか。
→ 「朝チャン!」から「金曜ブランチ」までの生中継枠について、「金ブラ」11:05尺約4分11:15尺約2分。
(4)事件や事故に関する報道時、現場の貴社社員がとるべき指針やガイドラインに類するものは設定されていますか。設定されている場合、その内容をご開示ください。
→ 取材活動に関することはお答えできません。
(5)当日夕方の「今日ドキ!」では顛末についてどのように報じましたか。概算の放映時間や専門家による解説など、報じた内容について概要を教えてください。
→ 目撃から駆除に至るまでのドキュメント、OA時の現場の様子、専門家二人(道立総合研究機構・間野勉専門研究主幹(インタビュー形式)、円山動物園アドバイザー・小菅正夫氏(スタジオ生出演))の話を加えて放送しました。15時・16時台で約18分、17時台で約10分、18時台で約16分放送しています。
(6)道警当局から当日の現場で、または後日、今回の報道や取材手法についての指示や注意、指導などはありましたか。
→ 当局とのやり取りについてはお答えできません。
●NHK
午前8時過ぎに丘珠空港備え付けの自社カメラで、空港内の柵を乗り越えるクマの映像を使用(参考リンク)。昼のニュースではヒグマの会顧問で北海道大学名誉教授の金川弘司氏にインタビュー。空撮は北海道警察本部提供の空撮映像を使用した。
当日夕方の「ほっとニュース北海道」では前出の間野氏が解説を行った。
※質問は(1)~(6)まで他社と同じ
→ 地域の方々や取材者の安全の確保に十分配慮するため、車両による追跡やヘリコプターによる取材は行わず、また、取材クルーも車内にとどまるなどの対応を取った。
当日夕方のニュースでは、丘珠空港に設置したカメラの映像や、北海道警察・視聴者からの提供映像を使って、ヒグマの足取りやヒグマの生態に詳しい専門家による分析や警鐘など、合わせておよそ5分間、放送した。
また、今回の取材に関して、北海道警察から注意や指導を受けたことはないほか、今回のニュースに関して当日の編成を変更したことはありません。なお、取材・制作を行う際の指針となる「放送ガイドライン」はNHKのHPで公表されています。
なお未回答の2社のうちSTVは、丘珠空港方面へ向かう前のクマの撮影には成功ならず。イオン元町店付近での重傷者収容や道路封鎖やされる場面、そして視聴者提供の映像が主だった(参考リンク)。
一方、陸上自衛隊丘珠駐屯地への侵入前後からはHBCと同様にヘリを飛ばせたため、独自の空撮映像がふんだんに。とくに貴社が乗車していたタクシーにクマが迫った場面は車内と頭上からの2つの視点から撮影。臨場感ある映像となった(参考リンク)。
なお、本日発売の月刊財界さっぽろ8月号では、上記の回答をもとに、さらに細かく各社の報道を検証。本記事のほか、当日何が起きたのかを改めて振り返るドキュメント、どこから来たのか、という根本問題に加えてハンターの苦悩、クマ撃退アイテム、そして最新の札幌市内出没情報マップなど、全18ページの緊急特集を掲載した。
この18日の事件以後も市内南区や中央区で出没情報が多発。また道南や道北ではクマに襲われたと見られる死者も出た。“今、そこにある危機”として、もう一度クマとの共生を考える一助にしてほしい。
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