【東日本大震災10年―4】震災で注目されたあの商品、この業界

 東日本大震災から10年、あのとき北海道には何が起き、どう対応したのか。10年前の2011年5月号で掲載した震災特集から記事をダイジェスト掲載。

 今回は震災時に注目された意外な商品や、思わぬ影響を被った業界を紹介する。以下、内容はすべて2011年4月時点のまま。

在庫がなくなった放射線量測定器 ©財界さっぽろ

公的機関から注文殺到!放射線量測定器が在庫切れ

 福島第1原発の事故発生により、各地で放射線量の測定が盛んにおこなわれている。放射線量測定器メーカーや商社には震災前の10倍近くの注文が押し寄せているという。

「普段であれば、月に50台ほどの注文ですが、震災後は10倍近く注文がきています。3万円から52万円の全製品が在庫切れです。当然、本部がそんな状態なので、北海道も同じ状況です」と国内大手測定器商社「千代田テクノル」の広報担当者は明かす。

 福島第1原発の事故発生を受け、急速に放射線量測定器の需要が増加している。

 千代田テクノルには、全国的に官公庁からの注文が殺到しているという。

 さらに「民間企業や個人からの問い合わせも増えました。しかし、緊急的に必要な自治体、病院、学校などを優先しています」と前出担当者は話す。

 国内大手の医療用測定器メーカー・日立アロカメディカルも「増産して対応していますが、民間には辞退していただくようにお願いしています」と話す。

 道も例にもれず、保有している放射線量測定器を増やす方針だ。3月30日の臨時道議会では保健所管理費の予算額を263万6000円から1825万円に引き上げた。

 内訳は放射線量測定機器の配置に925万円、放射性物質の除染に必要な物品などの整備に225万円、ポケット線量計、マスクなどの購入費に625万円となっている。

 放射線量測定器には大きく分けて2つのタイプがある。ある場所の放射線量を測定するものと、人につけてはかるものだ。原発で働く従業員は後者の測定器をつけて作業している。基準を超える放射線量が計測されると、タイマーのように警告音が鳴る。

 札幌にある道立衛生研究所では3月15日から放射線物質が身体表面に付着していないか確認する汚染検査(スクリーニング検査)を実施している。検査には日立アロカメディカル製の放射線量測定器「GM管式サーベイメーター」(いわゆるガイガー・カウンター)が使われており、主に肌が露出している顔や手の汚染検査をする。

 インターネットオークションサイトをのぞくと、出品されている6万円程度の放射線量測定器に100件以上もの入札があった。また、通常売られている価格より3倍の値段で取り引きされている例も見られた。

 徐々に生産が増えるとしても、福島原発の不安定な状態が続く限り、品薄状態は続きそうだ。

北海道建設会館 ©財界さっぽろ

震災復興も蚊帳の外?危機感高まる道内建設業界

 東北の復興には14・6兆円が必要という試算がある。当然のことながら、発注される建設工事の額も膨大だ。しかし道内の建設業者で、復興工事に参加できる会社は少ないとみられる。それどころか、復興事業の余波で道内業者が危機的状況に陥るという話もある。

 ある建設業界関係者は次のように話している。

「道内の建設業者にも復興支援目的に参加する会社はある。しかし、それは東北や関東に支店や営業所を持っていたり、大手ゼネコンの傘下に入って下請をこなしている一部の企業だ。道内業者の大半は、政府や被災地の自治体が発注する復興工事を受注する資格を持っていない。そもそも、こうした工事は被災地域の業者が優先的に受注するはずだ。道内業者の出番は、ほとんどないのではないだろうか」

 省庁や地方自治体、JRや高速道路会社など公的機関が発注する工事は、その機関が出している入札参加資格証をもっていないと受注できない。資格証を手にするには、その機関の所在地に拠点を置いていなければならない。たとえば、岩手県庁が発注する工事を受注するなら、県内に事務所を持っている必要がある。

 復興工事を当て込んで、これから営業所を設置したとしても、すぐに資格を得るのは難しい。資格証をもらうには、その機関の審査を受けなければならず、審査では過去の工事実績や経営内容を勘案し、れに基づいて“格付け等級”と呼ばれる工事受注のランクが決まる。Aクラスが最高で、B、Cと等級が下がるごとに受注できる工事の規模も小さくなる。資格審査がおこなわれるのは基本的に2年に1度。救済措置として“随時受け付け”もおこなっているが、審査に時間がかかったり、クリアするハードルも高くなる。

 大半の道内業者は地元自治体が発注する公共工事や、わずかばかりの民間工事を受注し食いつないでいる。しかし、この10年、公共工事は減る一方で、体力的に限界が近づいてきている会社は少なくない。そんな状態で本州に事務所を設けるのは、経営的にかなり難しい。

 また、別稿にもあるように、今回の震災で、合板などの建設資材の需要が高まり、資材価格が高騰してきている。一方で、これまで工事の請負額は下がり続けてきた。仕事を取るために安値請負をしてきた結果だ。つまり、工事を請け負っても、資材高騰で赤字になる。それにより個々の企業の体力が、さらに落ちてきているのだ。

 しかも、震災の影響で道内の建設業界は、危機的状況に陥る可能性があるという。北海道開発局のある幹部は、次のように解説している。

「これは復興の予算が、どうやって捻出されるのかを考えればわかると思う。いま、国は財政難。おかげで公共事業費は年々削られている。そんな状況の中で、復興予算をやりくりしなければならない。そうなれば、他の公共事業費を復興予算に振り替えるのがもっとも手っ取り早い。そこでターゲットになるのが、関西や九州などに配分されている公共事業費だったり、北海道開発予算だったりするわけだ。つまり復興予算を捻出するのに、開発予算が減らされる可能性が極めて高い」

 開発予算が減れば、補助金として道や市町村に回ってくる公共事業費も減る。建設業界関係者は「今年度はすでに予算が決まっているからいいが、来年度以降は…」とため息をついた。

支援物資も運んだ「ナッチャンWorld」 ©財界さっぽろ

日本海、青函ルートにトラック殺到 フェリーがつなぐ物流の生命線

 島国・北海道と本州をつなぐ物流の90%を海運が担っている。中でも首都圏ルートのメーンが苫小牧=八戸、大洗。しかし、この大動脈が機能不全に陥ったため、青函ルートなどにトラックが殺到した。

 震災後、道内でも「商品、原材料の納入が遅れている」「部品がいつ入ってくるかわからない」といった困惑の声が道内の各業界で広がっている。大手メーカーなどの生産拠点が被害を受けたり、電力不足でフル稼働できないのが大きな要因だ。震災による物流網へのダメージも、道内の品不足に輪をかけている。

 北海道・本州間の物流は重量ベースで90%以上が海運に頼っている。

「海運がダントツな状況はずっと変わりません。青函トンネルを活用したJR貨物は、現状では年間500万トンが限界で、今以上は増やせない」(北海道開発局港湾空港部)

 また、航空はコスト高がネックで、メーンの輸送機関とはなり得ない。北海道経済は海運に依存していると言っていい。この生命線が大震災で影響を受けた。

 海路での移出入の約60%がフェリー航路で、首都圏ルートは太平洋側が主流。その中でも苫小牧=八戸(川崎近海汽船)と苫小牧=大洗(商船三井フェリー)が2大航路である。ところが八戸、大洗の両港が津波でダメージを受け、両航路がストップした。両港への被害は甚大で、未だに完全復旧のメドが立っていない。

「港が復旧しても、しばらくは復興支援関係の船が優先されることになるはずだ。苫小牧=八戸、大洗のフェリー航路がいつ通常の運航体制に戻るかはわからない」(フェリー会社幹部)

 そこで震災直後から、別の航路に輸送トラックが集中した。バイパス機能を果たしたのが青函ルートと日本海側ルートである。特に便数が多い函館=青森の航路にトラックが殺到。津軽海峡フェリーの函館側には一時、トラックが順番待ちで長蛇の列をなした。

「3月13日から運航を再開しました。敷地内だけではスペースが足りず、別の場所に待ってもらうトラックが出るほどで、300台以上が待機していた時期もあった。われわれ職員も徹夜で対応しました」と津軽海峡フェリー職員。

 その後、川崎近海汽船は東北側の寄港地を八戸から青森に、商船三井フェリーは大洗から東京に変更し、運航を再開。そのため、青函便へのトラックの集中は緩和された。それでも現在も、時間帯によっては函館側に70台ぐらいが順番待ちしているという。

東北地方の仮設住宅建設に必要な道産木材 ©財界さっぽろ

道内木材の出番 売れなかったものが売れる

 東北地方には多くの木材工場が集中しており、今回の震災で甚大な被害が出ている。木材の在庫が激減した一方、需要は高まる見通しだ。業界関係者は、地理的に近いことから北海道が木材供給の拠点になると見ている。

「道産木材の需要は4、5、6月が一番低い時期です。ただ、この震災の影響で一時的に注文が集中しています。例年だと売れないものでも売れる状況です」

 木材を中心に扱う商社の社員はそう語った。

 東北地方には木材工場が集中している。国内木質建材メーカー最大手のセイホクもその1つであり、宮城県石巻市の工場が被災した。ホームページ上で「未曽有の被害」と発表している。ほかにも多くの工場が壊滅的なダメージを受けた。

 そんな中、国土交通省は仮設住宅を3万戸以上建設することを住宅メーカーの業界団体に指示している。

「東北の木材が流されてしまった今、地理的に近いことから、道産木材が多く使われることになるでしょう」と北海道木材産業協同組合連合会(道木連)の高藤満専務理事は話す。

 実際、道内木材商社・昭和マテリアルの広報担当者は「すでに仮設住宅の基礎に使う杭丸太を東北に出荷しています。一時的に注文が集中しており、かなり忙しい状況です」と明かした。

 急激に高まる木材需要に応えるべく道は、「『東北地方太平洋沖地震』災害復旧木材確保対策北海道連絡会議」を組織した。

 同会議には業界団体や組合、北海道森林管理局も参加している。

 問題なのが輸送手段だ。トラックの確保が困難な状況であり、現在、在庫分を被災地優先で出荷している前出のセイホクは、輸送サーチャージ(手数料)をとる場合があるとしている。

 同連絡会議でも輸送手段の検討が必要との見方を示している。

 一方、この需要急増を見込んで、木材などの買い占めが心配されており、価格も上昇する可能性がある。

 道森林管理局では不用な買い占めがおこなわれないように呼びかけているが、「こっそりやられたら止めようがない」という。

 被災地では瓦礫があふれているが、その中の木材をリサイクルするのは「かなり難しい」と出高藤専務理事は語る。

「木が腐っているなどの理由ではありません。瓦礫といえど、家の一部であったりします。誰のものか特定できないので、使えないのです」

「新築住宅建設の先行きは不透明であり、需要増は一時的だろう」というのが業界の共通認識だ。

被災地で大重宝!旭川産のバイオトイレ

 避難所生活が長期化すると、問題になってくるのがトイレ。放っておくと感染症などの恐れもある。被災地では、おがくずでふん尿を分解する旭川産の「バイオトイレ」が活躍している。

 バイオトイレの開発で全国的に有名なのが、旭川の正和電工。ふん尿の85~95%を占める水分をおがくずが吸収し、ヒーターで温めることで微生物が分解するという仕組みだ。

 避難所に置かれる仮設トイレの多くは、くみとり式。避難所生活が長引くにつれ、衛生面が問題になってくる。

 今回被災にあった宮城県石巻市、東松島市などでは3月末現在で、約4割の避難所でトイレの衛生状況が悪化。感染症にかかる被災者が増加し、少なくとも約50人に下痢、約20人に嘔吐などの症状が出ているという。高齢者などの体力が弱い人にとっては、とくに危険が多い。

 その点、バイオトイレはくみとりの必要がなく、臭いもほとんどない。通常の使用状況では、年に数回おがくずを交換するだけでいい。公園や工事現場など、下水道設備のない場所で活躍しており、中高年の登山ブームにともない、山岳地帯にも設置されている。

 正和電工は全国各地に販売特約店を持っており、そのうちの1社、山形県鶴岡市の太田建設が今回の震災を受け、被災地にバイオトイレを設置した。

 同社の太田健治社長は語る。

「福島第1原発から30キロ地点にある福島県南相馬市の役所から要請を受け、避難所に1日100人くらい使えるタイプを2台届けました。仮設トイレは普通和式ですが、バイオトイレは洋式で、便座ヒーターもついている。お年寄りを中心に重宝されてます」
 このほか、神奈川県海老名市からバイオトイレを搭載した特別車両2台が、宮城県石巻市の避難所に配備された。そんな大活躍のバイオトイレだが、本州などにはまだよく知られていない地域もある。

 正和電工の橘井敏弘社長はこう語る。

「震災後すぐに、自社にあったバイオトイレを被災地に無償で貸し出したいと旭川市に申し出たんです。ところが、現地から救援物資として要請があった品目の中にトイレは入っておらず、『要請のないものは運べない』と言われてしまった。自力で運ぼうにも物流が寸断されていて、結局、運ぶことができませんでした。バイオトイレは長い避難所生活の中では、すごい力を発揮する。災害対策に、全国に配備するよう行政などに訴えていきたい」

ドラッグストアではさまざまな種類のマスクが売られている ©財界さっぽろ

救援物資に欠かせないマスク 供給過剰だった在庫が一掃

 放射性物質の飛散により、被災地や首都圏でマスクの需要が急増。新型インフルエンザが流行した際に大量の在庫を抱えていたドラッグストアは、思わぬ売れ行きに驚いている。

「震災後3週間(3月14日~4月3日)に道内約120店で、前年同期の5倍ものマスクが売れました。まとめ買いをする人が多いので、恐らく被災地へ救援物資として送っているのではないかと思います」とサッポロドラッグストアーの広報担当者は語る。

 実は昨年まで、マスクは新型インフルエンザという別の理由で需要が多かった。2009年ごろから多機能マスクが次々と登場。立体型、ウイルス除去ができるタイプなど、店頭には数十種類ものマスクが並んだ。

 ドラッグストア各社は消費拡大を背景にどんどんマスクを入荷したが、ほどなく事態は収束。大量の在庫だけが残された。

 そんな中、震災によりマスク需要が増加。被災地への救援物資には、マスクは欠かせない品目にあげられている。無論、表立って喜ぶことはできないが、内心はホッとしている業界関係者も少なくないようだ。マスク以外では、おむつやミネラルウォーターなどの売れ行きも好調だという。

 一方で、マスクなどの衛生用品を製造する「日本メディカルプロダクツ」(旭川)はこう語る。

「03年に新型肺炎SARSや、05年の鳥インフルが流行したときは、かなり問い合わせがありましたが、今回は注文数などにそれほど大きな変化はありません。ただ、新型インフル用に、かなりマスクを備蓄をしていたので、救援物資として被災地に送りました」

 道内から運ばれたマスクが、被災者の健康を守っているようだ。