【全文掲載】デアリングタクト・岡田牧雄×コントレイル・前田幸治、無敗2冠馬豪華対談80分(前編)

 京都競馬場のゴール版を駆け抜けた瞬間、鞍上の松山弘平騎手は、左手の指を3本、立てた。

 10月18日15時45分、史上初となる無敗での牝馬3冠を達成した「デアリングタクト」。そして、来週25日に同じく無敗の牡馬3冠を目指す「コントレイル」。無敗の2冠馬が牡馬と牝馬の両方で同年に誕生するのは史上初めてのこと。さらに両馬とも、日高の牧場で生産された馬ということで、馬産地は今年、大いに沸いている。

 月刊財界さっぽろ2020年8月号では、デアリングタクトを1歳時のセールで購入、その素質を見出した「岡田スタッド」代表の岡田牧雄氏と、コントレイルを所有する「ノースヒルズ」代表の前田幸治氏が登場。80分におよぶ対談は、これまでのレース秘話や馬づくりへの情熱を語り合う、貴重な時間となった。

 以下、誌面掲載された対談の全文を前後編に分けて公開する。今回は前編、デアリングタクトについての話を中心に紹介する。なお本文は、6月20日の対談収録時現在の内容だ。

岡田スタッド代表の岡田牧雄氏 ©財界さっぽろ

競馬ファンは馬に自分の人生を投影

 岡田牧雄氏は1981年、父親から新ひだか町の牧場を引き継いだ。84年には牧場名を「岡田蔚男牧場」から「岡田スタッド」に変更した。牧場経営と同時にクラブ法人「ノルマンディーサラブレッドレーシング」を運営。生産した主なGⅠ馬はマツリダゴッホ、スマートファルコンなど。

 アイテック会長(本社・大阪)の前田幸治氏は、1984年に新冠町にサラブレッド生産牧場「有限会社マエコウファーム」を開設。97年有限会社ノースヒルズマネジメント、09年から株式会社ノースヒルズとなった。これまでにファレノプシス、ヘヴンリーロマンス、キズナ、ワンアンドオンリー、ビートブラックなど、数々のGⅠ馬を送り出している。

   ◇    ◇

 ――今年の牝馬クラシックはデアリングタクトが、桜花賞、オークスに勝利し、63年ぶりに無敗の2冠馬が誕生しました。同馬は1歳のセリで岡田代表が1200万円で購入しました。

 岡田 デアリングタクトは当歳のセレクトセールの時から、「いい馬だな」と目をつけていました。事情があって見送り、1歳セールに再上場された時に購入しました。

 前田 そのセリには私もスタッフたちとでかけていました。キズナ産駒を中心にみていたので、エピファネイアにはそこまで注目していませんでした。牧雄さんは丁寧に馬をご覧になりますね。

 岡田 馬と人間を対比しています。人間のアスリートをイメージして馬体をみています。資金力には限界がありますので…

 前田 価格だけでは馬の能力はわかりません。デアリングタクトは勝負根性があって、素晴らしい牝馬です。

 岡田 ありがとうございます。

 ――デアリングタクトの主戦の松山弘平騎手は、今年絶好調です。

 岡田 どのレースも自信を持って乗っていますよね。

 前田 松山騎手は性格もいいですね。デアリングタクトのような素晴らしいパートナーに出会えて、ジョッキーとしてさらに進化されるでしょう。

デアリングタクト主戦の松山弘平騎手 ©財界さっぽろ

 岡田 デアリングタクトはローズステークスで始動し、秋華賞で牝馬三冠を目指します(編集部注:その後、脚部不安が見られたため秋華賞直行に変更)。

 ――今年の春の3歳クラシック(NHKマイルカップを除く)はすべて、日高の生産馬が勝ちました。

 岡田 3歳クラシックは7レースしかありません。ノーザンファームの生産馬が14年続けて、いずれかのレースを勝利していました。過去には7つのうち、6つも勝つ年が6度もありました。いつしかノーザンファームのためのクラシックになっていた側面もあります。

 前田 ノーザンファーム生産馬は今年のダービーに9頭も出ていました。

 岡田 おかげまさでノースヒルズさんと合わせて牡馬、牝馬で4つ勝てました。あとは菊花賞と秋華賞しか残っていません。デアリングタクトとコントレイルがどちらも3冠馬になれば、ノーザンファームが15年ぶりに1冠も取れずに終わります。これはJRAにとっても、いいことだと思っています。

 前田 ファンの中には、日高を応援してくださっている方も多いですよね。

 岡田 はい。競馬ファンは馬券を買ったり、馬を応援することで、自分自身の人生を投影します。たとえば、血統があまりよくない日高の馬が、GⅠを勝ったりすると、自分も人生の中で成功できるんじゃないかと。勇気をもらえる。競馬ファンはエリートが嫌いなんですよ(笑)

 前田 日本人はもともと判官贔屓ですからね。高校野球もエリート校より、公立高校とかが勝ったほうが、みんな喜ぶでしょう。

 岡田 デアリングタクトの長谷川牧場は、繁殖が10頭しかいない家族経営の小さな牧場です。そういうところから強い馬が生まれると、競馬はとても盛り上がります。

ノースヒルズ代表の前田幸治氏 ©財界さっぽろ

馬をより強くする夜間放牧の大切さ

 岡田 私の子どもたちは、何度かノースヒルズに研修にうかがったこともあります。

 前田 私たちも他所にお伺いすることもありますし、こちらはいつでもウェルカムです。

 岡田 真冬の夜間放牧を始めたのも、前田代表が最初ですよね。

 前田 そうです。

 岡田 真冬も放牧していて、当時、牧場関係者はどのようにやっているんだろうと興味津々でした。

 前田 私自身も、当初は心配していました。マイナス20度を下回る日もあるのに、本当に大丈夫なんだろうか、と。馬がこれほど寒さに強いとは知りませんでした。

 岡田 私は自然で、できるだけ広い場所ということで、10町歩の夜間放牧地を、10カ所つくろうと思って、一生懸命土地を買ってきました。

 えりも町の牧場の一区画の放牧地は20、30町歩です。日高で30町歩といえば、一軒の牧場の土地面積です。

 10町歩で夜間放牧していれば、朝見に行くと、人間が寄っていったら、スッと起き上がります。でも、えりもの牧場に朝見に行くと、目だけきょろきょろして寝たきりで、起き上がれない。疲れ切っています。

 前田 草食動物ですから身を守るために、一睡もせず動き回っているようですね。

 岡田 うちで使っている馬は全部、北海道に戻して夜間放牧をして、リセットしてから、使う方針をとっています。マツリダゴッホなど、過去のGⅠ馬もすべてそうです。回数を使うことに重きを置いている。だから考え方を聞いてくれる調教師に必然的にお願いします。

 しかし、デアリングタクトに関しては厩舎スタッフが抵抗していました。北海道で夜間放牧をしたら、ケガをして馬がダメになってしまうと……

 前田 調教師と生産者とでは、大なり小なり、馬に対する考え方が違いますからね。

 岡田 いま、馬の胃腸薬の薬が飛ぶように売れています。1年間厩舎に入れっぱなしにすると、胃潰瘍になってしまいます。現役馬のうち約8割がそうした病状にかかっていると言われています。狭い厩舎でストレスがたまってしまうんです。

 絶対に息抜きしてあげないと、3歳、4歳で現役を終えてしまいます。

 5歳、6歳、7歳まで、元気に走ってほしいので、年1回、1カ月間、リセットさせてあげないといけません。そのため、1週間から10日くらい夜間放牧をしています。デアリングタクトも北海道に戻ってきて静養しています。

後編はコチラから。

 対談全文のほか、両2冠馬が戴冠した際の写真など、カラー8ページの豪華対談を掲載した財界さっぽろ2020年8月号は以下のリンクから購入可能です。

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