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2021年

北海道中小企業家同友会・守和彦代表理事が魂の訴え「助けを求められないと思っていないか」

守 和彦 北海道中小企業家同友会代表理事

「1社もつぶさない」――北海道中小企業家同友会は、これを合言葉に、新型コロナウイルス感染拡大によって打撃を受けた会員企業を支援している。代表理事の守和彦氏は「いまこそ経営者は自分の会社を見つめ直すべき」と提言する。

新型コロナウイルスによる新型の不況

 ――北海道中小企業家同友会はどのような方針を立てて新型コロナウイルス対策に臨んでいますか。

  われわれは孤独な経営者をなくすため、50年前に発会した組織です。今回の事態は「1社もつぶさない」を合言葉に、対策に取り組んでいます。

 ――これまで会員企業に対し、どのような支援をおこなってきましたか。

  緊急アンケートと同時に全道8事務所にいる事務局員がヒアリング調査を実施し、現時点で会員数の7割強に当たる4500人弱の会員から話を聞きました。「例年であれば3月、4月は学校関係の行事で忙しいが今年はすべて中止になった」「商談があっても北海道から出かけられない」「4割強の売上ダウンなので持続か給付金の対象にならない」といった厳しい声が多かったです。

 また、国などの支援制度がわかりにくいとの意見を受け、さまざまな施策の紹介のほか、書類記入のポイント、問い合わせ先などを掲載した「コロナニュース」を多いときは週2回、会員に向けて発行しています。

 北海道経済産業局や道労働局、よろず支援拠点の人たちを招き、オンラインでの制度説明会も複数回開きました。

 より具体的な支援として、経営悪化により退会したいと申し出てきた会員に対し、支援機関への同行のほか、条件変更について金融機関との間に入り、調整したケースもありました。

 経営の見直しを相談してきた会員に対し、税理士やコンサルティング業といった専門職の会員を紹介した事例もあります。

 このときは仕入れや施設運営費の見直しをおこない、新型コロナの影響で悪化した財務の“U字回復”につなげました。

 もちろん、ほとんどの会員がコロナ禍に対応するため、独自の取り組みもおこなっています。

 ――例えばそれはどのようなことですか。

  ヒアリング調査には「コロナを機にオンライン販売に注力した」「衛生商品・貿易サービスなどの新規事業を始めた」「訪問営業からオンライン営業への転換」「サポートもオンラインのみにした」という回答が寄せられました。

 従業員の感染防止と働き方改革のため、テレワークの導入や時差・交代勤務などにも着手している会員もいます。

 とにかく今までの形では立ち行かないので、思い切って何かやらないといけないという意識は非常に高まっているように感じます。

 ――国や金融機関などからの支援はどう評価していますか。

  新型コロナによって引き起こされているのは“新型不況”です。なので対策も新型でなければなりません。

 国や自治体、金融機関と一体となって中小企業の資金繰りを支えようとしています。そのおかげで、本年度の上半期は倒産する企業が減りました。

©財界さっぽろ

金融機関から伴走者を捕まえに行こう

 ――新型コロナの影響がここまで長引くと考えていましたか。

  正直考えていませんでした。多くの中小企業の経営者はもっと早い段階で感染拡大は収まるだろうと予想していたと思います。

 金融機関も同じでしょう。半年間分のお金の余裕さえつくっていれば、その先はなんとかなるだろうと考えていた。

 経営者としてみれば、なるべくなら大きな借金はつくりたくありません。

 今回のコロナ禍においても、道内の多くの中小企業はせいぜい借りて6カ月分だったのではないでしょうか。

 北海道では2月28日に最初の緊急事態宣言が出されました。それから企業が借り入れをおこなったのは5月あたり。

 この借金は赤字を埋めるための、残らないお金ですから、10月を過ぎるとキャッシュが底を突く企業も出てくる可能性は否めません。

 ――そうなると倒産が増えることも考えられます。これから中小企業は何をすべきだと考えていますか。

  いままでの経営ではポスト・コロナ時代は生き残れません。例え感染拡大が収まったとしても、ビジネス環境が元には戻ることはない。まずやるべきことは、自社の存在意義を改めて問い直すことです。

 私はここでいったん、9月末までの業績データをそろえて、経営者自身がすべてに目を通すべきだと考えています。

 そしていまの厳しい状況があと1年続くと仮定したときに、何が不足しているのか、何をやめなければならないのかといった課題を徹底的に洗い出す。

 精査した結果は、金融機関にも知らせることが大切です。いま、金融機関は盛んに「伴走支援」を掲げています。

 これは担当者が経営者と一緒になって事業計画を考えたり、専門家につないだりする形のサポートです。

 経営者はまさにこの“伴走者”を自分から捕まえに行くべきです。そのためには、金融機関との課題共有が必要なのです。

 私は特に、信金・信組に期待しています。北海道は事業所の99・7%を占める中小企業が広大な地域経済を支えています。企業がなくなることは、その地域の衰退に直結する。

 その点、信金・信組は地域のこともよく知っているし、小規模事業者にも目配りができます。地域資源をどう活用していくかというヒントもしっかり持っています。

 事業計画の見直しによって、イノベーションが起き、新製品を生み出せたり、新マーケットに進出することができるかもしれません。

 新しい仕事ができれば、「コロナがあったからこうなれた」と言えるようになります。つまり、この厳しい状況の中でも、中小企業にも成長の余地はあるということです。

 そしてもう一つ、大事なことがあります。それは経営者自身が学び続けることです。会社は社長の器以上にはならないと言われています。

助けを求められないと思っていないか

 ――倒産は国などの支援策によって減っていますが、休廃業・解散を選択する中小企業は増えています。

  廃業を検討している企業も、このコロナを機に金融機関との連携を深めてもらいたいです。豊富な情報を持っていますから、必ず何かの役に立ってくれるはずです。

 会員の中には、事業承継の事例も増えてきました。同友会では、各支部で継がせた側や継いだ側が自分自身の経験を話す例会を設けています。また、「北海道事業引き継ぎ支援センター」に協力いただき、定期的な研修会も開いています。

 会員を維持し、さらに発展させるのがわれわれの目標です。経営に不安がある人は、われわれのところにもきてほしい。ヒトモノカネ、課題はいろいろあると思いますが、ひとたび会員同士で議論が始まると「困っているのはあなただけではない。私のほうがもっとひどいよ」と言って、悩みを分かち合うことができます。

 課題が議論のテーブルにさえ乗れば、実にさまざまな話が湧いてくる。解決の糸口だっていくらでも見つけられる。そうすると、明日に向かう元気が出てきます。「そういう話があるのなら、自分もあの人に会ってこよう」というような、明日への意欲さえあれば、会社はなくなりません。

 ――中小企業の経営者たちにエールを送るとすれば。

  コロナ禍で先行きに不安を抱え、誰にも助けを求められないと思ってはいないでしょうか。中小企業は社長があきらめたらおわりです。逆にあきらめなかったら、打つ手はあります。コロナ禍に負けないで、生き残れる経営者を一緒に目指していきましょう。


……この続きは本誌財界さっぽろ2020年11月号でお楽しみください。
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(もり・かずひこ)1943年、伊達市生まれ。伊達高卒業後、伊達履物(現・ダテハキ)に入社。87年に社長就任。2009年から会長。北海道中小企業家同友会代表理事を03年から務める。