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2020年

雇用・子育て支援、ワクチン開発…稲津久厚生労働副大臣に新型コロナ対策をすべて聞く

稲津久 厚生労働副大臣

新型コロナウイルスの感染拡大によって生活困窮者は増えている。いつ収束するかも見通せず、長期的な支援が欠かせない状況だ。国が進める新型コロナ対策のいまを、稲津久厚生労働副大臣に聞いた。

※本記事は2020年6月25日取材時点での情報です。新型コロナウイルス感染症については、厚生労働省や北海道等の公的機関・自治体が発表しているによる一次情報やQ&A、相談窓口の情報を確認してください。

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NPO法人も寄付金減少で経営難に

――2人いる副大臣はそれぞれ違った役割を担っていますが、稲津副大臣が担当している施策にはどのようなものがありますか。

稲津 昨年9月13日に厚生労働副大臣の任を拝命し、年金、労働、子育て支援を担当しています。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大対策については所掌を超え、厚労省が一丸となっておこなっています。

ダイヤモンド・プリンセス号で多くの感染者が発生していることが明らかになり、橋本岳副大臣と自見英子政務官はクルーズ船の現地対応に当たっていました。その間、私は加藤大臣と小島敏文政務官とともに各委員会で答弁にたつなど、国会対応をはじめとする新型コロナ対策全般を引き受けました。

――緊急事態宣言によって社会経済活動が大幅に抑制され、生活が苦しくなった人は少なくありません。厚労省としてはどのような生活支援をおこなっていますか。

稲津 感染拡大は今後、長期にわたり世界中に深刻な影響を与えていくことが想定されます。今年4月の指標を見ると、雇用者数は前年同月差で約7年ぶりに減少に転じ、休業者数も前年同月差で約420万人も増加しました。

最も大きな打撃を受けているのは、いわゆる社会的弱者と呼ばれる人たちです。そこに支援が行き届いているかというと、なかなか十分とは言えません。そこで厚労省は「生活を守るプロジェクトチーム」を立ちあげ、私がそのリーダーの任を受けました。

まずオンラインで有識者の人たちから聞き取り調査を実施し、その際にはリーマンショックの時と比べて支援を求める年齢層が若くなっているというご指摘があったり、若者への情報提供はウェブやSNSが有効だというアドバイスをいただきました。

また、仕事とともに住まいを失った人への対策や、子育て家庭への学習支援、虐待予防を含めた見守り強化が必要となってくるとのご意見もいただきました。

そのほか、普段から社会的弱者に手をさしのべているNPO法人へのサポートもテーマになりました。例えば子ども食堂を運営している団体なども一時閉鎖に追い込まれ、学習支援といった活動もストップしています。さらに寄付金の減少や講演の中止で収入が減り、事業の縮小が強いられるなど、NPO法人の経営状況は非常に厳しくなりました。

新型コロナ対策の第2次補正予算では、子ども食堂などを運営する民間団体が子どもの見守り事業を強化できるよう、運営費補助の予算を計上しています。

6月21日に若年女性の支援や自殺対策をおこなっているNPO法人「BOND」を訪問してきました。

家庭内暴力から逃れた人や、家出した人をシェルターで保護するなど、実際の活動の様子を見る中で、「行政では難しくても、NPOだからこそできる支援がある」ということに、改めて気づかされました。

社会的弱者を支えるNPO法人などへの財政支援は非常に大事なことだと感じています。

さらに2次補正には、自立相談支援員の増員や住居確保給付金、自殺防止のための相談支援環境の整備、医療や介護の現場で大変なご努力をされている従事者への慰労金の支給なども盛り込みました。

――アルバイトを失った学生たちの生活も危ぶまれています。

稲津 実際、大学生の2割程度はアルバイトをしなければ生活が成り立たたないというデータもあります。あるいは6%の学生は学費も家賃もすべてバイトで賄っているという調査結果も出ています。

そこで厚労省と日本年金機構は「隗より始めよ」ということで、バイト収入を失った学生に仕事の場を提供することにしました。各地方の年金事務所やハローワークなどで、それぞれ100人ずつ非常勤採用をおこないます。

これは私の肝いり施策で、副大臣会議が開かれるたびに、他の省庁にも同様の取り組みをおこなうよう、要請しています。うれしいことに、道内の自治体が臨時採用枠をつくったり、農林水産省本省や文科省の外部団体が、困窮する学生をバイトで雇ったりしています。今後もこうした輪が広がってくれることを願っています。

NPO法人「BOND」を訪問した稲津氏 ©財界さっぽろ

民間検査のキャパシティーを増やす

――雇用主に協力してほしいことはありますか。

稲津 「新しい生活様式」や「業種別ガイドライン」を踏まえ、感染拡大防止策をしっかりと講じながら、社会経済活動を段階的に引き上げていっていただきたいです。

厚労省は事業主の雇用維持への努力を強力にサポートするため、雇用調整助成金の助成率の引き上げや支給要件の緩和、手続きの簡素化をおこない、労働局の体制も強化して、支給の迅速化を図ってきました。

さらに労働者個人が直接申請できる新型コロナウイルス感染症対応支援金の創設や、小学校休業等対応助成金の拡充なども2次補正予算に計上しています。

会社経営者のみなさまにはぜひこうした支援をご活用いただき、労働者の雇用維持にご協力してもらいたいと考えています。

――一方で、雇用調整助成金のオンライン受付システムは不具合が発生し、混乱を招きました。

稲津 これは本当に申し訳ありませんでした。プログラムのミスが重なり、2度にわたる調整をおこないましたが回復していません。現在専門家による第三者機関で原因究明をおこなっているところです。

――ほぼ確実に襲ってくるであろう第2波、第3波に備えるため、この先はどのような新型コロナ対策を進めていきますか。

稲津 感染拡大の初期段階はウイルスの性質もわからないまま、手探りで対策を進めてきました。医療提供体制はギリギリの状態になりましたが、何とか持ちこたえられたのは、国民の自粛へのご協力と、わが身の危険をいとわない医療従事者の献身的な取り組みのおかげだと思っています。もうそれに甘えるわけにはいきません。

優先的に取り組むべき対策は3つあると考えています。1つは検査態勢の整備です。今回の流行でPCR検査を増やすスピードが不十分だった点は、素直に認めないといけないと感じています。

新しい病原体が入ってきたときに検査をするのは対策の一丁目一番地であり、即応体制が必要です。

全国にPCRセンターができ、専用テントやドライブスルーで検査を受けられるなど、選択肢が増えました。機器や試薬不足も解消しています。

検査は需要が増えれば供給も生まれます。そうした拡充の動きを支援し、民間検査のキャパシティーを増やしていくことは大事なポイントだと思っています。

2つ目は医療体制を地域単位で整えることです。これまでは病院ごとに得意な診療領域や人員配置を考え、新型コロナ感染患者の受け入れに対応してきましたが、それが地域の最適解になっていたとは限りません。

地域の病院がどのように役割分担をすればいいのか、そこは行政が積極的に仲介する必要があります。

緊急時のために病床には一定の余裕があったほうがいい。財政上の制約はありますが、極限まで効率化すると、ニューヨークなどのように医療現場が混乱する恐れがあります。バランスをとりつつ、診療報酬、交付金などで下支えしていかなければならないと考えています。

公立病院を中心に幅広い協力体制を得て、いざというときに分担を決めて病床を準備できるよう、事前に計画を練っておかなければなりません。

3つ目は保健所の人材、財務面のてこ入れです。率直に言うと、以前のような予算では今回のような流行には立ち向かえないということです。

今後、経済活動の再開に伴って、小流行はどこでも、いつでも起こりえます。特に注意が必要なのは、国境措置の緩和です。

途上国でひとたび爆発的感染が起きると制約できません。世界の流行状況を見極めながら、入国制限を維持すべきところは維持し、ウイルスの侵入を防ぐ水際対策は徹底していきます。

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ワクチン開発は基礎研究の次の段階

――治療薬の開発はどこまで進んでいますか。

稲津 世界的なトレンドとして治療薬の場合、国が予算を計上して1から開発をおこなうというよりは、さまざまな既存医薬品について新型コロナへの効果が期待されるという研究報告がなされています。

わが国でも、既存医薬品の効果を検証する取り組みを支援しています。

具体的にはアビガン、オルベスコ、カレトラ、フサン、レムデジビルについてはすでに観察研究を実施しています。その中のアビガン、オルベスコについては3月、フサンについては5月から特定臨床研究が始まりました。

ケブザラは3月30日、アビガンは3月31日、アクテムラは4月8日から、それぞれ企業治験がスタートし、レムデジビルについては、企業からの申請に基づき、5月7日に特例承認をおこなったところです。

――ワクチン開発の状況は。

稲津 現在の進ちょく状況としては、基礎研究から非臨床試験の段階であり、一部についてはワクチン候補の作成が終了し、動物実験を始めています。さらに6月末には大阪のバイオベンチャー企業が国内で初めて臨床試験を開始しました。

2次補正でもワクチン開発を支援する予算を確保しています。それ以外の部分では、例えば新型コロナに対する医薬品などについては、最優先で審査をおこなうよう、すでに通知しており、審査期間の短縮を図っています。ほかにも医薬品医療機器総合機構において、開発者に適切な助言を実施するなどしています。

しかしながら、ワクチンが開発されていない現段階では、生産時期を見通すことは正直難しいです。

有効性・安全性が確認されたワクチンをできるだけ早期に実用化し、1日も早く国民に供給することを目指し、取り組みを進めていきます。


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