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FIRST LIFE 社長 髙橋 一生氏

(たかはし・かずき)1978年札幌市生まれ。2019年にFIRST LIFEを設立。一般社団法人全国軽貨物協会評議員。北海道軽貨物協会代表。

軽貨物業界の未来を変える新時代の物流改革

軽貨物事業を通じ再起の場を社会に提供

――もともとサービス業に携わっていたそうですね。

髙橋 はい。札幌・ススキノで長年サービス業に関わり、飲食店などを複数展開していました。経営は順調でしたが、40歳で結婚を機に〝家族との時間〟を大切にしたいと考えるようになりました。夜の仕事はどうしても生活がすれ違ってしまう。そこで会社を譲り、現場に立たずとも経営に専念できる飲食店を始める決意をしました。

――しかし、コロナで状況が一変しました。

髙橋 2019年に「FIRST LIFE」を創業し、九州で食べた「炊き肉」をアレンジした鍋料理店をオープンしました。開業直後は好調でしたが、コロナ禍が直撃。売上は95%減となり、半年も経たずに閉店を余儀なくされました。家族を支えなければならないのに何もできない。自己資金も投じていたので、まさに人生の〝どん底〟を味わいました。

――そこからフードデリバリーを始められたそうですが、経緯は。

髙橋 私自身もそうですが、コロナで飲食店やタクシー会社、家庭など多くの人が困っていた。その一助となると思い仲間と「食べタク」を立ち上げました。タクシーで料理を届ける仕組みは全国的にも珍しく、最大で約400店舗が参加し、累計10万件の配送を行いました。完全ボランティアでやっていたので、出口が見えず精神的に追い詰められていましたね。

――一本の電話が転機になったそうですね。

髙橋 そうなんです。ある日突然、出前館から「一緒に事業をやりませんか」と電話をいただいたんです。収入ゼロで苦しかった時期だったので、本当に救われました。資金も無かったのでフルローンで軽バン5台を購入して仲間と配送員として働き始めました。これが軽貨物事業の始まりです。

――現場で働いてみてどうでしたか。

髙橋 1日12〜15時間、週100時間以上働いて、月に60〜70万円稼げたんです。「頑張れば報われる業界」と気づきました。そこで、コロナ禍ではありましたが、出前館の全国展開とともに、当時飛行機内は数名しか乗っていませんでしたが、全国を飛び回って各地で仲間を募りながら拠点を広げました。当時の仲間が今、全国20都市の責任者を務めています。

――現在は多様な案件を受注されていますね。

髙橋 宅配、企業配、スポット便、チャーター便、長距離便、緊急配送、集荷業務、引越し、買い物代行、配送先での取付・設置業務まで幅広い案件に対応しています。働き方も「初級者・中級者・プロ・企業配」の4コースを設け、副業から専業まで個々のニーズに応じた環境を整えました。

――急成長の原動力は。

髙橋 現在は自社ドライバー約330人、自社車両220台、パートナー企業400社超、全国20都市に拠点を展開しています。成長の要因は「即日収入スキーム」です。働いたその日に報酬を受け取れる仕組みで、通常発生する手数料も全額会社負担。個人事業主のドライバーには、案件の売り上げと経費の内訳をすべてオープンにしています。車がない人には自社車両を貸与、ローン審査に通らない人も〝将来性〟で与信判断し、保険や維持費も会社が負担します。手厚いフォローで毎月200人以上の応募があります。人材こそが成長の原動力になっています。

――業界の課題解決にも力を入れています。

髙橋 軽貨物業界の最大の問題は、多重下請け構造です。3次受け、4次受けとなればドライバー報酬は減り続けます。当社は元請けや1次下請けとして案件を受注していますが、再委託は一切禁止しています。自社ドライバーで配送を行うことは、単価の改善、品質の向上、安定した案件提供につながります。安心して働ける環境を整えることが業界を健全化すると考えています。

――AIやシステム開発も積極的に進めています。

髙橋 AIで複数荷主の荷物をまとめて、最適ルートで配送する「共同配送」に取り組んでいます。これにより配送コストを最大35・5%削減し、ドライバー報酬の改善にもつなげています。

今年5月には、法改正に完全対応した「軽貨物事業者向け管理システム」を開発しました。4月からの法改正では、個人事業主にも安全管理者の選任が義務づけられましたが、現場ですべて対応するのは困難です。当社が開発したシステムでは、安全管理、運行管理、請求業務まで一元化でき、事業者の業務効率を大幅に改善できます。将来的にはAIの搭載や外部展開も視野に入れ、業界のインフラの一部になると確信しています。

――物流業界全体の発展を見据えた取り組みも。

髙橋 AIを活用するにはデータセンターが不可欠ですが、日本は海外への依存が強くコストも高いため、企業の負担になっているのが現状です。私は空き家や遊休スペースを活用した小規模データセンターを構想しています。再生可能エネルギーと掛け合わせれば地方創生や災害時の電力確保にもつながる。「物流×AI×電力」を三位一体で進めることで、社会インフラそのものを再設計したい。33年までに売上高100億円を目指して進めていきます。

――他事業も積極的に展開されていますね。

髙橋 人材紹介サービスでは、初期費用ゼロ・完全成功報酬型で中小企業の採用をサポートしています。さらに、インドネシアとミャンマーに自社運営の日本語学校を持ち、特定技能生の紹介サービスも展開しています。人手不足に悩む企業を支えたい、その思いから低コストで提供しています。

――最後に、事業を通じて実現したいことは何でしょうか。

髙橋 一度すべてを失いましたが、人に支えられて立ち上がることができました。だから今度は私が「再起の場所」を提供し、誰もが再スタートできる社会を事業を通じて実現させます。 

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