東京・銀座の不動産会社グループ企業が運営 豊浦町でナマコ種苗生産、北海道の豊かな海づくりに貢献
ナマコは〝海の中のミミズ〟とも評される。胆振管内豊浦町にナマコの陸上種苗生産を行う「北海道海洋生物研究センター試験棟」が竣工する。事業計画、そして海づくりへの思いなど、同センターの関係者で座談会を行った。
ナマコは海の中で縁の下の力持ち
――6月18日、豊浦町に「北海道海洋生物研究センター試験棟」が竣工します。
山田 当センターは彌生グループ傘下の三鷹吉祥が運営します。親会社は彌生興業で東京の銀座を中心に不動産業を営んでいます。創業は明治24年(1891年)になります。現在では不動産賃貸業を柱として、「彌生グループ」としてさまざな事業を展開しています。
羽澤 新機軸を考える中で、第一次産業に注目して立ち上げた会社が三鷹吉祥です。
――なぜナマコだったのですか。
羽澤 ナマコは海の中の生態系で、ミミズのような存在です。縁の下の力持ちのような役割を果たしています。海外の事例をみると、ナマコが乱獲により海域から姿を消すと、魚の水揚げがどんどん減っていく傾向が出ています。
ナマコを放流することで、海洋環境が改善していくことにも直結します。育てる漁業が注目される中、ナマコの存在がますます重要になってくると思っています。豊かな海づくりに貢献できると考えました。
あわせて、漁業の担い手の育成も必要です。従事者の高齢化が進む中、若い人たちが水産業を志すためには、どうしても最低限の稼ぎがないと厳しいです。今回の事業が少しでも、後継者不足解消につながればと考えています。
山田 実は数年前から北海道で場所を探してきましたが、豊浦アイヌ協会会長の宇治義之さんと出会えたことで、豊浦町に当センターを設けることになりました。
宇治 実は道内のナマコの種苗の放流数は足りていないのです。
羽澤 ナマコは食用としての活用と、有効性の高い栄養成分に注目し、漢方の材料としても重宝されています。
宇治 近年、ナマコの需要は高まっているものの、道内の漁獲数は年々減少傾向にあります。
豊浦町の漁業者のほとんどはホタテを養殖しています。昨年、ホタテの中国への輸出が滞りました。リスク管理も考えていかなければなりません。
その第一歩がナマコの種苗生産事業で、今回の取り組みは地元の漁業関係者にも喜ばれると思います。
福吉 道の水産試験場や一部の自治体や漁協などでは、ナマコの放流事業が行われています。しかし、民間企業がゼロからナマコを育て、放流までを行うのは、道内ではわれわれが初めてではないでしょうか。
施設の土地や建物は自己資金で賄う
山田 当センターは、公立はこだて未来大学マリンIT・ラボ所長の和田雅昭教授を、アドバイザリーボードとして研究を進めております。先日も和田教授や大学の学生たちと議論をしてきました。
こうしたアドバイスに独自で考えた方法を組み合わせて、ナマコの産卵・蓄養、そして放流までの陸上における種苗生産を目指しています。
当センターの土地、建物は、すべて自己資金でまかなっています。今回竣工するのは試験棟という位置づけで、12槽の育成用の水槽を作りました。最終的には2030年までには240水槽を目指しています。
福吉 最初の海への放流は、今年の12月から来年の1月を想定してます。
羽澤 スタートは噴火湾の豊浦町ですが、北海道の他の海域についても関心を持っています。オホーツク、道東、日本海では、ナマコの育ち方がそれぞれ違ったり、取れる成分も異なります。
海流についても当センターで調査していきたい。各海域の生態系を崩すことなく、不足するナマコを増やしていくことも、将来的に担うべき役割かなと感じています。
福吉 今回の竣工式には行政や地元の方々も来てくださいます。われわれの事業をしっかり説明させていただきます。今後はいろいろと町と一緒に取り組みたいこともありますので、ご協力いただければありがたいです。
宇治 この取り組みが軌道に乗り、ナマコが豊浦のまちおこしの一つになればいいなと思っています。
羽澤 私は6月から妻と一緒に豊浦町に移住しました。ぜひ、今回のプロジェクトを成功させたいと強く願っています。