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2022年

【日本旅館協会・新旧トップ対談】浜野浩二・ハマノホテルズ社長×大西雅之・鶴雅ホールディングス社長

浜野浩二 ハマノホテルズ社長
大西雅之 鶴雅ホールディングス社長

 

 6月に日本旅館協会の会長が、浜野浩二ハマノホテルズ社長から大西雅之鶴雅ホールディングス社長にバトンタッチされた。新型コロナウイルスの感染拡大で観光業界は大打撃を受けた。同会の新旧トップが、道内観光の持つ潜在能力、そして未来について大いに語った。

 

   ◇    ◇

 

都市ホテルは1年で29年分の収益を…

 

 ――浜野さんは2年前から、日本旅館協会の会長を務めてきました。どのような組織なのでしょうか。

 浜野 日本旅館協会は2012年、国際観光旅館連盟と日本観光旅館連盟が統合して誕生しました。2200の全国のホテル・旅館が加盟しています。そのうち、北海道が175施設になります。

 ――6月9日の日本旅館協会の全国総会で、大西さんが新会長に就任しました。

 浜野 会長職は通常、2期4年務めます。私の場合、1期2年で定年を迎えました。旅館協会にコロナ対策本部があり、大西さんが副本部長でした。

「Go toトラベル」のようなキャンペーン推進と金融対策を担っています。

 いまの旅館協会の取り組みは、1にも2にもコロナ対策です。私の後は大西さんしかないと感じました。北海道で2期4年やろうじゃないかと。

 大西 私は北海道の連合会長に就任時、3つの目標を上げました。①北海道初の本部会長をしっかり支えていくこと、②次世代につなげる組織を作ること、③時代の変化に対応した強い政治力を持つこと、でした。

 その中で、浜野会長とコロナ対策に明け暮れた2年間でした。しかし、依然としてコロナ禍からの復活は、不透明であり、いま一歩まで来ている対策の継続性を考え、お引き受けしようと決意しました。

 ――道内観光の現状について教えてください。

 大西 この2年半で、観光業界は追い込まれました。コロナで皆大変だと言いますが、地域、業態によって、厳しさの度合いが違います。

 もっともダメージを受けたのが都市ホテルとバス業界です。お客様が完全に消滅した時期もありました。都市ホテルの売り上げは、宴会と宿泊で半々です。宴会がなくなり、ビジネスもリモートになり出張が激減しました。

 先日、日本ホテル協会の幹部にうかがうと、加盟会員の平均として、1年間で29年分の収益を失ったそうです。それが2年続いたわけですから、約60年です。すさまじい影響があったということです。

 浜野 コロナ禍で金融機関からのコロナ対策のさまざまな支援を受け、雇用調整助成金といった支援もいただいています。そのおかげで、生き延びているのが現状です。そうでなければ、9割方の旅館・ホテルは倒産し、われわれの業界からは大量の失業者が出ていたでしょう。

 

浜野浩二氏

 

観光は外貨を稼ぐ立派な輸出産業

 

 ――お二方は観光が持つ価値について、正当に評価されていないと感じているそうですね。

 浜野 ピーク時、年間350万人のインバウンド、そして本州から1000万人弱の方が来道していました。

 それだけの人が北海道を訪れて、さまざまに多方面の消費をしていきます。観光は北海道にとって過疎対策にもなります。人、モノ、カネが動くことで、地域の底上げにつながります。

 どのような波及効果を道民が受けているのか。よく知られていないため、観光業は過小評価されている印象です。

 大西 北海道観光振興機構が経済効果の調査をしています。コロナ前の2019年を見ると、道内の観光消費額で1兆5000億円。経済波及効果は2兆2000億円に上ります。

 北海道はインバウンドの最適地でもありました。ある意味、インバウンドは立派な“輸出産業”と言えます。

 たとえば、消費額のうち外国人旅行客は4323億円です。19年における全道の年間貿易輸出額が3121億円なので、それを1000億円以上も上回る数字なのです。いかに観光で外貨を獲得できてきたかということです。

 浜野 北海道はこれまで、熱心に企業誘致に取り組んできましたよね。苫東もつくりましたが、期待していたような成果をあげられていません。道が企業誘致のためにどれだけの特典を企業に与えてきたのか。しかし、思った効果には至っていません。

 観光に力を入れれば、4000億円を超える輸出ができるということです。それを道庁、札幌市などの自治体も理解していない印象を受けます。

 イタリア、スペイン、フランス、スイスなどのヨーロッパ各国は、観光客を呼ぶのに必死ですよ。無理している印象すらあります。

 観光客がいかに大事なのか。国をあげて取り組んでいます。観光が大事だと言うなら、北海道もそうあるべきなのです。私も大西さんも、ずっと言い続けています。

 ――行政が観光対策に消極的な理由はあるのでしょうか。

 浜野 根本に観光は道楽という考え方があります。エンターテインメントにしても、楽しむことを産業化して発展してきました。

 以前は政府系金融機関が、ホテル・旅館に融資するのはけしからん、みたいな風潮すらありました。

 大西 私も若い頃、行政の方から「何もしなくても、観光は自分たちでやっていくから」と言われたことがありました。観光はとくに手を差し伸べなくても、自分たちでやっていける産業だという認識です。いまの観光は違います。世界が、日本各地が行政と一緒になってしのぎを削っています。

 浜野 北海道観光振興機構は予算が増えたといっても全国的に見ると決して多くありません。北海道は青森と同じくらいの予算規模で、中には100億円を超えている県もあります。

 

大西雅之氏

 

道内は観光マース整備が遅れている

 

 ――コロナを経験して、国の観光施策も見直されることになります。

 大西 観光においても「サスティナブル」という言葉を耳にします。その対極にあったのが、「観光公害」「オーバーツーリズム」という概念です。

 国の観光ビジョン構造会議では、24年度でインバウンド4000万人、30年度6000万人という数値目標を掲げています。わかりやすくて、ワクワクする目標でした。

 そうした中、沖縄県はいち早く1000万人を超えたのです。そのかなりの部分が低価格クルーズによるものでした。

 地域にほとんどお金が落ちないのに、人がワッと押し寄せました。観光公害が叫ばれるようになり、北海道でも将来的に大きな問題になるとみられていました。今回のコロナで、もう一度、ゼロからのスタートになり、国の数値目標がリセットされると考えています。数を追い求めるのではなく、観光消費額へと力の入れどころが変わっていくだろうと感じています。

 ――これからの観光活性化で大切なことはなんでしょうか。

 大西 より高付加価値な旅の提案です。たとえば、欧米で人気があり、世界で75兆円のマーケットになっているアドベンチャーツーリズムです。地域にしっかりとお金が落ち、北海道の観光総消費が上がっていくような方向に向かっていくべきだし、そうなると予測しています。

 浜野 そういう意味で道内空港の民営化は、大きな意味があります。これまでは新千歳空港、札幌に観光客が集中していました。それがある部分、質的なものに影響を与えています。

 北海道はこれだけ広くて、たくさんの観光資源もあります。面として活用すれば、ものすごい奥行きがあるわけです。

 旭川、帯広、釧路、女満別といった地方空港のポテンシャルをあげ、新千歳と結びながら、地域の観光資源の面をつくっていきます。

 飛行機だけではなく、空港間のバス輸送をしっかり整備していきます。今後、インバンドのほとんどが個人客になります。外国の旅行者はけっこう果敢に移動するので、バスの路線を調べて最果てに向かうことも考えられます。そういう人たちに利便を与えるということが大切です。

 ちょっと工夫すれば、同時に地域の足にもなります。たとえば、個人化によって余剰の団体バスをハンドリング会社に提供して走らせてみる。バス会社にも経営的に安心感が出てくるでしょう。

 そうなれば、350万人が来道しても決してオーバーツーリズムになならず、そうした課題も解消されていきます。ゆったりとした旅行を受け入れる許容量が増えると思います。それを目指していくべきです。

 ――千歳空港は2次交通の問題がずっと言われ続けています。

 大西 浜野会長からバスネットワークの話がありましたが、確かに新千歳からは可能だと思います。

 ただ、釧路空港などは、バスの本数も限られ、待ち時間の長いものは2時間もあります。釧路空港に降り立つと、市内や、弟子屈・川湯温泉、阿寒湖方面に向かいます。その一つひとつにシャトルバスを走らせても、採算面で成り立ちません。そこは、多様な移動手段を提供していくことが大切です。

 地方空港は規制緩和を行い、観光型マース(MaaS)への取り組みが急務です。これはインターネットを活用した新しい交通ネットワークです。パソコン、スマートフォンから便利な移動交通手段を、効率的に探せる仕組みですが、道内では遅れています。

 たとえば、A地点からB地点に行く場合、バスやレンタカーだけではないということです。

 たとえば、タクシーの乗合をもっとIT化して推進していく。これは「ふるさとタクシー」として、石川県の能登空港で実用化されています。交通過疎地域では、ライドシェアで遊休資産を活用する発想も必要です。

 いま、オートバイのレンタカー施設が、道内の複数箇所にできようとしています。ハーレーやブガッティのような世界的な名車や、環境に優しいイーバイクも貸し出します。移動手段には鉄路も含まれます。さまざまな移動方法を組み合わせて利用していただきます。

 栃木県の日光・鬼怒川エリアでは、「NIKKO MaaS」というサイトがあります。移動手段として電車やバス、シェアサイクル、カーシェアなどを検索でき、観光施設チケットをスマホから簡単に、検索・予約・決済が可能です。

 観光地とさまざまな移動手段を結びつける先進的な取り組みが動き出しています。

 浜野 観光は地域間競争ですからね。幸いにも北海道は食と大自然と温泉で、黙っていてもものすごい人気なのです。

 大西会長がおっしゃる通り、移動方法を分散させなければ、ポテンシャルは上がらないと思います。すべて札幌中心で動いていますからね。地方、地域活性化のため、その方法を民間だけではなく、道も真剣に考えていかなければなりません。

 

人手不足解消のために価格アップを

 

 浜野 私が当ホテルの社長になり半世紀が経過しますが、実は宿泊価格は倍くらいにしか上昇していません。当時と比べると、大学生の初任給は10倍になっています。大西会長の持論として、「適正価格を打ち出していこう」と話されていますね。

 大西 はい。私たちの業界で働く従業員には、サービス産業の中で、給与面だけではなく、働き方や生活環境も課題があります。観光地のホテルであれば、従業員が都会の文化的なものに接する機会も少なくなります。

 観光業界の社会的地位の向上に重きを置いていく必要があります。きれいに言えば、夢のある業界になっていかなければならないということです。少なくとも待遇もサービス業界の中で平均以上を目指してきたい。

 当面、われわれの業界が直面する大きな課題が人手不足です。飲食、宿泊産業に人が集まらなくなってきています。根本的な解決策は労働生産性の向上による待遇改善、とりわけ、単価アップによる収益性の向上が重要です。

 安売り競争ばかりしていたらみなが疲弊していきます。よく、「大西さんのところは強気ですよね」と言われます。高級旅館ですよねと。欧米と比べれば、当社のホテルは普通の価格帯です。私はできるだけ、価格競争しないホテルを作りたいと思っています。

 浜野 コロナ禍で旅行代理店も異常とも言える価格競争です。名だたる宿泊施設を巻き込みながら、自らの首を絞めていると思います。

 我が社のホテルは、こだわるサービスに要する費用から導かれた価格を提示することにました。その代わり、徹底的に無駄を省こうと。料金を下げることが一番のサービスという考え方には違和感を覚えます。

 お客様の満足感と同じレベルで、働く人の満足感が両立しないと、観光業界は成り立たなくなります。

 大西 業界の人手不足が叫ばれていますが、北海道ではまだ切羽詰まっていません。とくに首都圏近郊の観光地は、お客様がいないから一部の部屋を閉めているのではなく、働き手がいないから使えない状況です。

 浜野 一度宿泊業界を離れた人材が戻ってこないケースも見受けられます。インバウンドが増えてコロナ前くらいに需要が回復しても、それに対応できない問題が出ています。

 

 

構造改革が遅れた道内の宿泊業界

 

 ――昨今の円安でインバウンドには、日本への旅行が魅力的になります。

 大西 確かに円安環境はインバウンドには追い風になります。

 スイスのダボス会議の主催団体である「世界経済フォーラム」が、各国の観光の競争力を比較した調査結果を発表しました。日本は交通インフラの利便性、安全性、自然や文化の豊かさの魅力が評価され、世界1位になりました。調査開始以来、初めてのことです。これは旅をしやすい環境が整っていることを意味しています。

 浜野 円安でのマイナス面を、観光で補っていく考え方が必要ですが、国もそうした思いに至っていないのではないでしょうか。宿泊施設は輸出産業のベースです。決して主役ではありません。

 大西 これまで北海道がどんな観光で伸びてきたかといえば、大型のホテルで均一のサービスにするというスタイルです。いわば、10畳一間でユニットバス付きのような形で、団体を誘客するというものです。

 全国的にはバブル崩壊とともに、団体旅行は下火になりましたが、北海道はその期間が伸びて、20世紀終わりまで客室をどんどん増やしていきました。

 200室以上のホテルは本州に行けば、ほとんどないですが、道内はこの規模なら中堅です。大きいところは400室や600室になります。

 団体が減少傾向となり、個人化が加速するとなった時、北海道には違う波が来ました。インバウンドです。国内団体が弱くなった部分を海外の団体客が救った形です。そのため、構造改革が遅れました。

 団体ニーズは修学旅行も含めて、いまでも一定程度あります。昔は団体と個人の割合が7対3だったのが、3対7に変わってきました。このずれが生じている場合、業態を転換しなければなりません。

 浜野会長がよくおっしゃっていますが、このタイミングで過剰競争を緩和しながら、国際競争力のある、ゆとりの旅に対応できる旅館・ホテルに変えていきましょうと。そうした施設の改装に対する国の支援についても、観光庁に要望しています。

 浜野 たとえば、400室を200室にすれば、供給の過剰感が解消されます。旅館そのものの高級感も出てきて、単価も上がっていくでしょう。何よりも、従業員が働きやすいホテルに生まれ変わります。

 私は再三、「対応力のある業界になるためのベースにしっかりと補助してください」と、国に申し上げています。リーマンショックの時から自動車業界に年間1700億円ずつ、経産省が補助しています。いまでも、車1台買うと補助金がでますよね。

 なぜかといえば、日本にとって自動車は大切な輸出産業だからという視点です。

 観光産業は全国規模では、トヨタ自動車1社くらいの経済効果があります。業態転換を図って、個人化に備えるために補助をするのは、極めて妥当な政治判断ではないのかなと。でも、なかなか国の理解にはなりません。

 大西 ウィズ、アフターコロナの最初の頃は、コロナ前の稼働は保てません。当面は7割から8割の稼働になると思っています。単価を上げていかなければ業界は成り立たないのです。そのとき、どうすればユーザーに理解をいただける単価アップになっていくのか。

 私はSDGsの考え方だと思っています。働き方改革やグリーンエネルギーといった取り組みを打ち出して、国の支援を求めていく。

 あわせて、消費者にもこういうサービス体系をとるから価格がアップしますよと。それを業界として議論しなければならないですし、私の日本旅館協会会長としての使命でもあります。

 北海道の観光がリーディング産業になっていくため、全力で活性化に向けて取り組んで行きます。

 浜野 鈴木直道知事はコロナが増えた時、「どうみん割」に消極的になりました。旅行と感染拡大の因果関係はありません。北海道の観光の産業における位置を良く理解され、もっと前向きになってほしいです。

 札幌市は北海道観光の中心ですから、道ともよく連携して頂きたい。今後は協力して、一緒に取り組むことも必要ではないでしょうか。

 ――本日はお忙しいところありがとうございました。

(撮影時のみマスクを外しています)

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