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2021年

「お客さまのための投資が業界を生き残るカギとなる」改革断行の常口アトム・三戸篤人社長の展望

三戸 篤人 常口アトム社長

 不動産仲介・管理の常口アトムが近年、新規事業などに力を入れている。積極的に事業展開できる背景には、長年取り組んできた社内改革が実を結んできたため。業界道内最大手として、コロナ禍の対応、展望なども聞いた。

最盛期の大台を目指そうという気持ちで

 ――会社設立の経緯を教えてください。

 三戸 当社は1992年2月の設立です。もともと「常口」の商号で展開していた不動産賃貸仲介業のオーナー企業が不動産への過剰投資などで経営難に陥ったことから、新たな受け皿として当社が誕生しました。メインバンクだった北海道銀行の支援がベースになっています。

 旧・常口の経営基盤などもあり、管理戸数は現在、約5万8000戸で道内1番手、全国でも20番手以内となっています。道内シェアは30%で、これだけ高いシェアは全国的にも珍しいと思います。

 賃貸契約数は年間3万5000件で、これも全国8番手です。

 当社の強みは全道に張りめぐらされた“ネットワーク”にあります。管理物件はもちろん、店舗は全道に65店舗あり、ほとんどが直営になります。社員は約700人で、パートを入れると全従業員は約800人になります。

 ――コロナ禍の影響は。

 三戸 業界全体としては、ものすごく大きな影響を受けているというところまでには至っていません。コロナ禍でも住まいは必要不可欠なものです。

 北海道でみると、昨年は緊急事態宣言が発出されたのが春でしたから、企業の異動時期を直撃し、転勤などが停滞しました。当社もそのあおりを受け、昨年度の売り上げは5%ほどダウンしました。

 ――2010年には社員の不祥事が立て続けに起こりました。企業イメージにも影響が及びました。

 三戸 道銀本体と資本関係はありませんが、私を含め、これまで3代続けて道銀OBが社長を務めています。その理由の1つがコンプライアンスの強化でした。年1回の集合研修をはじめ、WEB研修を毎月実施するなど、現在、コンプライアンスに関する社員教育を徹底しています。

 このほか、社内改革としては5年ほど前に歩合制を廃止しました。必ずしもそうとは言い切れませんが、成果主義はどうしてもコンプライアンスなどがないがしろになってしまいがちです。歩合制を廃止した代わりに、過去2回の大きなベースアップをおこない、成績優秀者は賞与などで優遇しています。

 中途採用が多い業界ですが、当社では6、7年ほど前から新卒採用をおこない、毎年20人程度が入社しています。

 社員の労働環境の改善にも取り組んでいます。先ほど申し上げた歩合制廃止と同時に退職金制度を導入しました。3年前には毎週水曜日を店舗の定休日としました。それまでは年中無休でした。もちろん、お正月、お盆休みも設けました。昨年からは毎週火曜日と木曜日をノー残業デーとしました。

 ――最近、お客さまやお取引先から「常口は変わったね」と言われることが多いそうですね。

 三戸 ここ数年、そうした声をかけていただくことが多くなったと感じています。「過去、不祥事がありましたよね」と言われても、続けて「でも、変わりましたよね」と。その言葉を頂戴すると、当社の体質改善を評価していただいているということですから、ありがたく、またうれしく思います。

 10年近くかけて、過去の不祥事がようやく払拭されたと感じています。不祥事が重なっていたころ、本州大手企業の道内転勤に関する家探しのオファーが、まったくなくなりましたが、それもここ2、3年で回復しています。安定した売り上げの確保につながっています。

 ――今後の目標は。

 三戸 ここ数年、売上高は80億円後半から90億円前半で、業績は堅調に推移しています。かつて不動産売買事業を積極的に展開していた時代があり、最盛期は100億円超を計上したことがありました。いまは、その大台を目指そうという気持ちで、社員が業務に取り組んでいます。

 ただ、数字を追求するだけでは、以前と同じように成果第一主義になってしまうので、そうはならないようにしたい。

 来年は設立30周年という節目を迎えます。コロナ禍の影響もあったので、売上高100億円は再来年の目標に修正したいと考えています。

©財界さっぽろ

相談に応える新部署、 密回避の店舗づくり

 ――近年は積極的に新規事業にも取り組んでいます。

 三戸 一昨年、ソリューション営業部を新設しました。バブル崩壊から約30年たちました。その際に建てられた一般住宅やマンション、アパートなどは改修などの適齢期を迎えています。

 その古くなった不動産を売りたい、修理したいというオーナーからの“相談に乗る”のが新部署になります。そして、物件の売買やリノベーション、リフォームなどにつなげます。

 入居者のニーズも時代にともない、変わってきています。核家族化による間取りの縮小、Wi―Fi環境の充実、防犯面の重視などです。それらに対応したリノベーションの提案などをさせていただいています。

 当社としては、商業施設などの大きな物件を対象としているわけではなく、ターゲット層は個人経営者や地主の方々です。地域に根ざした細やかなサポートをしていきたいという思いから事業をスタートさせました。想定よりも相談件数が多く、事業実績も出始めています。

 道銀とは、定期的に不動産に関する情報交換をおこなっています。ビジネスマッチングという枠組みを設けて、お互いの事業につなげています。たとえば、道銀から持ち込まれた話が契約に結びつけば、当社は道銀に手数料を支払っています。そこはあくまでもビジネスという位置付けですから。

 金融機関とのビジネスマッチングは現在、信金や信組とも実施しています。3年前にスタートしましたが、これまでに30~40件ほどの事業の契約が成立しています。

 ――コロナ禍の対応としては。

 三戸 業界ではオンライン内見などを導入する企業が急増しました。お客さまのためには、こうしたシステム、IT投資は必要不可欠。今後、ますます必要になっていくと思います。

 投資には当然、費用がかかります。全国大手に対抗できるくらいの投資ができるかが、今後の業界を生き抜くカギになるとも感じています。

 不動産仲介の店舗は、都市部では狭いという印象を持つお客さまが多いと思います。コロナ禍ということもあり、これでは時代にマッチしません。店舗づくりの見直しも必要だと考えています。清潔感があり、密を回避できるようなゆったりとした店舗づくりが全国的に広がりをみせています。

 当社では昨年、札幌市内と函館市内に新しいスタイルの店舗を試験的に設置しました。駐車場も多く確保し、ロードサイド店舗という位置付けです。内装にも気を配り、それなりの費用もかかりましたが、設置から半年ほどで、集客は順調です。投資効果はあったとみています。

 全65店舗のうち、札幌市内には40店舗ありますが、昔のように必ずしも地下鉄沿線に構えていればいいという時代ではなくなってきています。今後、既存店を統合し、ロードサイド店舗を増やしていきたいと思っています。

 この投資も「お客さまのために」、という想いが根底にあります。とくに住まいに関する事業は、お客さまの信用・信頼で成り立っています。それが経営の基本だと考えています。コンプライアンス強化も引き続きおこなっていきます。お客さまからの信用・信頼に応える企業であり続けたいと思っています。


……この続きは本誌財界さっぽろ2021年6月号でお楽しみください。
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(みと・あつひと)1952年7月5日、余市町生まれ。小樽商科大学卒。75年北海道銀行に入行し、常務執行役員地区営業担当兼本店営業部本店長などを務めた。その後、北海道リース社長をへて、2018年7月から現職。