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2021年

「音声のすべてがコンテンツになる」AIR-G'エフエム北海道新社長が語るサバイバル戦略

土屋敦司 エフエム北海道社長

 北海道新聞社の取締役営業局長だった土屋敦司氏は昨年6月、グループ会社・エフエム北海道の社長に就任した。今春の番組改編の狙いや、市場拡大が予想される音声コンテンツ事業の可能性などについて聞いた。

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不安解消、ラジオで笑顔を届けたい

 ――社長就任から半年が経過しました。

 土屋 ラジオの特性だと思いますが、驚いたのはリスナーとの距離の近さでした。一緒に番組をつくるということを肌で感じています。

 SNSの時代ですから、リスナーの反響が瞬時にわかる。そうした楽しさと緊張感を持ちながら、経営に取り組んでいます。

 ――コロナ禍でラジオが見直されています。

 土屋 自粛期間中、家でラジオを聞く機会が増えたといわれています。また、災害をはじめ、有事の際にはラジオの発信力は役に立ちます。

 コロナ禍以降、リスナーが増えたという調査結果もあります。音声メディアの価値向上にもつながっているので、喜ばしいことです。

 ――春改編について。

 土屋 番組改編にあたり、3つのテーマを掲げました。1つ目は「リスナーとの距離を縮める」、2つ目は「道民に寄り添った番組づくり」、3つ目は「笑顔と音楽を北海道に届ける」になります。今回の改編で最も重点を置いているのが「笑顔」です。

 コロナが広がり、不安などが先に立って、笑顔が少なくなっているように実感しています。やっぱり笑うことって、とても大切じゃないですか。不安の解消にもつながると思います。

 今回の改編で、平日の昼の時間帯で「Be My Radio」(月~木、12時~15時55分)をスタートさせました。

 この時間帯はこれまでずっと、女性パーソナリティーが1人で音楽をかけながら、リスナーとツーウェイで楽しむというつくりでした。今回、初めて男女の掛け合いスタイルの番組にしました。

 また、ユーモアセンスのあるパーソナリティー4人を起用しました。曜日によって担当が代わります。

 この番組の裏テーマは「ウイット」。ギャグではなく、誰も傷つけない高品質な笑いを提供したいと思っています。

 全体でいえば、7本のワイド番組のうち、放送時間の変更を含め、4本が新編成となるなど、3年ぶりの大型改編となります。

 ――ビデオリサーチによる2020年度の聴取率調査はFM2局(エフエム北海道とエフエム・ノースウエーブ)がコロナ禍を理由に不参加でした。

 土屋 残念な思いはありました。ただ、次の調査は参加したいと考えています。順位争いということではなく、個々の番組がリスナーにどう評価されているかの指標にもなりますから。

 ――エフエム・ノースウエーブの身売りが話題になりました。

 土屋 ライバルではありますが、リスナーを広げるという業界全体の課題を共有しています。同じFM局として、放送設備などのインフラ面も共有しています。支え合っている状態ですから、これからもラジオを盛り上げていけるようにいっそう切磋琢磨していきたいと考えています。

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魅力ある音声コンテンツづくりを

 ――コロナ禍による経営状況は。

 土屋 音楽関係とのつながりが強い業界ですので、イベント事業が収入に直結しています。そのイベント事業はいまだ見通しは立ちません。

 メディア業界全体が影響を受けている広告収入は、前年を超える見通しですが、当社も依然として厳しい状態は続いています。

 21年3月期決算については、営業利益は赤字でしたが、経常利益はギリギリ黒字にすることができました。コロナ禍で当然、番組づくりにも影響がでました。

 一方で、自粛によって番組に出演できなくなった方をリモートでつなぐなど、平時では得ることができなかったノウハウを学ぶことができました。今後の番組づくりに生かしていきたいです。

 ――放送以外の音声コンテンツ事業に取り組むラジオ局が増えています。

 土屋 エフエム北海道でも、ポッドキャストやYouTube、AuDee(系列局の音声配信プラットホーム)などを活用して、音声コンテンツの配信に取り組んでいます。

 コロナ禍もあり、ラジオ同様、音声コンテンツに触れる機会が増えていると思います。テレビ業界では、民放各局が連携したポータルサイト「TVer(ティーバー)」のような動画配信サービスが一般的になってきました。

 間違いなく、ラジオもこういう方向に進んでいくんだろうと思います。ビジネス面でも、これから期待が持てる分野だと感じていますが、まだまだ環境が十分に整備されているとは言えません。

 ただ、音声のすべてがコンテンツになるという流れはますます加速していくと思います。リスナー側の立ち場からすると、将来、地域間の垣根がさらになくなっていくのではないでしょうか。ラジオと音声コンテンツの垣根もなくなるのかもしれませんね。

 すでにエフエム北海道は単なるラジオ局ではなく、音声コンテンツクリエーティブ事業者だと捉えています。引き続き、リスナーに興味を持ってもらえる音声コンテンツづくりを探求していきます。それが今後、生き残っていくカギになると考えています。

 ――エフエム北海道の今後について。

 土屋 来年の9月15日に開局40周年という節目を迎えます。コミュニケーションネーム「AIR-G’」のGは、「Gee Great=なんて素敵・素晴らしいんだ」と、リスナーに喜んでもらいたいという思いが込められています。

 40周年に向けて、その先も、今回の改編のメーンテーマであるリスナーに笑顔を届けるラジオ局であり続けたいと思っています。


……この続きは本誌財界さっぽろ2021年5月号でお楽しみください。
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