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2022年

池田憲士郎・ヴォレアス北海道社長「食・環境事業でチーム経営安定化」

池田憲士郎 ヴォレアス北海道社長

 ヴォレアス北海道は、旭川市を拠点に活動するプロバレーボールチームだ。今季はV2リーグ初優勝を果たし、V1昇格をかけた入れ替え戦に臨むも、わずかな差で涙を飲んだ。社長の池田憲士郎氏を直撃した。

ファンからは「感動をありがとう」

 ヴォレアス北海道は2019-20シーズン、V1昇格のチャンスを得たが、入れ替え戦がコロナの影響で中止。その翌年は入れ替え戦で敗退。そして、21-22シーズンは1位で通過し、3度目となる入れ替え戦に挑んだ。結果は1勝1敗で終えるも得点率の差で、惜しくもV1昇格を逃した。

 以下、池田憲士郎社長へのインタビュー。

       ◇   ◇

 ――社長の目線から、今シーズンを振り返って。

 池田 今季はチームの弱い部分を、新選手の加入で補強することができました。予算を増やした訳ではないですが、限られた財源でチームをうまくやりくりできたかと思います。

 入れ替え戦では、選手を早めに東京入りさせて、試合時間に合わせたコンディショニング調整も行いました。練習環境の整備も予算の範囲内で、できる限りの準備を行いました。

 エド・クライン監督の手腕にチームを託す部分も大きかったかもしれません。スタッフやコーチもチームの力を最大限引き出してくれました。

 後悔があるとすれば、もっとチームの強化費を積み増すことができたのではないかと感じています。コロナ禍で集客が厳しく、費用を捻出できなかったというのが現状ですね。

 ――V1リーグ昇格をかけた入れ替え戦は、惜しくも敗退しました。昇格すると何が変わりますか。

 池田 経営面からお話しさせていただくと、全体的な試合数が増加するので興行収入が上がります。今まで月に1回の開催だった本拠地の試合が、2週間に1回という頻度で試合を開催することができます。

 さらに、V1は各国や日本の代表選手などが多く在籍しています。国内最高峰のバレーが地元で見られるというのは大きいですよね。

 ――入れ替え戦後、旭川市民の反応はいかがですか。

 池田 設立当初は「頑張ってるね」という言葉を掛けられることが多かったですが、最近は「惜しかった、あともう1歩だったね」と、より具体的な声掛けをしていただくようになりました。それだけ、市民に浸透してきていると思います。

「感動をありがとう」という言葉も多くの方からいただきました。お世辞ではなく、本音で言ってくれたと思っています。

 私は地方こそ、ライブなエンターテイメントが必要だと思います。弊社のミッションは「未だ見ぬ熱狂と誇りの共創」。スポーツを通して、この街の誇り、北海道民である誇りを持ちながら熱狂してほしいです。

 ヴォレアス北海道の試合は、バレーやスポーツに興味がない方でも楽しめる工夫をしています。来場者に後悔はさせません。すてきな週末を過ごしていただけると思います。

 ――今季でチームの中心選手である越川優選手が引退しました。

 池田 越川選手は日本代表経験が長くて、海外でのプレー経験もありました。加入当時は、本物のプロが来たという感じでした。

 彼が入団する以前のチームは言ってしまうと、答えがない中でプロになってしまった選手の集まりという感じでした。その中でプロとしての責任やあるべき姿勢を周りの選手に示してくれたのは、チームにかなり良い影響を与えてくれたと思います。

©財界さっぽろ

経営は血を流し続けている状態

 ――リーグ最終戦後のあいさつでは「経営が苦しい」とファンの前で話していたのが印象的でした。

 池田 正直、今が経営的には一番厳しいです。業種的にはエンタメなので、ファンの皆様を元気にするのが仕事です。ネガティブな情報を伝えるのは難しいところでした。しかし、正直にお伝えするのも私は大事なことだと思います。

 ヴォレアスはプロチームなので、試合という名の興行を打ち、お金を作らなければなりません。現在、チームの収入割合はスポンサー収入が6割、チケットの売上が3割、グッズの売り上げが1割で成り立っています。

 しかし、コロナの感染拡大に伴い、試合会場の収容人数は最大で2分の1に制限されました。この数字は、仮にチケットが売り切れても試合の開催費用が上回ることを意味します。全体収入の3割を失っているような状況です。この2年間は“血を流し続けながら”試合を開催している感じですね。

 演出面の予算を削減しようと思えば、圧縮することは可能です。しかし、そこはお客様の満足度に直結するところです。我々のコンセプトは、バレーを交えた総合的なライブエンタメをお客様に提供すること。演出面を大幅に削ってしまうと弊社の存在意義がなくなります。少しずつ予算の削減はしており、ご協力いただいている業者さんにはとても感謝しています。

 ――経営環境が厳しい中、どういった取り組みを行っていますか。

 池田 試合を開催するといったライブエンタメ事業以外にも、2つの事業を始めています。それが食の事業と環境事業です。

 エンタメを楽しむためには、自分自身が健康でいることや生活環境が整っていることが大前提です。このベースがあってこそ、娯楽は成立するものだと私は思っています。電力不足になっている中、エンタメに行こうとは思わないですよね。だから我々は、その環境作りにも取り組まなくてはいけないと感じ、事業を始めました。

 ――1つ目、食の事業について教えてください。

 池田 シュガーフリーの食の提案や「VOREASアカシア蜂蜜」の販売を行っています。そして、蜂蜜を使用した食品開発や販売もしています。販売をスタートして2年になります。

 以前から、スポーツを見ながらジャンクフードを食べることに違和感を感じていました。子どもたちは未来の財産だと思っています。アスリートになりたいと夢見る少年少女が、ジャンクフード片手にスポーツを見ているのは不健全ですよね。

 全員が完璧な食生活を送ることは難しいですけど、そういう気づきがチームとして、あってもいいのかなと思います。

©財界さっぽろ

環境問題へ取り組むには費用が……

 ――2つ目の環境事業は、どういった取り組みを行っていますか。

 池田 環境事業を本格的に始めようと考え出したの2年前です。イベントは楽しい半面、多量のゴミが出ます。エンタメに隠れた負の部分をどうにかしないといけない。そう考え、21年6月に「VOREAS GREEN DEAL宣言」という独自の環境宣言を出しました。

 経済産業省がカーボンニュートラルを2050年までに達成するために提唱した「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」にも賛同を表明しています。道のゼロカーボン推進局から依頼を受けており、講演会も行っています。

 商品を通じた事業としては、石油の使用量を削減する液体燃料触媒「SLOW」の販売です。昨今は、EV化やソーラー発電などで、石油依存を脱出しようという流れがあります。しかし、一気にみんなが移行できないですよね。設備投資も必要になりますから。

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 SLOWという商品は、今までと同じ経済活動を行いながら約15~30%の石油使用量を減らすことができます。CO2の排出をゼロにすることはできませんが、移行期間の中でワンクッション挟むものとしては最適な商品です。

 原油価格の高騰も相まって多くの引き合いをいただいています。現在、官公庁や大手企業にもご検討いただいている状態です。非常にニーズの高い製品だと感じております。

 プロチームの立場から言わせていただくと、ヴォレアスはスポンサー様から宣伝広告費をいただき、運営をしています。その中で、我々は一方的に広告費をいただくのではなく、パートナーとして、企業が抱えている課題にもお応えしていくのがあるべき姿だと思っています。

 弊社は環境事業以外にもテクノロジーの分野も得意です。例えば、ヴォレアスの試合開催時、お客様の電子チケット利用率は98%です。このようなチームは他にないと思います。企業が抱えるDX(デジタルトランスフォーメーション)の課題解決のサポートができると思います。

 プロスポーツチームはさまざまな企業と関わっています。そうした関わりを生かして、お力になれることもあると思いますので、存分に利用していただけたらと思います。(構成・古沢)


……この続きは本誌財界さっぽろ2022年6月号でお楽しみください。
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