話題の人

2022年

包括連携協定締結記念対談 伊藤亜由美(クリエイティブオフィスキュー社長)×橋本幸(北海道開発局長)

伊藤亜由美氏 クリエイティブオフィスキュー社長
橋本幸氏 北海道開発局長

北海道開発局とクリエイティブオフィスキューが包括連携協定を締結した。食や観光を通じた北海道の魅力発信や地域振興などの取り組みで協業する。官庁と芸能事務所という異色のタッグ実現のきっかけと真意を、両トップに直撃した。

   ◇    ◇

畑違いの分野でもプロセスは同じ

 ――橋本さんは北海道大学演劇研究会を経て1987年設立の「札幌ロマンチカシアターほうぼう舎」という劇団で音楽を担当。伊藤さんは鈴井貴之さんが旗揚げした「劇団ノーティーキッズ」に1986年に入団、その後90年に立ち上げた劇団「OOPARTS」にも所属されていました。

 橋本 現北海道演劇財団理事長の斎藤歩が座長を務めていました。とてもアンダーグラウンドな劇団で、やたら人は死ぬし、血糊もべったりという。

 伊藤 私はほうぼう舎の芝居が大好きで、よく見に行っていましたよ。

 橋本 私たちは、西区の倉庫を借りて拠点にしていました。鈴井さんがチラシの折り込みに来られたこともありましたし、何もかもアナログで手づくりの時代でした。

 ――当時の演劇ファンからの人気を分け合う存在。

 伊藤 公演ごとにグッズをつくったり、映像制作をしたり。とにかく、もっと大勢に見てもらうためにはどうしたらいいのかを、ずっと考えていました。

 橋本 私たちが思いつく宣伝といえば、譲ってもらったトラックにゴテゴテの装飾をして、スピーカーから「東洋一の大劇団」とか流して市内を回るのが限界でした(笑)。OOPARTSは、当時の演劇界に新しい風を吹き込んでいたと思います。

 ――おふたりは当時から面識があった?

 橋本 いえ、なかったんです。昨年7月の開発局長就任後、ご挨拶回りに伺う中で、開局70周年を機とした企画にご協力いただいたお礼を兼ねて亜由美さんにお会いしたのが昨年のこと。開発局長としてというのはもちろんですが、同じ芝居人としてお会いしたいという気持ちも大きかったですね。

 ほうぼう舎はJR琴似駅北口の劇場を拠点にしていましたが、私はその劇場を前身とする「コンカリーニョ」という劇場運営NPOの副理事長を務めています。

 コンカリーニョは一度閉鎖され、さまざまな方々の協力によって再開して今に至るのですが、そこで出している上演案内パンフの発行をオフィスキューさんにご支援いただいたこともあります。

 亜由美さんも活動の原点は駅裏8号倉庫なので、今日の連携協定締結式では、最後に何の脈絡もなく2つの倉庫の写真を並べて投影しました(笑)

 伊藤 初めてお会いする前に、コンカリーニョ理事長の斎藤ちずさんからご連絡をいただきまして。ちずさんは演劇界の先輩でとてもお世話になっている方ですが「開発局長が会いたいと言っている」というのには、びっくりしました。

 その後ほどなくして初めてお会いしたのですが、こう言っては失礼かもしれませんけど、全く“官僚”然とされていないわけです。

 橋本 (笑)

 伊藤 肩書きというよりも、人物本位でお話をしていただいたのがとても印象に残りましたし、今までのセオリーや慣習にとらわれない方だなと思って。

 ――そこから協定の話が進んだ。

 橋本 はい。オフィスキューさんのこれまでの活動について伺う中であらためて感じたのが、北海道に対するこだわりの強さです。

 北海道に根ざして活動されている企業はもちろんたくさんありますが、エンターテインメントという切り口の独特さとも相まって、オフィスキューさんの北海道に対するこだわりはとてもダイレクトに響きました。“温度間”に打たれた、というか。

 ――お互い畑違いの分野で活躍されています。

 橋本 私たちは社会資本整備、オフィスキューさんはエンターテインメント。方法は別々でも目指すものが重なり合うことは当然あるし、実際にそう感じることも多々あります。それがウポポイの広報や、開局70周年イベント等のご縁に必然的につながっていったと思っていますし、そのことを確認、共有したかったというのが、亜由美さんにご相談したきっかけです。

伊藤亜由美氏

本道の姿を語る機会を持ちたかった

 ――協定のもとで具体的に進める取り組みは。

 橋本 早速ですが、今年6月に「2050年の北海道の姿を考える懇談会」を予定しており、そこへのご参加をお願いしています。

 私たち北海道開発局は、戦後、1951年より「北海道総合開発計画」という閣議決定に基づいて行政を進めており、現在は16年に策定した第8期計画のさなかです。

 しかし計画期間の途中から、新型コロナウイルス感染症の拡大、2050年のカーボンニュートラル実現など、社会経済状況は激しく変化を続けています。

 必然的に計画も見直しが必要となり、3月に国土交通省の諮問機関で第1回の会議が開催されました。そこでは2050年の北海道のあるべき姿を描き、そこからバックキャスティングで施策を考えていくというアプローチで議論されています。

 私たち開発局は、過去からさまざまな民間企業と包括連携協定を締結させていただいています。

 北海道コカ・コーラボトリング、北海道銀行、北洋銀行、北海道日本ハムファイターズ、セコマ、ヤマト運輸、クリプトン・フューチャー・メディアなど。

 今後もこうしたお付き合いを広げて行きたいと考えていますが、北海道に根差し、北海道の未来を考えている経営者の方々が描く未来像をお伺いする場を継続的に持たせていただきたいと考えました。

 そしてそこに亜由美さんにもぜひ加わっていただきたいと強く思っておりました。エンターテインメントの業界で北海道にこだわり続けて成功して発信している、唯一無二の立ち位置ですので。

 伊藤 協定締結に先立って、開発局さんが行った「撮ってもいいね!北海道動画コンテスト」に、当社の森崎博之(TEAM NACS)が審査員として参加しました。

 私もコンテストの結果発表の場で動画を見ましたが、どれもすごくクオリティが高かったんです。

 高画質の動画を撮ったり編集して“映える”ものにしたり、ということがスマホで可能な世の中だからということもあります。でも、こういうところから未来のクリエーターが生まれる可能性ってあるはず。

 その地方に住んでいる人だけが知っている素晴らしい景色、映像がある一方で、そこに住んでいない人が見ないと、素晴らしさがわからないということもあると思います。映像に限らず、今回の取り組みをもとに道内の各地域に点在している“可能性”を一緒に見つけていくことも連携してやっていけたらと思います。

橋本幸氏

今の当たり前が当たり前じゃない

 ――2050年の北海道の姿は。

 橋本 目指す姿は、やっぱり人口減少にどこかで歯止めをかけ、北海道の価値である食と観光を生み出している地方部に住み続けられること、です。

 私たちはインフラ整備という立場でそれらを目指していますが、たとえば北海道遺産のようなインフラやアイヌ政策など、関連する価値を「知っていただく」アクションも私たちに不可欠と考えており、その点もオフィスキューさんに学ばせてほしいと思っています。

 ――オフィスキューはそのころどうなっているでしょうか。

 伊藤 当社は今年創業30周年を迎えますが、30年前当時、北海道の食といえばラーメンやジンギスカン、という定番しか注目されていませんでした。そこから30年かかってやっと、北海道にしかないような食材でおいしい料理を出す料理人が増えてきました。

 観光も星野リゾートさんをはじめ北海道の魅力を理解する事業者が増え、それを生かしたサービスが提供されるようになりました。

 この30年でレベルは数段上がったと思います。

 次の30年は、もっと地方で自信を持ってものづくりをして、この場所じゃなきゃダメという人たちが点在して、コミュニティが生まれていけばいい。地方の価値がもっと高まっていけば、「世界の中の北海道」になるのも夢じゃないはずです。

 私が北海道産のワインに感動して「ぶどうのなみだ」という映画を公開した14年、道内のワイナリーは数えるほどでした。でも今は50軒以上。フランスの有名ワイナリーが可能性を感じて函館市内に土地を買ってワイン造りを始めるまでになりました。10年経たずしてここまで変わるわけです。

 30年後には「今の当たり前が当たり前じゃなくなっている」――そういう気がすごくしています。

 橋本 だからこそ、今、こう変える、こうだったらいい、ということを純粋に議論していく必要があると私たちも思っています。

 ――本日はお忙しい中、おふたりともありがとうございました。


……この続きは本誌財界さっぽろ2022年6月号でお楽しみください。
→Webでの購入はコチラ
→デジタル版の購入はコチラ