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2022年

星野佳路・星野リゾート代表「地域に定着する観光 産業で外資と戦う」

星野佳路 星野リゾート代表

 2022年1月、白老、小樽、札幌・ススキノに星野リゾートの3施設がオープンする。道内での客室は一気に2100室を超える。マイクロツーリズム(近場で過ごす旅のスタイル)を提唱する星野佳路代表に今後の道内戦略を聞いた。

©財界さっぽろ

旭川には都市観光の高い能力がある

 ――04年にトマムでの運営を開始され、いまや一大リゾート地となりました。

 星野 当時、トマムは赤字でしたし、日本国内でも世界でも、評価される場所ではありませんでした。

 北海道のスキーマーケットや、インバウンドを含めた集客のブランドマーケティングにおいて、トマムなど東側のリゾート施設は出遅れていました。その頃、評価され始めていたのはニセコエリアなど、西側のスキー場です。

 旅行会社で発行しているスノーリゾートのパンフレットを見ても、まずは西側のエリアが紹介され、トマムというのはその次の次の次くらいでした。

 課題は西側のリゾートに対して東側がどう魅力を打ち出すかということ。

 西側では豊富な積雪量がアドバンテージとなる一方、東側では気温が低く、ドライで上質なパウダースノーが降ります。当時、パウダースノーを求める世界の市場は成長を続けていましたから、この気象上の最大の特徴をアピールすることにしました。

 そこでトマムでは「冬山解放宣言」を提唱しました。管理されたゲレンデ以外を滑ることを積極的に奨励する、日本で初めてのスキー場になろうと考えてのことでした。当時は安全面などでご指摘も受けましたが、狩振岳のキャット(雪上車)ツアーなど、多くの方にご好評を頂いています。

 ――トマムの次に開業されたのは18年のOMO7(おもせぶん)旭川 by 星野リゾート。現在全国展開されているOMO(おも)ブランドの第1号でした。

 星野 星野リゾートは5つのサブブランドを展開しています。OMOは都市観光をテーマにしたブランドで、全国の魅力ある地方都市全てにOMOを展開していきたいと考えています。

 旭川は日本の地方都市の中でも、魅力的な食があり、旭山動物園があり、雪山が近くにありと、観光に関して非常に高いポテンシャルを持った街です。OMOというブランドの将来像を考えたとき、旭川こそ第1号の場所にふさわしいと考えました。22年1月には小樽と札幌・ススキノにOMOがオープンします。

 ――旭川を中心に進めている「北海道パウダーベルト」とは何でしょうか。

 星野 実は雪質の良さはトマムだけではありません。富良野や旭岳など、この一帯はどこも素晴らしい雪が降ります。そこで一帯を「北海道パウダーベルト」と名付けて、西側の雪山との違いを世界にアピールする活動に踏み出しています。ネーミングすると、興味を持ってもらいやすい。

 スキー市場を最も支えているコア層、上級者の方々は、北海道パウダーベルトの魅力に気付き始めています。旭岳のロープウェイはコロナ禍前には2時間待ちになるときもありました。トマムのキャットツアーは今も予約でほぼ埋まっています。

 初級者や中級者でスノーリゾートを楽しもうという人は西側のニセコに行き、コア層はパウダーベルトに来てくれる。こういうすみ分けを想定しています。

 ――トマムから旭川まで14年の間が空きました。この間、北海道にはどのような思いを。

 星野 星野リゾートのブランド戦略として運営の拠点数を増やしていくことが重要だと、昔から言い続けています。

 私たちは所有や開発を行わない運営会社です。運営会社としての実力は、顧客満足度が高く、効率の良いオペレーションをすることと、拠点数の多さに表れます。拠点数が増えればブランディング、マーケティング、集客面のそれぞれで効率化が可能となります。

 私たちの競合は外資系大手の運営会社です。そこと対等に国内で戦っていくためには、やはりスケールが問われます。

 外資の運営会社は全国の観光都市に次々と進出しており、し烈な戦いとなっています。

 そのため北海道に限らず国内でチャンスがあれば運営拠点を増やすことを視野に入れていました。トマムの後に旭川でチャンスをいただくまで時間が空きましたが、その間も関東周辺を中心に拠点を増やしてきていました。

 その後、北海道や九州、沖縄での拠点拡大について積極的に取り組んでいます。沖縄では6施設を運営し、九州でも続々と新規案件が進んでいます。

 道内では、WBFが傘下に入ったこともあり、一気に客室が2100室を超えました。運営の拠点数としては外資系企業に負けないレベルです。今後数年以内に2500室を超える予定です。国内外を合わせて、21年11月時点で52施設を運営しています。

 ――外資系企業との戦いは今後どうなりますか。

 星野 四つ星、五つ星ホテルの人気はさることながら、近年では低価格帯の外資系ホテルの進出が増えています。OMOの競合はそれらのホテルです。

 うかうかしていると、日本のビジネスホテルチェーンなど一気にやられかねない。これから外資の運営会社と国内のホテル運営会社がますます激しく戦っていく。そのようなマーケットになって行かざるを得ないと私は思っています。

©財界さっぽろ

ハゲタカは悪いことではない

 ――日本国内で運営だけに特化した会社というのは珍しく、一部ではハゲタカと手を組んだと批判されることもあります。

 星野 日本で純粋な運営会社を目指しているのは本当にわずかです。私たちは約30年前から運営に特化してきましたから、日本では早い方でした。

 一般的にハゲタカと言われるのは投資会社です。不景気や不良債権処理などで安くなった物件を買い取る時に、ハゲタカファンドと言われることがあります。

 そこにネガティブな意味はありますが、決して悪いことではないと考えます。星野リゾートが運営している「青森屋」という施設があります。前身の施設が経営破綻して倒産したときに、アメリカのゴールドマンサックスが買収し、運営を星野リゾートに任せてくれました。業績を改善し、再生が成功した案件です。

 その後、ゴールドマンサックスが売却した相手は大阪の不動産会社。日本に戻ってきたのです。あのときゴールドマンサックスがリスクを抱えながらも購入し、星野リゾートに運営を託し、業績を良くしなければ、青森の経済はもっと落ち込んでいました。そのような投資をした会社のことを一面的に見てハゲタカと言っていいのでしょうか。

 経済が回るためには、破綻したものを誰かが再生しなければならない。そうしなければ地域はますます疲弊していきます。青森屋は今、青森の観光に大きく貢献していると思っています。

 ――22年1月14日に白老町にオープンした「界 ポロト」について教えてください。

 星野 「界」というのは温泉旅館ブランドで、全国に19施設あります。

 白老のような、観光地としての知名度があまり高くない地域のリゾート開発はここ10年ほどで急激に増えてきています。

 何が起こっているのか。日本の製造業が海外にどんどん移転していったその後は、観光産業に注目が集まりました。

 世界の観光産業が成長しており、特にアジア圏の人たちが外国旅行に出かけるようになり、来日するインバウンドの数が増えてきています。訪日客だけではなく、日本国内にも大きな国内観光市場があります。

 30年ほど前は日本の地方の自治体は大手メーカーに働きかけて工場誘致をしていました。そして雇用と経済と生活を守ろうとしていました。ところが、工場が海外に移転していき、国内も人口減少で生産が縮小していき、さまざまなことが起こり始めて、ベトナムや中国に相当な数の工場が移転しました。

 そのとき、地域に定着する産業をもうひとつ起こそうということで観光に注目をしていただきました。今まで観光地でなかったエリアの自治体が観光産業をわが町、わが市に呼び込んでこようと。そこで私たちに声をかけていただくケースが増えています。

 白老のケースも町との連携がありました。ウポポイができて、これからは観光が大事だということで私たちに声をかけていただき、両者で提携を結び、「界 ポロト」の開発に入っていきました。

 ポロト湖畔は以前に比べ、趣がある素晴らしい場所となってきています。白老はたしかに観光地としての知名度はまだないですが、良い環境でアクセスが非常に良いところですから、これから十分にお客様にお越し頂く情報発信ができる場所だと思っています。

 ――星野リゾートの北海道戦略についてお伺いします。

 星野 北海道はこれだけ広いところが一つの地域として、北海道ブランドというものを世界に発信してきました。北海道は東京、京都に次ぐ日本の有名ブランドになりつつあります。そして食、雪、さまざまな文化を含めて、世界の人たちが注目しています。

 ですから私たちは、しっかりと北海道の観光産業に貢献できるような施設を展開していきたいと思っています。

 これだけ世界で有名になると、必ず外資の運営会社も入ってこようとするので、そこに負けないだけの星野リゾートの拠点とサービスを早く展開して、外資に負けない運営力をしっかりと身につけるということが重要です。

マイクロツーリズムが今後も支えに

 ――トマムとOMO7旭川における道民の宿泊利用率は、コロナ禍前と比べて約3倍になりました。

 星野 非常に注目すべき点は、北海道の場合はコロナ禍以前から道民の道内旅行の比率が高い場所だということです。

 九州にも言えますが、東京や大阪から遠い場所では近場の旅行に魅力を感じる傾向にあります。

 観光には主に3つのマーケットがあると考えています。近場を旅行するマイクロツーリズム、関東や関西など大都市圏からの観光、そしてインバウンドです。

 中長期的に北海道の観光産業を考えたときに、ベースとなるのは何と言ってもマイクロツーリズム。道民の道内旅行が下支えとなって、その上に大都市圏からの観光とインバウンドを乗せていくイメージです。

 まずは道民の方々に北海道の各地の魅力を楽しんでいただけるようコンテンツ、施設、サービスをしっかり充実させていきます。これがマイクロツーリズムのベースをつくる上で非常に重要ですので、一生懸命取り組んでいきたいなと思っています。「北海道ファースト」で頑張ります。


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