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2021年

創立70周年・円山動物園、新リーダーの語る「スタートライン」とは?

神賢寿 札幌市円山動物園園長

 札幌市円山動物園が5月5日、70周年を迎えた。同園は職員の不祥事や動物の事故死から、体制の見直しや「動物福祉」に力を入れてきた。4月から16代目園長に就任した新リーダー・神賢寿氏を筆頭に「開園100年」へ向けて進む。(2021年4月28日取材)

ゾウの花子は歩いてやってきた

 ――円山動物園の始まりは1950年、上野から移動動物園を招いたのがきっかけでした。

  そこから「札幌に動物園を」という気運が高まり、翌年の子どもの日、道内初の動物園が誕生しました。当時の名称は「札幌円山児童遊園」。高田富與元札幌市長が、戦争で疲れ切った市民の心を和らげようと、議員の猛反対を押し切って実現しました。

 最初はエゾヒグマの子2頭、エゾシカ、オオワシの3種4点のみ。オオワシの「バーサン」は厚田で小学生が保護した個体でした。

 たった数点の動物を見に、連日、数千人の市民が押し寄せた記録が残っています。「動物を寄付したい」と、市民から持ち込まれることもあったようです。現在は、約170種900点を飼育しています。

 ――開園時のエピソードを教えてください。

  53年には動物園の顔となる、アジアゾウの花子がやってきました。まだトラック輸送が発達しておらず、桑園駅からは、なんと歩いて円山までやってきました。

 いまでも「昔、うちの横を花子が通った」と懐かしむ人がいます。近代では決して考えられない光景です。

1954年のパンフレット。すべて手書きで描かれている ©財界さっぽろ

 ――動物を取り巻く環境も変化しています。

  昔の資料を見ると、チンパンジーが餅つきをしたりしています。本来、動物がしない行動を人間がさせるのは、良いこととは言えません。一昔前は「芸」が人々の心を掴んでいましたが、現在は良質な動物福祉を確保することに、ウエートが高まっています。

 ――本誌でも報じた通り、2015年には、カワウソ、マレーグマ、シマウマ、キリンなどが相次いで死亡しました。

  マレーグマのウッチーを誤った飼育で死亡させてしまったとして、動物管理センターから改善勧告を受ける事態となりました。同年、獣医師の増員や診療体制の強化などを図りました。これらに加え、飼育員は3年前から「動物専門員」という職に一新。残念ながら事故がきっかけではありますが、ここから動物園の改革が始まりました。

 ――「旭山動物園」(旭川市)は園長が獣医師ですが、円山では事務職の園長が続いています。

  少し歴史をさかのぼると、当園では05年にも不祥事がありました。当時、市内のスーパーで火災があり、売りものにならない食材が園に寄贈されました。しかし、すべてが動物に与えられるものではなく、コメや刺身などを持ち帰った職員が、処分を受けました。

 ちょうどこの頃、旭山動物園は行動展示が功を奏し、来園者は200万人超と人気絶頂。反して当園は落ち目でした。「旭山に対し、円山は大丈夫か」と言われていた時期です。

 そこから“経営的な視点も必要”となり、園長に事務職が配置されるようになりました。

 ――近年は動物の体調不良から治療、死亡まで細かく報告されています。

  発信に積極的になったのは、19年3月に策定した基本方針「ビジョン2050」ができてからです。開園100年目となる2050年を見据え「命をつなぎ 未来を想い 心を育む」を理念に実施しています。

 動物福祉の向上を根幹に「保全」、「教育」、「調査・研究」に力を入れています。

 教育分野では、命の尊さや環境保全の大切さなどを子どもたちに伝える役割があります。コロナ禍でもSNSなどを活用し、生き生きとした動物の様子を伝えています。

さらなる改革を目指して

 ――「他の動物園に負けない」ことは。

  職員が常に「動物の幸せ」を追求する姿勢です。例えば給餌ひとつをとっても、いろいろと工夫をしています。動物は本来野生で、エサを探して暮らします。あえて隠したり回数を増やすことで、動物らしい行動を引き出しています。

 私も休日には来園者に混ざり、園内を見回ります。これは課長時代からで、先日も「あ、園長」と声をかけられました(笑)。

 熱心なファンとの会話からも、動物の状態をリサーチするようにしています。 

 ――Amazonの「ほしいものリスト」も活用されています。

  昨年度は体重計や加湿器など、37件の物資が届きました。応援団である「サポートクラブ」(1口500円)と併せ、飼育環境の充実のためにご支援いただいています。

 企業・団体では「コープさっぽろ」と「北海道コカ・コーラボトリング」もサポクラ会員です。昨年度は約1020万円を寄付いただき、環境教育費に充てています。

 ――動物の増減予定は。

  50年に向け、積極的に繁殖する「推進種」、状況に応じて繁殖する「継続種」、やむを得ず飼育を断念する「断念種」に分類しました。これらは動物福祉の確保と飼育の継続性から評価しています。

 たとえばヒマラヤグマは断念種なので、現在いる1頭で最後になる予定です。

 逆に絶滅危惧種のミヤコカナヘビは、当園に繁殖のスペシャリストがおり、生息地(宮古島)に戻す計画があります。これを「生息域外保全」といい、国としても力を入れています。

 ――今後の目標を教えてください。

  動物園の運営目的・福祉等に関する指針を定めた国内初の「動物園条例」の制定を目指します。現行の法律には、動物園の定義や設置条件などの定めがなく「保全と動物福祉の両立」を読み取ることができません。欧州では基準を満たしていないと、設置できない国もあります。日本がより動物に優しい国になるため、必要な一歩です。

 こうして市民や大学、民間団体などと手を取り、ようやく円山動物園はスタートラインに立ちました。開園70周年のキャッチフレーズ“これからもZOOっと”愛される場所であるため、、職員一丸となって改革を進めてまいります。


……この続きは本誌財界さっぽろ2021年10月号でお楽しみください。
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