3万人以上の学生と交流、感じた世論との差

(もりもと・ゆう)1991年6月3日、高知県生まれ。高知西高校卒業後、法政大学に進学。2014年エフエム北海道入社。「IMAREAL」「LEVANGA STATION」「にこにこぎゅっ」などのパーソナリティを担当する。今年4月に個人事務所「コエクト」を設立し、独立。
ラジオ番組「IMAREAL」で8年以上、学生の〝今〟を発信してきた森本優さん。今年4月、エフエム北海道を退社し、フリーに転身した。最近の学生の特徴や今後の活動について聞いた。
ラジオが若い人から憧れられる存在に
――10年間働いたエフエム北海道(AIR―’G)を退社し、独立しました。フリーになった経緯は。
森本 ここ数年、さまざまな仕事のお誘いをいただく機会が多くなり、やりたいことが増えました。AIR―’Gではパーソナリティ業務のほか、編成制作部の社員としても働いていました。制作側としてやるべき細かな業務もたくさんあり、お断りする機会も少なくありませんでした。活動の幅を広げていきたいと思うようになり、独立を決めました。
もちろん、社員だからできていたこともたくさんあります。会社に退社を相談する際も、担当番組がすべて終わる覚悟で伝えました。結果的には全番組を継続していただけることになり、本当に感謝しています。
もう一つ理由があります。近年のラジオはお笑い芸人やモデルなど、タレントの方がパーソナリティを務める番組が増えました。それ自体を否定はしていません。でも、それが主流になると、プロのパーソナリティを目指す人がチャンスをつかむ場所を失ってしまいます。僕はプロとして、この人生を通して、パーソナリティを本業とする人がつくる番組の面白さを伝えていきたいと思います。社員だと説得力が欠けてしまうので、フリーになる決断をしました。
――株式会社「コエクト」を設立し、2カ月がたちました。環境の変化は感じていますか。
森本 実は今でも週3、4日くらいAIR―’Gにいるので、そこまでの変化はまだ感じていません。ただ、いろいろな人に会いに行く時間ができたので、あいさつ回りに奔走しています。
5月には東京に行き、エフエム東京の「SCHOOL OF LOCK!」の放送を見学させていただきました。ほかにもニッポン放送の「オールナイトニッポン」統括プロデューサー・冨山雄一さんにもお会いしました。出身校である法政大学の先輩なのですが、道内のラジオ業界を明るくするためにどうすべきか、ヒントをたくさんいただきました。
――経営が厳しいラジオ局が多いです。
森本 この業界を盛り上げていくためには、優秀な人材をもっと集めていく必要があります。ただ、就職活動をする学生たちはこの先、市場が伸びていきそうな業種を選びますよね。その選択肢にラジオの媒体は入っていないのが現状です。選んでもらうためには、若い人から憧れられる存在になる必要があります。まずは、AIR―’Gの認知度を上げていくところに、いま一度取り組んでいきたいです。〝外部広報〟的な立ち回りで、魅力を発信していきます。
――トークイベントなども行っていますね。
森本 5月に東京では初開催となるトークライブ「シャベリアル」を開きました。6月には、札幌でも実施しました。両日ともに、お世話になったアーティストや関係者の方々がたくさん来てくれて、幸せ者だなと感じました。このときに話した内容は来ていただいた方だけの秘密です(笑)
今は小規模のイベントですが、還暦になるころにはZepp Sapporo(最大キャパ約2000人)でやれるくらいの〝大御所〟になりたいです。大きな野望ですが、北海道のみならず、ラジオ業界の星を目指していきます。
番組が学生と社会の接点を作るきっかけに
――学生応援番組「IMAREAL」では毎週、学校を訪問しています。
森本 番組は今年で9年目を迎えました。これまでに3万5000人以上の学生と出会ってきました。最初は関係性がないところから、自分でアポ入れの電話をして取材するというスタートでした。しかし、今では札幌市内のほぼすべての学校とつながっているので、遊びに行くくらいの感覚で連絡させていただいています。訪問先では学校や部活の紹介、放送日のテーマに沿った話を聞いています。
――最近の学生の特徴は。
森本 一概には何とも言えませんが、よく「令和の学生はあきらめやすい、興味・関心が薄い」というメディアの論調が多いですよね。しかし、僕が言うのも何ですが、これは印象操作によるものではないかと正直、思っています。
学生たちは僕らの時代と根本的には何も変わっていません。ただ、彼らを取り巻く環境が変わりました。さまざまなサービスが充実したことで、選択肢が増え、物事に触れられる機会も多くなりました。興味があるからこそ、いろいろなことにチャレンジしたいと行動に移した結果だと思います。それを「飽き性だ」と論ずるのはお門違いではないでしょうか。
一方、そんな時代だからこそ、夢や目標がないことを「悪」だと勘違いしてしまう子どもも多くなりました。別に夢は無理に持たなくてもいいんです。就職してからやりがいを見つけることができれば十分だと思います。
――学校が果たすべき役割は。
森本 最近は社会や大人との接点を大切にする高校が増えました。教育カリキュラムの中に農業体験や企業と協力して大通公園を貸し切り、企画を考えるなどの取り組みを行っているところもあります。
「IMAREAL」の訪問企画も、そういったきっかけを作りたかったから、という思いがあります。番組を聴いてもらうことで、ほかの学校にはこんな学生がいたり、取り組みを行っているんだということを知ってほしいです。僕は教育者ではないので、今の立場でできる最大限のサポートを行っていきます。あなたに届け!〝イマリエール!〟