ほっかいどうデータベース

事故物件の〝駆け込み寺〟「供養不動産」が始動

札翔グループ代表
長崎 太樹氏
ながさき・ふとき/1964年生まれ。23歳から不動産業界に従事。2007年に不動産売買の札翔住販を設立。トライクリーン、さっぽろゼロはうすの3社で札翔グループを形成し、グループ代表も務める。

2024年1月、事故物件を専門に取り扱う不動産買取サイト「供養不動産」が立ちあがった。運営する札翔グループ(本社・札幌市)の長崎太樹社長に立ちあげの経緯や狙いを聞いた。

不動産会社も嫌がる事故物件に特化

――事業内容は。

長崎 不動産売買の仲介業と中古住宅などの買取およびリフォーム・リノベーション後の再販売を行っており、これまでに住宅やアパートの一室で自殺や孤独死した物件や殺人・火事で焼死した不動産など、いわゆる事故物件の買取再販も数多く手がけています。

――事故物件の買取サイト「事故物件プロ『供養不動産』」を開設した理由は。

長崎 ある時、友人から「孤独死した親戚の住宅を売却したいが、対応の良い不動産会社が見つからない」と相談されました。

これまでの経験を生かし、役に立てればと売り先を見つけたところ、売主である親戚の方からは「あなたに出会えて良かった」と感謝の言葉をいただきました。

そこで達成感とやりがいを強く感じ、次第に大きな使命感のようなものを抱くようになりました。

――その住宅の状況は。

長崎 親戚の方とお会いして状況をお聞きしたところ、死後から発見までに2カ月近く経過しているとのことでした。室内は腐乱臭などの悪臭がひどく、他の不動産会社からの提案で特殊消臭作業を行ったようですが、まったく効果がないとのことでした。

実際に現場を確認すると、消臭作業では到底無理な状況であり、リフォーム工事が必要でした。そのほかにも有効な対処法など、いろいろと詳しい説明をさせていただきました。結果的に、早急に手放したい、現金化したいということで、一般的な売買仲介ではなく当社が一度買取させていただき、リフォーム工事を行って販売する運びとなりました。

その際、残置物の撤去作業や仏壇の処分も当社が代行したほか、相続登記なども手配しました。売主様の希望もあり、リフォーム工事前に追善供養の儀式を執り行いました。

――これが「供養不動産」誕生のきっかけですね。

長崎 そうですね。事故物件を抱えるお客様の心労や不安を少しでも解消し、故人も遺族もやすらかな気持ちでいられるよう、不動産のプロとして寄り添っていきたいと考えるようになりました。事故物件を〝正しく扱う〟不動産会社があるということを広く知っていただくため、査定依頼だけではなく、総合的な相談窓口としてサイトを開設しました。

――事故にも種類があるようですね。

長崎 自殺や殺人、孤独死の3つに大きく分けられます。どのケースもすぐに発見できれば特殊清掃業者による消毒、消臭作業で済むことがほとんどですが、長く発見できなかった場合には、リフォーム工事が必要となるケースも珍しくありませんし、中には建物を解体するしかない場合もあります。

こうした判断は一般の不動産会社ではなかなか難しく、売却に時間がかかるなどのリスクもありますから、積極的に取り扱う不動産会社は少ないのが現状です。

事故物件のプロとして〝正しくつなぐ〟

――その他にも特有の業務はありますか。

長崎 前述の通り、家財道具や家電品などが残っている場合は、リサイクル品の買取や不用品の処分も必要です。残置物の中には、仏壇や神棚などもあり、お焚き上げや魂抜きなどの相談もありますね。不動産業務とは異なりますが、当社では遺族である売主様の依頼にワンストップで応えられるように努めています。

例えば、リフォームなど各種工事を行う前には、現地でお寺の住職を招いた追善供養の儀式も行っています。亡くなられた故人に対して「これから新たな方に引き継いでもらいます」との報告の意味で行っています。また、遺族の気持ちの整理の一助にもなればという思いと、買われる方へのイメージの向上にもつながればと考えています。

――〝お祓い済み〟となれば、事故物件は高く売れるのでしょうか。

長崎 いえ、まず、お祓いは「不浄」なものを払うという考えで、当社が推奨する供養とは全く異なります。当社ではお祓いはしておらず、知人の天台宗の住職にお願いし、追善供養の儀式を手配しております。

また、事故物件である事実を気にされない買主も意外に多くいらっしゃいます。クリスチャンの方などは全く気にされませんね。仏教徒でも浄土真宗などは、死者は亡くなった時点で成仏していると考えられており、追善供養という考えは一切無いようです。

――事故物件の買取価格はどのように算出するのでしょうか。

長崎 成約事例や公示地価などから土地値を算出し、建物は面積と築年数、リフォーム履歴、設備の状態やグレードなどから査定する一般物件に対し、事故物件には決まった査定基準がありません。

不動産会社によっては、単に事故物件というだけで通常査定価格の3~5割減などと算出しているところも多く、価格に大きな違いが出ます。事故物件に詳しい不動産会社に査定を依頼したほうが良いでしょう。

――仲介の方が高値で売れるのでは。

長崎 一般的な不動産なら仲介の方が高く売れるケースもあります。仲介を希望される場合は、グループの仲介専門会社を紹介しております。その一方で、「早く処分したい」という事故物件ならではのニーズも高く、買取を希望されるケースが当社に寄せられる相談の大半を占めています。

事故物件を当社で買取して、リフォーム後に再販する。これが「供養不動産」の基本ではりますが、ご遺族の意向を最大限尊重することが最も大切であり、仲介による売却も全力でサポートします。

これまでの経験を生かし、事故物件を売りたい方、買いたい方を正しくつなぐ不動産会社を目指します。