黒柳伸治・ポッカサッポロ北海道社長「道産素材の商品開発はSDGsにつながる」
ポッカサッポロ北海道といえば、炭酸飲料のリボンブランドとして知られる。これまで道産素材を使用した商品を次々に世に送り出してきた。同社の黒柳伸治社長は、北海道への思いを熱く語った。
道産素材の背景にあるストーリーを届ける
――まずは、ポッカサッポロ北海道の設立経緯を教えてください。
黒柳 ポッカサッポロフード&ビバレッジは、ポッカコーポレーションとサッポロ飲料が合併して、2013年に誕生しました。当初から沖縄と北海道は別会社として動き出しました。
――現地法人を設立した背景は。
黒柳 2つのエリアには、経営統合前から独特の強みを持っていました。サッポロビールは北海道が発祥の地です。グループにとっても強い思い入れがあり、北海道が大事な場所であることは間違いありません。ここで道民のみなさんと事業展開していくことは、大変意義深いことです。
当社は地元の販社という位置づけですが、独自のテレビCMを制作したり、エリア商品数も他地域と比べて圧倒的に多いといえます。東京本社のポッカサッポロに収めることはせず、別軸の販売とマーケティングを展開することで、自立した経営を可能としています。
――道内限定発売の炭酸飲料の「リボンシトロン」「リボンナポリン」は、100年以上のロングセラー商品です。道民のソウルドリンクとして幅広い世代に親しまれています。
黒柳 リボンブランドもそうですが、独自のブランドの生い立ち、お客様との接点が当社の大きな強みになっています。
――ポッカサッポロ北海道設立後、道産素材を使用した商品を次々に発売してきました。
黒柳 ポッカサッポロの飲料のブランドの1つに「TOCHIとCRAFT」というものがあります。
「生産者の皆様と商品を一緒につくっていきたい」という思いを込めています。
道産素材を使用した全国展開中の商品としては、「夕張メロンソーダ」や「富良野ラベンダーティー」、「北海道コーン茶」、「富良野ホップ炭酸水」などが挙げられます。
昨年あたりから、コーン茶が全国の量販店を中心に、われわれの想定以上に伸び始めています。コロナ禍になり、とくにEC市場が拡大しました。
――生産地の市町村の名前が商品名に入っているのが、大きな特徴ですね。
黒柳 北海道はエリアごとに、生産地の特色が異なります。北海道でひとくくりにするのではなく、地名を入れていくことで、そこが原材料の産地であることを、エンドユーザーに伝えていきたいと考えています。
地名を出したり、素材の背景にあるストーリーをどうやってお届けするのか。商品開発の上で、その部分をとても大切にしています。
たとえば、富良野ラベンダーティーについては、このエリアで食用ラベンダーを栽培している農家は数軒しかありません。その中で、われわれがこの商品の販売をやめた時、その方々はどうなってしまうのか。食用ラベンダーが富良野からなくなってしまうのであれば、われわれは商品を継続して販売していくことで、応援していきたいと考えています。
財政破綻した夕張についても、いまや人口が8000人を割っています。夕張のみなさんと何か一緒に取り組めることはないだろうかと考え、夕張メロンソーダが生まれました。いまでは、夕張市のふるさと納税での返礼品として、当社の商品もお取り扱いいただいています。
われわれの使命は、地域のお客様、生産者のみなさんに貢献していくことです。それを踏まえて文化にも貢献していきたいと考えてます。いくつかのミッションを実践していく上で、道産素材をより広めていくことが大切になると感じています。
商品を開発し、発売を始めたら簡単にやめないことです。新商品で売れなくなったら、発売を停止するのではなくて、簡単にはあきらめないことが必要です。これは、われわれが思い描くSDGsの1つです。これを北海道という場所で末永く取り組んでいく覚悟です。
――ポッカサッポロは、北海道179市町村の魅力を紹介する書籍を刊行しました。飲料・食品メーカーが書籍を製作するケースは珍しいと思います。
黒柳 全国には約1700の市町村があります。そのうち1割以上を北海道が占めています。自治体の数が人口比で圧倒的に多い地域といえます。それだけ、まだまだ知られていない魅力も多いはずです。
当社のマスコットキャラクター「リボンちゃん」が毎月、幼稚園を訪問し、われわれのブランドとの接点をつなげていく活動をしています。そうした中で、子供たちに北海道のことをもっと知ってもらいたいと考え、書籍の刊行にいたりました。
完成した書籍は、全道の小学校や公立図書館に寄贈しています。道内の書店にも流通しています。
――食育というのも、これからの時代の大きなテーマですね。
黒柳 当社が主導的にできる食育として、事業の中心でもあるレモンに関連するものです。レモンが持つ健康価値をお客様に伝えていくことです。加えて、道産素材をうまく使っていくということは、1つのサスティナビリティーと考えています。
札幌開業で生まれる経済的な価値の活性化
――黒柳社長は今年3月に北海道に赴任してきました。挨拶まわりで、道内各地を回っていると思いますが、印象を聞かせてください。
黒柳 まず、食べ物がおいしいですよね。そしてとてつもなく広い。これは道外のみなさんが持っているイメージと変わらないのかもしれません。
私は道内勤務は初めてになります。赴任してきて一番感じたことは、道民のみなさんの地元愛の強さです。さまざまな会話の主語が「北海道」であることが、私にとっては新鮮です。
関東だと東京、埼玉、千葉、神奈川が通勤圏でもあり、経済的につながっていますよね。関東という大きなエリア内で、物事をとらえています。
ところが、北海道は関東ほど、他地域との直接的な接点はありません。道民のみなさんからは、いま、北海道でこんなことが起きている。または、北海道でこういうことをしていこうなどという意志、絆が感じられます。
――2030年度末には北海道新幹線が札幌まで延伸される予定です。最後になりますが、そのことによる北海道の可能性に言及いただきたいです。
黒柳 これまで出張ベースで何度も、北海道に来ています。どうしても、北海道というと札幌がメーンになります。そこに仕事と拠点があるということで、ビジネスが動いています。
北海道新幹線が札幌までつながるとなれば、函館との距離がグッと近くなりますよね。本州の人間はよくわかっていないのですが、函館と札幌はすごく近いイメージを持っています。
両都市の距離が縮まるということは、札幌からの道南への流入、その逆で道南を経由して札幌を訪れるという、経済的な価値の活性化が生まれると思います。いわば、物理的な距離、道民や道外の人たちの心理的な距離の壁がなくなるのではないでしょうか。
そうすると、首都圏在住者でも、1泊2日の強行軍で、札幌と函館に旅行に行けるようになるのかもしれません。飛行機は便利で速いですけど、出発前後の時間がけっこうあります。その点、新幹線は出発時刻直前に駅に行けば、すぐに乗ることができます。飛行機よりは、時間的なロスは少ないので、移動することへの心理的な障壁が、軽減されるのではないでしょうか。
――本日はお忙しいところありがとうございました。
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