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2022年

本道の“生産空間”を維持、発展させていく

橋本幸 北海道開発局長

 北海道総合開発計画のもとで道路や河川、港湾の維持管理を担う国土交通省北海道開発局。新局長の橋本幸氏は、その核心部を策定する上で、本道の地方部こそが豊かな食や観光資源を生み出す“生産空間”と定義する。

悲願でもあった計画の「凍結解除」

 ――入庁後、道路行政を専門とされてきました。これまでで印象に残る事業は。

 橋本 自分が深く携わったという点では、まず道内の「建設凍結区間」についてでしょうか。

 2003年に、道路公団の民営化についての議論がありました。高速道路は、国からの借金で建設し、通行料で建設費を返していく仕組みです。しかし当時の道路公団の経営そのものに批判が高まり、道路公団等の民営化の議論に発展しました。この際に、不採算と見られる路線をどうするかという議論がありました。とりわけ採算性の低いところは整備自体を凍結する、と。

 採算性は、道路整備によってもたらされる時間短縮等の「効果」を金額換算し、かかる費用で割った「費用対効果」という数字で判断します。ですがその地域の人口の大小に大きく左右される要素が強く、人口密度が都道府県で最小の北海道は、必然的にこの値で決定的に不利となります。あの当時は結局、足寄インターチェンジ(IC)から北見方面の陸別町までの51キロと、名寄から士別間の12キロが凍結されました。

 その解除に向けた調整を続け、14年と今年の2回に分け、両区間の整備を再開することができました。

 議論の当時は国土交通省の道路局企画課道路経済調査室課長補佐で、まさに目の前で起きていたこと。開発局長になったこの年にそれをようやく解除できた。北海道のネットワークに対する失われた時間を取り戻せたことを感慨深く感じています。

 ――19年度の1年間JR北海道へ出向し、札幌市とJR北による北海道新幹線駅ビル(中央区北5西1・西2)に尽力されました。

 橋本 はい、率直に大変でした(笑)。ただこの再開発は、都心アクセス道路や新幹線駅と結節する一大交通拠点でもあります。

 札幌市が抱える都市構造上の問題として、市内中心部から高速道路へのアクセスが非常に悪いということがあります。

 三大都市圏や仙台、広島、福岡といったほかの大都市は、中心部からほんの数百㍍の距離にICがありますが、札幌は最寄りのICまで4.5キロある。しかもほかの都市と違って毎年必ず雪が積もるので、冬は12分から54分という大きなばらつきが生じ、生活面や経済面への影響はみなさんもお感じと思います。

 それらは将来にわたって札幌の弱点であり続けるわけで、改善策として都心アクセス道路の計画検討に関わってきました。今年新規事業化に至りましたが、多額の費用を必要とするものであり、様々なご意見も伺っています。ご理解を得られるような良い計画にしていきたいと思っています。

©財界さっぽろ

人口密度最小の地で全国一の価値を

 ――16年度からの第8期の北海道総合開発計画についてのかかわりは。

 橋本 北海道内は人口減少や高齢化が全国平均で見て10年ほど先行して進展しています。一方で道内の地方部、郊外というのは北海道の豊かな食や観光資源を生み出しています。

 耕作地帯の田園風景はそれ自体が観光名所となっているところもありますよね。食と観光資源の両方の価値を生んでいるそれらの地域を、「地方部」という単に物理的な場所を意味する言葉ではなく、機能と価値に着目して「生産空間」と定義しています。

 第8期の計画はそれまでと違って、本格的な人口減少局面を迎えた中で策定されたもの。人口問題を考える際には地域構造の分析が不可欠です。

 ――地域構造のアプローチというのは。

 橋本 人口減少に対する最も一般的なアプローチとしては、御存知の通り「コンパクトシティー」と呼ばれるものがあります。人やインフラをある程度集約することで行政コストを削減していくという手段です。国交省でも推進している取り組みですが、北海道の場合、たとえば根室管内別海町はまちの中心から東京の山手線内の2倍の面積の中に、数十戸の大規模な酪農家さんが営農されています。

 本州と北海道の地域構造の違いを農業を例に端的に表すと、本州は小規模・兼業中心で住居も互いに近い「集居」、北海道は大規模・専業中心で互いに遠い「散居」です。コンパクトシティーは本州には有効な処方箋かも知れませんが、北海道では一律に進めると、耕作放棄地の増加にも繋がりかねず、地方が消滅して食と観光を生み出す価値も失われてしまう。そうした地域構造を理解した上で、住民の方々がこれからも住み続けるために必要なものを、政策として打ち出していく。これが8期計画の背景であり、生産空間の維持という概念の原点になっています。

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河川流域ごとにみんなで対策する

 ――自然災害に向けた対策については。

 橋本 災害は頻度も大きさも本当に深刻化しています。北海道でも16年に台風が連続して上陸し、国道などのインフラや農地などが大きな被害を受けました。

 災害の予見は困難ですが、だからこそ最大限備えておくことが不可欠です。とくに水にかかわるところは非常に重要と考えています。

 河川でいえば、われわれは河川区域や上流のダムを管理し河川敷や堤防を整備してきました。砂が溜まったら掘削したり、川の流れを円滑にしたりといったことです。

 しかし最近の台風や豪雨の規模は想定を超えるものもたびたびあり、雨量が下水道などの能力を上回ってあふれる内水氾濫と呼ばれるものもあります。

 もはや河川の流域内の行政などすべてのプレイヤーが総力を結集しなければ太刀打ちできません。

 関係の法律を改正して「流域治水」という新しい考え方を導入し、今年度から本格化させています。

 ――新型コロナウイルスの影響については。

 橋本 コロナ禍によって社会の中に新たに定着したものの代表がリモートですよね。技術的にはコロナがなくても実現できたことですが、必要に迫られて一気に定着したもの。

 当たり前ですがリモートって物理的な距離が遠いほど利用する時の効果がより高い。北海道はメリットを最大限に享受できるところです。

 インフラ整備の現場でも、例えば工事の各段階のチェックで監督職員が実際に現場を見に足を運ぶ必要があったものが、リモートを活用することもできるようになりました。すでに日常のさまざまな業務に溶け込んできましたし、今後も最大限生かしていきたいです。

 もう1つ、コロナ禍でも自動車の交通量に大きな変化は生じず、ある意味驚きがありました。物流のトラックもせいぜい1割程度の減少で、ライフラインとしての需要は減らないんだなと。

 また自動車移動は、大人数で不特定多数による移動とは性質が異なるものなので、ドライブ観光は一つのアドバンテージになり得ると感じています。

 今年7月からはシーニックバイウェイ北海道の各ルート内でとくに訴求力のある道を「秀逸な道」としてPRしています。まずそこを目指して訪れていただき、地域のドライブ観光に広がっていくツールとして生かせたらと思います。

 ――着任直後に職員が逮捕される事案がありました。

 橋本 報道を含めて厳しいご批判をいただきました。国民・道民のみなさまに心からお詫びいたします。

 発覚以降、第三者委員会を設置して原因究明と再発防止策の検討をお願いし、並行して内部の点検や調査を行って、11月5日に報告書として取りまとめをいただきました。

 ――不正が行われたのはJR北に出向されていた時期でした。

 橋本 はい、そうですね…。ただそれを含めて組織ですので。

 ただこうしたことが起きると、日々まっとうに働いている職員たちにも厳しい視線が向けられますし、率直に本当に長く苦しい3カ月でした。

 いただいた再発防止策を元に再スタートを図り、信頼回復に努めたいと思います。


……この続きは本誌財界さっぽろ2021年12月号でお楽しみください。
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