話題の人

2021年

創立60周年・札幌交響楽団多賀登事務局長に聞く「教育への参加」の理念

多賀 登 公益財団法人 札幌交響楽団 事務局長

“札響(さっきょう)”の愛称で親しまれ、北海道唯一のプロ・オーケストラである「札幌交響楽団」。1961年に発足し、今年で60周年を迎える。設立時より「教育への参加」を理念のひとつとして活動。今回は元クラリネット奏者であり、現事務局長の多賀登氏に話を聞いた。

道民から愛され続けて創立60年

 ――楽団にはどれくらいのスタッフがおられますか。

 多賀 演奏者である楽員が約70人で、運営する事務局員とステージスタッフが20人ほど在籍しています。私は元クラリネット奏者で、今は事務方にまわって楽団の活動を支えています。

 ――楽団は公益財団法人ですが財務状況は。

 多賀 チケット料や出演料など事業収入が約半分で、そのほかに北海道や札幌市、文化庁などからの公的補助金のほか、法人や個人の寄附会員、協賛金などの民間助成金などで運営しています。昨年からのコロナ禍で公演数が減少するなどして収入的には大変厳しいのですが、会員さまを始めたくさんの企業、個人の皆さまから「頑張ってほしい」と、これまで以上のご協力をいただいています。楽団は今年で創立60周年を迎えるのですが、この苦境に接し「札幌交響楽団」という長く培ってきた歴史の重みを深く感じています。

 ――普段の活動は。

 多賀 札幌交響楽団の演奏会には、札幌コンサートホール「Kitara」(キタラ)と札幌文化芸術劇場「hitaru」(ヒタル)の2つを会場とするシリーズ定期演奏会や名曲シリーズ、第9公演など札響が主催する「自主公演」のほかに、企業や自治体などの依頼で出演する「依頼公演」と、青少年向けの「音楽教室」があり、通常年に約120前後の演奏会に出演しています。また、病院や高齢者施設、特別支援学校を含む学校を訪問する「社会・地域活動」を、演奏会と並行して年間50回ほど行っています。こちらは、小さな編成のアンサンブル演奏を中心とし、小学校ではゲームや体験を交えたワークショップ形式を取り入れるなどして、音楽に親しむ機会を幅広く提供しています。

地方も含めた活発盛んな教育活動

 ――教育活動も活発ですね。

 多賀 札響は「演奏の質の向上」「地域への貢献」「教育への参加」の3つの柱を理念としています。演奏の質の向上が社会や学校などで評価されることで、地域の皆さまや子どもたちが演奏会に足を運んでくださる、そのことがまた楽団を向上させてくれる。一つひとつの理念がリンクし、循環しているのだと考えています。教育に関しては、幅広く音楽を聴く機会を提供することと、音楽に取り組む青少年に演奏を通して得た知見を提供する、その両方を担わなければならないと思っています。

 ――子どもたち対象の演奏活動にはどんなものがありますか。

 多賀 札幌市内の全小学6年生を対象とした「Kitaraファーストコンサート」は、04年から毎年札幌市と札幌コンサートホールの主催で開催され、現在その対象は札幌広域圏8市町村にまで広がっています。札幌市内や近郊の高等学校の中には、芸術鑑賞教室としてキタラでの札響の演奏を学校単位で鑑賞するところもあります。一方、旭川市、恵庭市、小樽市、帯広市、音更町、苫小牧市、登別市などでは教育委員会などが中心となり、市内・町内の小学生や中学生に向けた演奏会が毎年開催されています。

 ――子どもたちに直接指導することはありますか。

 多賀 北海道では小学生から高校生まで吹奏楽部などで楽器を学ぶ子どもたちがたくさんいますので、札響の楽員が学校に出向いて直接技術指導を行う「楽器クリニック」を各学校や各地の教育委員会、吹奏楽連盟などから依頼されて行っています。たとえば、札幌市内では中学校吹奏楽部の各校のリーダーとなる生徒を集めた講習会が毎年開催されていて、札響からも講師を派遣しています。また、道内各地での演奏会の際には、吹奏楽部の生徒たちにリハーサルを公開することもあります。

小学校でのワークショップ ©財界さっぽろ

 ――大学は。

 多賀 音楽専門課程のある北海道教育大学、札幌大谷大学とは人材育成の連携協定を結び、学生のインターンを受け入れて、オーケストラの運営や演奏会製作の実際の現場を体験してもらっています。一方、北海道大学では毎年「札響と音楽文化」をテーマとした講義を教養課程に設けていただいており、一般学生に演奏会を聴いてもらうことと合わせて楽員や事務局員も講義に出向き、音楽の歴史から音楽家という仕事、公的芸術団体の運営まで、地域に根差した芸術文化について学び考えてもらっています。また、音楽コースのある大学、高等学校では多くの楽員が非常勤講師を務め、後進の指導にあたっています。

 ――小学生から大学生まで幅広く教育現場に参加されていますね。

 多賀 我々は北海道唯一のプロ・オーケストラとして、学生や若い人たちに教科書だけではなかなか見えてこない答えの導き方や多様性を、実践を通して得た体験から提示することができると考えています。

 ――最後に札響としてのPRを。

 多賀 当団のホームページでは、オンラインでの演奏動画配信のほかに、自宅でできる楽器練習方法などの動画も発信しています。これは楽員の発案で楽器に取り組む青少年向けにつくったものです。コロナ禍となり、これまであたり前にやっていた演奏というものがいかにありがたいものであるかを深く感じています。楽員みんなが同じ気持ちであり、どんな状況下でもより良い音楽をお届けできるよう取り組んでまいります。これからも札響に期待してください。


……この続きは本誌財界さっぽろ2021年7月号でお楽しみください。
→Webでの購入はコチラ
→デジタル版の購入はコチラ

(たが・のぼる)1963年東京都世田谷区生まれ。92年4月札幌交響楽団に入団。93年4月から2007年3月まで首席奏者、11年5月まで副首席奏者を務める。20年4月から同楽団事務局長に就任。クラリネット奏者。