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2020年

北海道の農業には基盤整備が重要

小野寺俊幸 JA北海道中央会 新会長

 北海道農業の司令塔であるJAグループ北海道の中核団体・道中央会の会長が12年振りに交代し、同副会長の小野寺俊幸氏が昇格した。同グループ4団体すべての理事を歴任するなど、JAの各事業に精通する小野寺氏に、意気込みと喫緊の課題を直撃した。

「水との戦い」の中で政治に関心

 JA北海道中央会新会長の小野寺俊幸氏は、1951年オホーツク管内常呂町生まれ。68年北海道庁立農業講習所(現道立農業大学校)卒業後、実家で就農。91年にJAところ(常呂町農協)理事を経て、2000年同JA代表理事組合長に就任。17年6月に道中央会副会長としてJAグループ北海道常勤役員入り。今年5月、同グループ役員推薦会議からの推薦を経て、6月23日の中央会総会で会長に選任された。以下、小野寺氏への一問一答。

   ◇    ◇

 ――常呂町福山地区に入植した、農家の3代目として生まれ育ちました。

 小野寺 祖父は岩手県から北海道へやって来ました。時期としては遅いほうで、昭和に入ってからの入植になります。 ――同じ地区にはどのくらい農家がありますか。

 小野寺 常呂でも一番小さい集落ですから、今は8戸ほど。離農していった方々の農地を取得するなどして、規模を拡大していきました。今は甜菜(ビート)がメーンですが、規模が小さい時期はタマネギ、ニンニクや野菜、カサブランカの花も栽培していました。

 ――常呂川沿岸の山間地域に位置しています。

 小野寺 われわれの地区は、入植者が切り開いたというより、常呂川が氾濫を繰り返してできた土地です。水害のたびに上流からの土が運ばれ、堆積してきたので、表土が1~2㍍くらいあります。エジプトのナイル川流域のようなものです。

 ――16年に台風が上陸した際は、大きな水害が発生しました。

 小野寺 築堤が切れて全面冠水し、私の畑も全部ダメになりました。偶然ですが、地元紙の1面に、私の畑と自宅が冠水した際の様子が空撮写真で掲載されて。それくらい酷い状況でした。

 ――全面被害は初めてのことですか?

 小野寺 いえ、過去に何度も同じことがあって。だから、慣れているというとおかしいけれど、苦にはしていません。祖父が入植した時代から、水との戦いをしてきた土地ですから。その水を何とか制して、農業経営をしてきたわけです。

 ――JAところは、その同じ苦労を重ねてきた農業者の組合であると。

 小野寺 そうです。そのため、この地域に住む人たちの営農や生活を何とかしたい。誰かが行動しなければならないと考えた時、自分が先頭に立って行動していました。農業者だけでは、乗り越えることが難しいことは国や道など行政にお願いすることもあります。そのためには政治に関心を持って、政治を考えることが重要です。

 もちろんお願いだけではダメですから、水害から畑を復旧する上で、どういう手順で何が必要か。何とかしてくれ、ではなく、何のためにこうしてほしい、という提案ができないといけません。

 今度は中央会会長という立場になって、北海道全体を守っていかなければならない。そのためにも政治が重要です。

©財界さっぽろ

基盤整備は農業にとって必要不可欠

 ――道中央会は、道内農業に関する政治への働きかけをおこなう、農政活動を担っています。

 小野寺 たとえば、農地の基盤整備や国土強靱化関連の整備について政策を立案し、行政と折衝することは、道内の農業者にとって大変重要なものです。

 ――基盤整備とはどのようなことでしょうか。

 小野寺 農地を改良することで、生産が安定し、収量を上げることができます。雨が降ったらどう排水するか1つを取っても、明渠排水なのか、暗渠排水なのか。大規模な排水機場が必要な場合もありますし、水害を防ぐための築堤の整備など、国土強靱化と関連しているものもあります。

 近年はICTやAIを活用したスマート農業が取り入れられて来ていますが、すべて基盤整備の上に成り立つものです。

 トラクターの自動運転がより効率的になるように区画整理をして、1区画あたりの農地を拡大したり、光ファイバーの線を引いたりといったことがそうです。

 道内ではこれまで、畑作に比べて水田の区画整理が進んでいませんでしたが、5㌶とか10㌶の水田もつくられるようになってきました。これらも国の基盤整備、土地改良事業によって可能となったものです。

 ――旧民主党政権時代には、基盤整備の予算が削減されました。

 小野寺 当時、予算が半分に削られ、農業生産が落ちてしまいました。現政権下で予算は戻りましたが、本予算ではなくて補正予算で組まれている状況です。これを何とか、安定してつけてもらえるようにしたい。道内に限らず全国の農業にとって、基盤整備は必要不可欠です。

 その上で、道内は農家1戸あたりの農地が広く、自己負担額が大きくなってしまう。国だけでなく、道の事業としても取り組んでもらえないと、農業生産額は上がりません。

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各JAが組合員の力を高める役割

 ――道内JAの現状は。

 小野寺 組合員一人ひとりの力をどのように底上げしていくのか、どうサポートをするかがJAの仕事です。それができれば、結果としてJAの実力が高まっていくし、108のJA全部でそれができれば、北海道農業が強くなる。

 そのために必要なことは、組合員のJAグループ利用率を高めること。オホーツク地区のタマネギは、全道シェアの半分以上を占めており、その多くはJAを通じて流通しています。

 系統結集率といいますが、その割合を高めて全国にブランドとして発信することで、市場に高く買ってもらえる。

 JA、ホクレンが少しでも高く農畜産物を売るというのは、生産者からすれば当たり前です。組合員との信頼関係を築き結集して、市場で有利販売をおこなっていく。利用してもらえない方々に対しては、組合長やわれわれ役員が腹を割って話して、考え方を知る必要もあります。

 ――今年6月に、道漁連やコープさっぽろ等と「協同組合ネット北海道」という組織を立ち上げました。

 小野寺 直面する課題について、JAグループ内だけで「大変だ」と悩んでいる現状がありました。

 一方で、同じく道内の諸問題に取り組んでいる団体や協同組合がある中、横のつながりは薄かったと認識しています。今後は問題を共有して、一緒に物事を進めていきたい。

 ほかにも、鈴木直道知事は食と観光が北海道の看板だとしていますが、私はその両方を支えているのが農業だと思っています。その意味では、北海道観光振興機構さんなどと話し合っていく必要があります。

 ――アメリカとの2国間交渉をはじめ、貿易交渉に関する取り組みは。

 小野寺 飛田稔章前会長を先頭に、北海道農業を守るため運動を続けてまいりました。

 それは継続する一方で、開かれたグローバル化の扉から飛び出し、拡大していく必要があります。

 国は年間の農林水産物・食品輸出額1兆円という目標を掲げています。北海道ではどんなものを輸出して、その額はどのくらいなのか、ということについても、しっかり考えていく必要があります。

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家族経営の有効性と女性が輝く農村

 ――農業の担い手づくりについては、どのように取り組みますか。

 小野寺 私は旧道立農業講習所卒業後、アメリカへ1年間研修に出ていました。アメリカ式の経営を学ぼうと思ったのがきっかけですが、それまで雑誌などで見ていたアメリカの経営は、法人による大規模なものだと思っていた。しかし、実際には家族経営のところが多かったんです。

 30年ほど後に再度アメリカを訪れたら、共同経営の大農場は経営者が変わったり倒産したりということがあったのに、家族経営のところは脈々と代替わりして続いていました。必ずしも直系の親族が後を継いでいるわけではないけれど、形態としては家族経営で続いている。

 日本では、持続可能な農業のためには大規模化が必要で、そのためには法人化が必要と言われてきました。でも最近ようやく、家族経営が、持続可能な農業に有効であることが知られてきました。

 ――家族という最少単位で成り立つ農業経営は、農村地域自体を守ることにもつながります。

 小野寺 それともう1つ、農村にはたくさんの女性がいます。だから、女性が元気で、輝く職場でないと農業の担い手は増えていかないと思っていて。担い手は、別に男性だけのことではない。女性の経営者もたくさんいます。

 女性が輝いて働ける、女性が農業をいいものだ、素晴らしいものだと言える。そういう農村社会を目指していきたいですし、後押ししたい。

 観光面から言っても、農村の美しさが観光に寄与するということでいえば、女性の力は重要です。それで初めて食と観光の北海道を打ち出せます。

 一方で、担い手の女性には、もっと世界に目を向けてもらって、世界の農業者がどんな農業をして、どんな生活をしているのかを見てほしい。女性の視点が変われば、男性も当然変わる。女性の力が加わって、初めて輝く農村になっていく。

 JAの青年部や4Hクラブ(20~30代前半の農業者による活動組織)の人たちのような若い人たちが支え合って、環境をつくる。力仕事にしても、スマート農業の普及によって、女性でも容易にできるようになってきています。田植えやタマネギの植え付けも、女性が運転してどんどんやっている。そういう時代になっています。

 ――都会に住む人たちにとっても、そうした農村は憧れの場所に映る。

 小野寺 休暇や手伝いで農村を訪れて、自分たちの食べているものについて考える。それが日本や北海道の農村と消費者との日常になればいい。

 これまで、青年部やJA理事、組合長などの立場から活動を続けてきましたが、これからもさまざまな課題に全力で取り組んでいこうと考えています。


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