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2020年

危機の中から新たな需要を見い出す

小磯修二 北海道観光振興機構 新会長

地方活性化――北海道観光振興機構の新会長のライフワークだ。小磯修二氏はこれまで国の政策マンとして、研究者として、釧路公立大学学長として取り組んできた。コロナ禍で危機的な状況にある観光産業の真価も、そこにある。

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新局面での観光政策を練り上げる

――堰八義博前会長からいつ打診を受けたのですか。

小磯 3月始めにお話がありました。

私は役人として、退官後は研究者として北海道の開発・振興に長くたずさわってきました。また、道庁の観光振興審議会の会長を8年間、務めさせていただくなど、さまざまな切り口で観光にかかわってきました。

観光産業は間違いなく、本道活性化に大きな役割を果たしていきます。ですから、観光振興機構の役割はとても重要である、という認識でした。

ただ、新会長を誰にするかは機構が決める話なのでみなさまのお考えの中で「新会長は私でいい」ということであれば、と前会長に申し上げました。

――打診を受けた3月は、新型コロナウイルスの感染が世界各地で拡大し始めた時期です。

小磯 言うまでもなく、観光産業は危機的状況にあります。

新型コロナによる危機は、これまでの経済危機とは違い、経済活動の基本である生産や消費行動そのものが、感染を拡大させてしまう恐れがあります。したがって経済対策を打つと、感染拡大のリスクがあるわけです。大きなジレンマです。

観光は人の移動なしにあり得ませんが、その移動自体が厳しい制約を受けています。さまざまな産業が新型コロナの影響を受けていますが、観光関連の被害は甚大です。

しかも北海道ではインバウンドが大きく伸び、経済を支えていた側面があり、それだけに本道への打撃は大きい。

しかし、この厳しさを受け止め、どう取り組むかが問われているのだと思っています。次の道筋をどうつけていくか。新たな局面での観光政策をしっかり議論し、練り上げる大切な時期であるとも言えます。

――ウィズ・コロナの本道観光についてどのようなお考えを。

小磯 新型コロナの感染の終息は見通せず、みなさん、不安を抱いています。感染防止策などで不安を払拭し、安心して楽しんでいただく工夫が必要です。

密を避けるという点では北海道は優位性があるでしょう。低密度で広域分散型の地域ですから。例えば、過密の心配のない、北海道の自然を生かしたアウトドアなどに力点を置くという選択肢もあり得るでしょう。

ステップとしてはまずは道民をターゲットに、次に道外の方に北海道に来ていただく。そして将来的なインバウンドの復活につなげていく。そうした時間軸で戦略を展開し、各種の支援策を構築していくことが大切だと思います。

――これまでの本道観光では、国内観光客数の割合は多いものの、減少傾向でした。なぜですか。

小磯 日本人全体の観光消費額が低減していました。その最大の要因は、本道でも急速に進む人口減少です。

だからこそ、インバウンド需要が重要なのです。人口減少で日本人の観光消費が縮小する分、国外からの旅行客で稼ぐ構図です。

しかし、新型コロナで海外との行き来はしばらく制約が続く可能性が高い。その間を、どのような観光政策でつなぐか。それが今、求められているわけです。

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幅広く連携を組み推進力を高める

――縮小していた本道における国内観光客のボリュームをどう膨らましていきますか。

小磯 先ほどお話したように北海道は低密度なので、密を避ける点で優位性があります。さらに本道や沖縄は遠隔地であるが故に、今まで海外旅行を楽しんでいた人の需要を取り込みやすい可能性があります。

――全国の各自治体が方策を打ち出し、国内需要を取り込もうと必死です。

小磯 この知恵比べは相当、激しい競争です。

ポイントは、新型コロナの影響で起きている社会の変化をとらえることだと考えています。

オンライン会議、テレワークが急速に普及しています。大手企業ではコロナ危機への一時的な対策としてではなく、標準化する動きが目立っています。ワーケーションという言葉も改めて注目されています。

――ワーケーションとは。

小磯 ワークとバケーションを結び付けた言葉で、過ごしやすい地方や観光リゾート地に滞在しながら仕事をするスタイルです。

オンラインでの打ち合わせやテレワークが標準化すると都心に住み、満員電車に揺られて職場にいく必然性がなくなっていきます。

温泉地やリゾートのホテルや旅館は、こうした新しいスタイルの受け皿になり得るでしょう。東京の人にとって、涼しい北海道で過ごしながら仕事ができるのは最高の魅力ではないでしょうか。

大変厳しい状況ですが、今回のコロナ危機は、こうした新たな需要を見い出し、取り組んでいくチャンスでもあります。

また、俯瞰的に考えてみますと、北海道において最大の長期的な難題は人口減少です。働き手が減り、限られたリソースで生産性を上げていかなければなりません。

今回、飲食店では接触を減らすため、タッチパネルでオーダーをするといった、非接触型のデジタル技術がずいぶん浸透しました。見方を変えると、生産性を向上させる技術です。

つまり、コロナ危機は社会に変革を促す契機になっているとも言えます。

いま、大学では講義はほとんどオンラインですが、これまでは必要と言われながらも普及が進みませんでした。医療でも、オンライン診療が一気に幅広く認められました。

こうしたデジタル技術、新たな生活スタイルをさらに普及させていけば、北海道のような遠隔地は距離のハンデを乗り越えることができます。地方活性化にとってプラスに働くのです。 

――観光に話を戻します。「どうみん割」の効果について、どう考えていますか。

小磯 非常に意義のある事業です。道民の観光需要を喚起するという効果だけではありません。

従来、地元のホテルや旅館に泊まる、あるいは近場の観光地でゆっくりするという道民は、さほど多くはありませんでした。「どうみん割」をきっかけに、そうした流れが定着する可能性があります。

さらに、魅力ある観光地づくりにも寄与します。

観光客の立場・視点で体験をして改めて地元の魅力に気づき、考え、そこからアイデアや提案が出てくるでしょう。そうした意識を持つ人の増加が、地域の観光資源、魅力の質を高めていくことにつながっていく。

――観光振興機構として現在、どのような取り組みをしていますか。

小磯 「北海道いいトコいいモノ発見キャンペーン」を7月1日から始めました。これは、道内の対象宿泊施設に1泊6000円以上で泊まった方が対象です。抽選で1万人に宿泊費や本道の特産品などをプレゼントする企画です。

新型コロナで物産展やイベントが軒並み中止になり、たくさんのおいしい道産品が行き場を失いました。そうした道産品をうまく活用しつつ、観光をバネに、幅広い分野に消費を拡大していくのが、最大の狙いです。北海道の中で、しっかりとお金を回す仕組みとも言えるでしょう。

――新体制では、北海道エアポート(HAP)の社長が新たに副会長に就きました。

小磯 今年からHAPによる道内7空港の一体的な運営が始まりましたが、HAPの究極のミッションは本道の活性化であり、私たち機構と同じ。連携をさらに深める意味でも、蒲生社長に副会長に就いていただきました。すでに道とHPAと連携して「HOKKAIDO LOVE!」という運動を始めています。

――新体制では、これまで以上に幅広い業種から役員が選出された印象があります。

小磯 多くのみなさまのご協力をいただきたいと思っています。観光は第1次、第2次、第3次の各産業の幅広い業種に波及する地域産業です。

ご存じのように産業分類表に観光というカテゴリーは存在していませんが、逆に言えば、それだけウイングが広いのです。観光とは人の営みそのもの、と表現してもいいと考えています。

幅広く各事業者とタッグを組み、観光振興に取り組んでいきたい。大きな推進力が生まれるはずです。

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人口減少で増す観光産業の重要性

――ところで来年秋、アドベンチャートラベル・ワールドサミットが本道で開催される予定です。

小磯 アドベンチャーという言葉を聞くと、アウトドアをイメージされるかもしれません。しかし、アドベンチャートラベル(AT)のコンセプトには、自然や野生動物の観察に加え、異文化体験や歴史を学ぶことなども含まれます。

先ごろ「ウポポイ」が開業しましたが、アイヌ文化はATの要素です。ユネスコ世界遺産への登録を目指している北海道・北東北の縄文遺跡群も当然、ATの対象です。

――バードウオッチングもATだと思います。道東には世界各地から愛鳥家が来るそうですね。

小磯 私は釧路に住んでいた頃、フライフィッシングが趣味になりましたが、北海道の渓流は愛好家にとって非常に魅力的です。

研究・調査で訪れたことがあるアメリカのイエロー・ストーン国立公園はフライフィッシングのメッカと言われていますが、私は〝素材〟では北海道の方が断然、上だと思っています。フライフィッシングの世界最高の地かもしれません。

しかも、釣りやバードウオッチングを目的に来訪される旅行客は、消費額が大きいことが知られています。地域によっては、こうした消費効果の高い旅行客をターゲットに絞る戦略も手でしょう。

最後に改めて、観光の重要性について申し上げたい。

日本は人口減少がどんどん進んでいます。ただ、加工貿易立国として外貨を稼げるかというと、グローバル化の中で、日本の製造業が多くの拠点を海外に設けています。したがって国外からをお金を稼ぐ観光の役割は、日本経済においてますます重要性を増していきます。

北海道に視点を移して考えても、例えばトヨタのような世界的なメーカーが今後、誕生するでしょうか。可能性はゼロではないでしょうが、非常に難しい。しかし、観光については、世界最高レベルの産業を構築できる潜在力があります。

最高レベルの観光を構築して域外から稼ぎ、人口が減っても豊かに暮らせる北海道をつくりあげ、そして次の世代につなげていく。それが私たちの使命ではないでしょうか。


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