中村記念病院

のろ・しゅうさく/2000年旭川医科大学卒業後、同院脳神経外科に入局。08年に米国ウエストバージニア大学留学を経て、22年から同院脳神経外科部長。同院附属看護学校講師。日本脳神経外科学会専門医。日本臨床神経生理学会認定医。
顔の激痛に豊富な実績。米国学会で世界初の証明も
「中村記念病院」に在籍する脳神経外科医は50人。そのうち、38人が日本脳神経外科学会の脳神経外科専門医資格を有し、日本脳神経血管内治療学会の脳血管内治療専門医は12人だ。特に、脳神経分野では存在感が際立つ。
2017年には、三叉神経痛と片側顔面痙攣に特化した「MVDセンター」を設置した。センター長を務めるのは、脳神経外科部長も兼務する野呂秀策氏だ。
三叉神経痛は、顔面の感覚をつかさどる三叉神経が血管に圧迫されることで、顔の片側に激しい痛みが生じる。一方の片側顔面痙攣は、目や口の周りの筋肉が自分の意思とは関係無く痙攣する疾患。進行すると目は閉じ続け、顔が突っ張った状態になる。
「両疾患ともに、若年者から高齢者まで幅広く発症します。顔の神経が血管に圧迫されることが主な原因ですが、症状が全く出ない人もいます。現代の医学では解明されきれていない疾患です」
診療はまず、同院の強みでもあるMRIやCTなどの機器を駆使して、顔や頭を撮影した画像を3D化して観察。神経を圧迫している血管や腫瘍の有無を確認し、症状の原因を特定する。
手術は「微小血管減圧術」で行う。具体的には、耳の後ろの頭蓋骨に500円玉程度の穴を開ける。手術用顕微鏡を用いて、原因となる血管を神経から離し、テフロンなどの素材で固定して神経への圧迫を取り除く術式だ。
「程度にもよりますが、手術時間は3~4時間です。術後は約1週間の入院で、退院後も薬物療法に頼らずに生活できるため、QOLの向上が期待できるうえ、手術の傷は髪の毛で隠れるので、ほとんど目立ちません」
一方、合併症のリスクもあり繊細で高度な技術が求められるため、一般的な脳神経外科では、年間執刀数は10~20件と言われる。しかし野呂部長は、年間で80例以上を執刀した年もあり、国内においてこの疾患を熟知しているドクターの一人と言えよう。
現在も疾患に関しての研鑽を続ける。これまで三叉神経痛の発作に速効性がある薬は無いとされていたが、自身が23~24年にかけて行った臨床試験で、抗てんかん薬の一つが速効性治療薬として有効であることを証明。今年4月には、米国神経学会(AAN)で研究結果を発表し、世界最大医療メディア「Medscape」でも取り上げられた。
「日本でこの投薬はまだ保険適用外です。承認には時間を要するため、今後も研究成果を示していく」と力を込める。
