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2021年

十勝バス・野村文吾社長が私塾開講「物事の原理原則を説き続ける」

野村文吾 十勝バス社長

十勝バスは地方の輸送交通会社として、全国から注目される存在。今年3月には「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の地方創生大臣賞を受賞した。野村文吾社長は社長塾と私塾を開講し、成長に必要な物事の原理原則を伝えていく。

“やり方”ではなく“あり方”を伝える

 ――今年3月、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の地方創生大臣賞を受賞しました。

 野村 選考基準は、さまざまな指標で総合的に評価されています。たとえば、有休消化率、法定時間外労働、離職率、正社員比率、給与水準、障害者や高齢者の雇用率といったものです。もちろん、地域の支えがあったからこそ受賞できたと思っています。

 ――ドライバーの新卒採用にも力を入れていますね。

 野村 当社では3年間の研修後、4年目に大型2種免許を取得させて現場に送り出します。毎年3人を採用すると年間9人となり、約3000万円かかります。それを3年分です。それほど、運転手を育成していくことが重要なのです。

 ――育成スケジュールを教えてください。

 野村 まず、入社した社員には、当社のすべてのセクションを経験してもらいます。その中でも、若い人たちが元気になるのは、やはり現場なんですね。お客さまと直接接する部門にいくと、ものすごく生き生きしています。

 生活支援事業部門として「ベンリー」があります。いわゆる何でも屋さんで、本業のバス事業を含めての「総合生活支援会社」を目指す上での事業です。社員はお客さまから感謝の言葉をかけられ、とてもいい経験になっています。

 ――入社した社員をどう育てるのか。悩まれている経営者も少なくありません。

 野村 大切なのは、「前提共有」と「共通認識・共通言語」です。たとえば、前者については、「十勝バスは何のために存在し、何の仕事をやっているのか」ということです。多くの企業には、理念やスローガンがあり、目標を掲げていますよね。

 後者については、私はできる限り、業界の専門用語を使わないようにしています。「業界の常識は非常識」という言葉もあり、世の中で一般的に使われているものでなければなりません。わかりやすい共通の言葉を用いれば、お互い理解が深められます。

 ――社員向けに「社長塾」を開いていますね。

 野村 教えることは、世の中の原理原則・法則です。人によって答えが変わるものではありません。普段意識していないから、うまく使えないのです。いわば、“やり方”ではなく“あり方”です。難しい話はしません。それを繰り返し、繰り返し、説き続けることが社員の成長につながります。

 社長塾は管理部門の社員だけではなく、一般社員やドライバーにも行っています。4班に分けて、時間は90分です。最初の30分は前回学んだことの実践報告。その後、私からの講義があり、最後に学んだことの振り返りです。

 いま、自社にとどめず地域の経済人に発信したいと考え、昨年冬に私塾「野村塾」を開講しました。

「視座を高めて志を持つ」ことの大切さ

 ――「野村塾」はどのような内容ですか。

 野村 「中心道」という、身体から思考を変える文武両道の人間力向上プログラムがあります。

 格闘家だった須田達史さんが創始者です。

 須田先生は格闘家としてキックボクシングの世界で日本チャンピオンになりました。育てる側にまわり、20人の弟子をとり、全員日本一に育てました。極真空手、キックボクシング、K―1など、ジャンルを超えて王者を輩出しています。そのうち、8人が世界チャンピオンにまで上り詰めました。つまり、競技が異なっても、あり方、考え方の原理原則・法則を伝えているから育成できたのです。

 10年くらい前に、ドラッカーの勉強会があり、須田先生が講師としていらっしゃいました。誰もが本来持っている人間としての機能、強みをいかんなく発揮することが、経営者の役割を果たすのに必要だと教わりました。私も須田先生の私塾「須田塾」に入りました。

 ――学びの場で印象に残っている言葉はありますか。

 野村 「視座を高めて志を持つ」という言葉です。視座とは物事を見る立ち位置、責任です。経営者と社員では視座が異なります。

 視座をもっと高めなければならない。つまり、十勝バスの成果は、日本の成果にするべきだと。十勝バスの取り組みを、全国の地方都市の同業者のために、生かしたいと考えました。この時に須田先生を自分の師匠と決めたのです。

 私は中心道の北海道十勝帯広西支部の支部長に任命されました。私塾だけではなく、武道を教える資格もあるので稽古もできます。6月26日に道場開きを行います。

 昨年12月から、私塾の1期生を迎え入れて、いま2期生がスタートしました。3期生が10月からスタートします。卒業した後も、並行して進めている後の期の講義にオブザーバーとして参加できます。

 ――講義には身体も取り入れていますね。

 野村 よく、ビジネスの場面で、頭で理解しても、身体が動かないことがありますよね。実は人間の機能を考えれば、頭だけで物事を理解するのは難しいんです。実践で使えず、知識の領域にしか入っていきません。動作がひもづいていなければ、せっかく学んだこともどんどん忘れていきます。

「野村塾」では、身体を組み合わせて講義を進めていきます。最初に頭で学んで、体操や武道を通じて、身体に刻み込んでいきます。最後に懇親会を開催し、学んだことを互いに教え合います。参加者が「実社会で成果を上げるために、法則中心主義のぶれない自分づくり」をするのが特徴です。

 現代の「松下村塾」を目指し、地域、そして日本、世界のリーダーを育てていきたいです。


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(のむら・ぶんご)1963年帯広市生まれ。函館ラ・サール高、小樽商科大卒。国土計画(現西武ホールディングス)を経て、98年、父親が経営する十勝バスに入社。2003年から現職。帯広商工会議所副会頭、北海道バス協会理事。