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2021年

“奇跡のまち”上士幌町・竹中町長が進める「ICT活用とウィズ・コロナのまちづくり」

竹中 貢 上士幌町長

 少子高齢化と言われて久しい中、十勝管内上士幌町の人口が増え続けている。移住・定住政策が軌道に乗り、次にICT(情報・通信技術)を活用したまちづくりに力を入れる。同町の竹中貢町長を直撃した。

子育てにほとんどお金がかからない

 ――少子高齢化の中、上士幌町の人口が増えています、“奇跡のまち”とも呼ばれ、全国から注目を集めています。

 竹中 人口はこの5年間で、社会増が244人で、人口は42人増えています。上士幌のような農山村では、全国的にあまり例がないと思います。今年度の4月から9月までのデータを見ると、町民が26人増えています。

 特徴的なのは、20代から40代の若い世代の転入者率が、70%を超えています。5年前と比べると、高齢化率も減少しました。首都圏を中心とした道外から移住してきているのです。

 ――上士幌町が移住・定住政策に本格的に取り組み初めたのは、いつからですか。

 竹中 いわゆる“2007年問題”の頃からです。団塊世代がリタイヤし、これから人の流れが大きく変わると。定年になりふるさとに回帰する動きや、定年後、自分の第2の人生を模索してみようとする流れです。

 平成の大合併がありましたが、上士幌は自立を決断しました。人口減少になった時、地域経済が縮小して寂れていってしまう。しかし、移住・定住政策を促進させ、交流人口が増えれば、減少率を少なくできるのではないか。そこで、移住・定住政策に本格的に取り組みはじめました。

 ――移住検討者への“お試し暮らし”に力を入れていますね。

 竹中 上士幌では、お試し住宅を10戸確保しています。突然、移住される方はそうそうにいません。夏に訪れたら、今度は冬に来てみる。次に半年、1年といった長い間滞在してみる。そうした中で、地元のよさに触れてもらい、地域とのコミュニケーションが図れるのかを確認してもらいます。

 北海道を希望する人は、やはり大自然への憧れが一番です。移住することになれば、世代によって目的が変わってきます。家族構成も違います。リタイアした人は、生きがいを持って、残りの人生をどう過ごすのか。若い世代であれば、子育ての心配、仕事の問題もあります。

 ――子育て政策としては、町内の認定こども園が10年間完全無料化しました。

 竹中 これもインパクトがありました。上士幌に行けば、安心して子育てができると。給食費を含めて、所得に関係なく無料です。上士幌では、医療費が18歳まで無料なので、高校生まで子育てのお金はほとんどかかりません。

 あわせて、英語担当の外国人講師がこども園で2人働いています。小さい頃から英語が学べて、教育の質の低下を防いでいます。移住者は子どもの可能性は少しでも伸ばしてほしいと考えています。

 ――上士幌の中心部は、キレイに整備されています。子育て支援だけではなく、住宅支援もおこなっているそうですね。

 竹中 街中に古い建物があまり目立たない理由の一つは、町が建物の解体費用を助成しているためです。

 それ以上に新しい住宅がどんどん建設されています。実はこの10年で、民間の賃貸住宅が400戸くらい供給されているんです。町内に朝通勤に来る人が多い。夜に減ってしまうのは、住宅がなかったからということでした。

 雇用する上でも衣・食・住のうち、住は大切なポイントなんですね。古い家にはあまり住みたくないでしょう。いま、町内に賃貸住宅を建設する個人及び法人の方に、1戸あたり最大240万円を助成しています。

 子育て世代の新築住宅には、中学生までの子ども1人につき100万円助成しています。

 ――上士幌庁内に「ICT推進室」を新設しました。7月には、「かみしほろシェアオフィス」がオープンしました。

 竹中 企業、人口の東京一極集中をどう是正させ、分散化させるのか。今回のコロナ禍で露呈した大きな課題です。

 働き方改革では、デジタル化の遅れを、身に染みて感じているはずです。

 今後考えた場合、東京とつなぐためには、ICTを活用した戦略が必要です。距離を縮めることは物理的にできませんが、時間を縮めることは可能です。

 そこで、シェアハウスをつくり、テレワーク、ワーケーションの受け皿になってもらおうと考えました。

 都市部の企業に勤める人たちが、ここで働くことで地域との関わりを持つ。知識、能力を生かし、上士幌で副業、起業することにつなげていきたい。地元の素材を異なる視点でみれば、新たな価値を見いだせるはずです。

 あわせて、ビジネスという視点ではなく、福利厚生の視点も大切です。たとえば、大企業は社員に対して特定健診を実施しなければなりません。

 東京の病院ではなく、帯広で健診を受ける。2、3泊滞在し、結果がでるまで、自然や食を満喫します。その間にシェアハウスで必要な仕事をおこなう。“ワーケーション”という言葉がありますが、こういう多様性が、これからの時代は大切になってくるでしょう。

 ――20年6月には、「道の駅 かみしほろ」が開業しました。

 竹中 道の駅を経営しているのが、「Karch(カーチ)」という地域商社です。官民で設立したもので、道の駅単体のビジネスではありません。

 ナイタイ高原牧場ではテラスを運営し、電力の販売もおこなっています。観光客誘致のためのプログラムを開発するなど、稼ぐということを大きなコンセプトにしています。

 道の駅のレストランはコース料理を用意しています。ホテルのようなレストランのグレードを目指すと言うことです。上士幌は十勝と旭川、北見を結ぶ交通の要所です。人、モノ、情報の交流拠点の役割を果たしてきたい。

 そのほか、町内には起業家支援センター「HARETA(ハレタ)」がオープンしました。

「生涯活躍の町 上士幌」を掲げています。人材センター、職業紹介所、若いお母さん方の子育て相談、起業家要請の塾を開催しています。社会性、公益性の高い仕事をおこなっています。

©財界さっぽろ

町内の高齢者にタブレットを無料で配布

 竹中 ICTを活用した取り組みとして、高齢者向けのタブレットの配布があります。いま、町内にコミュニティーバスを走らせています。

 タブレットを操作して、行きたい場所を伝え、自分の家まで向かいに来てもらいます。また、保健福祉の部署とつながって、健康相談ができるというものです。行政の情報は、主に広報誌で提供していますが、限定的なことしか伝えられていません。高齢者がタブレットを使えれば、すべての世代がデジタル化に対応することができます。現在、高齢者の35世帯に配布しました。町民のスマホ所有率のデータを調べており、1人暮らしの世帯にも配布する予定です。

 ――コロナ後のまちづくりで大切なことは何でしょうか。

 竹中 首長の任期は4年です。その期間でできること、見える形で結果をださなければならない面もあります。

 そうした中で大切なことは、10年、20年先を見据えた持続的なまちをどうつくるかです。そうした政策に取り組む根拠を町民に説明し、理解を得られなければ、なかなか前には進めません。空気がよくて、安全・安心なおいしい食べ物がある。これなら、地方に所在するどの市町村もアピールできるわけです。総合的に住むに値する町だと思ってもらえることが必要です。


……この続きは本誌財界さっぽろ2020年11月号でお楽しみください。
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(たけなか・みつぎ)1948年留萌管内羽幌町出身。71年、北海道教育大学釧路校卒業後、上士幌町役場に入り、町教委社会教育課長などを経て、99年4月の町長選に出馬、初当選。現在5期目。北海道移住交流促進協議会の会長も務める。