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2020年

アフターコロナの購買行動の変化を注視

赤尾洋昭 セコマ新社長

道内最大シェアのコンビニチェーン「セイコーマート」を展開する「セコマ」の新社長に赤尾洋昭氏が就任した。赤尾氏は同社の実質的創業者として知られる故・赤尾昭彦氏の長男。前社長の丸谷智保氏は会長となり、2代表制で同社を率いる。

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変化に対応しコロナの影響は最小限

赤尾洋昭氏は1976年、札幌市生まれ。北嶺中・高等学校から一橋大学へと進み、卒業後はマツダに入社。

2004年、セイコーマート(現・セコマに)入社。06年取締役、09年常務、16年から代表権を持つ副社長。この4月に社長に就いた。以下、赤尾氏との一問一答。

   ◇    ◇

――コロナ禍の中での社長就任となりましたが、影響は。

赤尾 お客さまの来店時間、売れる商品、売れる店舗、すべてにおいて変化があります。

――スーパーが好調な一方、コンビニ大手3社は3月、4月ともに既存店売上高が前年同月対比で減少しています。貴社はどうか。

赤尾 3月はスーパーほどではないものの、悪くはありませんでした。4月は前年同月比をやや割る程度、5月はもう少し落ちました。ただ、報道で出ている他のコンビニチェーンよりは良い数字だと思います。

――あまり数字が落ちなかった要因は。

赤尾 1つは立地です。観光地やオフィス街の店舗比率が低いため影響が小さかったのでしょう。店舗で需要が落ちたのはたばこです。小容量の飲料水やお弁当類も売れ行きはよくありませんでした。

その反面、住宅街の店舗では全体的に売り上げが伸び、たばこなどが売れなくなった分を肉や野菜、乳製品などがカバーして、結果としてそこまで売り上げを落とさずに済みました。

――スーパーの役割を担ったということですね。

赤尾 そうですね。地域によってはもともとスーパーのように使われている店舗もあります。

また、「近くのセイコーマートでさっと買い物して帰ったほうがいい」というお客さまもいました。

――平時と違う対応は。

赤尾 売れる商品、時間帯が平時とは違っていますので、商品の発注を間違えると、お客さまが必要とする商品を充分に提供できません。毎日の変化を見ながら、細かく数字を拾っていかないと、あっという間に落ちこむという印象はありました。機会損失を防ぐ細かな発注が、より必要と考えました。

――売れ行きが悪い時間帯は。

赤尾 朝と夜が悪いですね。朝、お店に寄ってたばこやコーヒーを買うという人が減りました。また、夜9時以降もお客さまが減っており、平時と比べると25%減です。落ち込んだ分を昼から夕方の時間帯でカバーしている状況です。24時間営業の店舗が少ないことも良い方向に出ました。

――副社長時代も代表権は持っていました。引き続き2代表制ですが、役割は変わるのでしょうか。

赤尾 私はこれまで通り、財務や人事、システム開発、店舗開発が中心となります。

ただ、今回のような取材対応の一部や、協定調印式への出席などのウエートは増えると思います。

これまでも丸谷会長と相談しながら、システムに変更を加えたり、人事の仕組みを変えるなど、やりたいことはやってきました。肩書きが変わることで私の仕事自体にはほとんど変化がありません。

ただ、肩書きが変わることで周囲の目がこれほど変わるかのという驚きはあります。面識のない人からもフェイスブックの友人申請がたくさんきます。

――システム開発ではAIの活用も話題ですね。

赤尾 基本的に小売業というのは「システムを使いこなしてなんぼ」という面があります。AIがはやっているから急にAIを使うということではなく、AIの性能が上がって価格も落ちた。それなら新しいソフトウエアの1つとしてAIを研究しつつ取り入れようということです。

――実父であり、実質的創業者である赤尾昭彦前会長は公私にわたりどのような存在でしたか。

赤尾 家庭でも常に仕事のことが頭にある父でした。遊んでいるように見えても、仕事に関連することに興味が出れば、仕事モードになり、その場ですぐに調べていました。

私は2004年に入社し、父は16年に亡くなりました。最後の1、2年は父が東京にいることが多かったため、間近で仕事を見ていたのは約10年くらいでした。

その中で1つ挙げると、父は将来を予測した上で、会社や世の中に何が必要かを考え、自分たちで調べて、自分たちで行動していました。これはすごく参考にしています。

――過疎地への出店もおこなっていますね。

赤尾 自治体などから出店をお願いされることも増えていますが、レギュラー店舗では数字的に厳しい。企業ですから、採算が取れないと出店できません。そこで、3年ほど前から採算に合う店舗づくりを進めています。

小型店舗や営業時間を短縮した店舗、もしくは中古機材などを活用してコストダウンした店舗にすれば出店の可能性は出てきます。

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本州で躍進、成長著しい外販事業

――一部ではコンビニ限界説もささやかれていますが、今後の成長戦略は。

赤尾 店舗数のピークは過ぎたと思っています。この先、日本においてコンビニをまだまだ増やすというのは難しいでしょう。

当社も店舗の再配置はおこないますが、道内外ともに店舗数は現状維持で推移すると思います。内製化によるコストダウンや、ITを活用した店舗経営の効率化など、内部改善に力を注いでいきます。

一方で、今後ますます成長していくのは外販事業。メーカーとしての機能だと考えています。本州で販売している牛乳やヨーグルトの販売数、売上高は着実に伸びています。ここはわかりやすい当社の成長部分です。

――外販事業の主力商品は。

赤尾 売り上げでは牛乳です。大型商品ではありませんが、アイスやヨーグルトも多いですね。

また、本州では北海道の素材を使用したアイスやサワーなどの商品が高く評価される傾向にあります。これらの商品はかなり伸びる可能性があると見ています。

――どのような商品が売れていますか。

赤尾 例えば、「北海道余市産完熟トマト酎ハイ」です。本州の大手スーパーチェーンから大量の発注もいただきました。

また、本州小売業から「北海道の素材を使って、こんな商品をつくってほしい」という依頼も来るようになりました。先方のバイヤーさんとわれわれで一緒に開発した商品も出しています。

――道産品を使った最初の商品はメロンでしょうか。

赤尾 一番最初の加工食品は、北海道の牛乳を使ったアイスです。大きく伸び始めて世間のお客様から認識されるようになったのは、メロンかもしれませんね。

――以前取材したメロン農家も規格外のメロンがお金になると喜んでいました。

赤尾 金銭面のメリットもありますが、地域の名前が出ることでも喜ばれています。余市産トマト、JA苫小牧広域のハスカップなど商品に名前が載ることで、農家さんだけではなく地域の方に喜んでいただけているようです。富良野のキングルビーを使ったメロンアイスは高島屋さんと一緒に開発し、お中元のカタログにも採用されています。

――首都圏でもG7などのワインを見かけるようになりました。

赤尾 当社で扱っているワインは価格と味のバランスから競争力のある商品だと思っています。

北海道や東京では、飲食店でワインを頼む人が多いのですが、消費量を見ると全国的にはそれほどメジャーになっていないと思われる部分もあります。伸びる余地があるマーケットとしてとらえています。

首都圏ではドラッグストアのウエルシアさんが当社の商品を広く取り扱っていただいています。コロナ禍による巣ごもり需要の増加で、ワインの出荷も増えています。ウエルシアさんには牛乳もアイスも、100円台のパスタも置いてあります。

――店舗の直営化を進めてきました。現在の比率は。

赤尾 8割を超えました。今後も結果として直営比率は上がっていく思います。いま経営されているフランチャイズオーナーさんには長く経営していただきたいのですが、後継者がいないオーナーさんも少なくありません。こうした店舗に関しては当社が引き受けていきます。

――あらゆる業務を内製化していますね。

赤尾 そのようなイメージがあるようですね。今も店舗で使う資材関係の内製化を進めていますが。外部の企業から仕入れたり、外注している業務もかなりあります。

例えば、規模を必要とする自社開発商品の製造は外部企業に委託しています。その反面、自分たちでできるものは自分たちでやりたい。

基本的にはコストとベネフィットのバランスです。外に頼めばそれなりのコストがかかりますので、内製化が有利なものは内製化しています。

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コロナ後の購買行動の変化に注目

――2021年は1号店出店から50周年となります。

赤尾 率直によく50年もやってこれたなと思います。新型コロナが落ち着いていれば、お祝いもしたいと思いますし、キャンペーンも予定しています。

しかし、50年は通過点です。それよりもこの先、10年、20年と続けるほうが大変です。

――次の10年、20年に向けて何を重視しますか。

赤尾 今回のコロナ禍で多くの人が強制的に生活様式を変えられました。仮にコロナが落ち着いてきたとしても、人と距離を取る、マスクして歩くなどの生活様式は残り、定着していくと思います。

まだわからないことだらけですが、この先、お客さまの考え方や社会のあり方、働き方、購買行動がどのように変わっていくのかに目を向けています。お客さまの行動変化を丁寧に拾って、いかに店舗や工場に反映させ、対応していくかが重要だと考えています。

――非接触型のキャッシュレス決済も増えたのでは。

赤尾 少しずつ動いており、比率はゆっくりと上がっています。お金を触るのを嫌がるお客さまはいますが、財布を開けてここに直接釣り銭を入れてほしいというお客さまも少なくありません。キャッシュレスを導入してからずっと感じているのは、日本人の現金に対する思い入れの強さですね。

――今後の注目商品は。

赤尾 7月に新しいビールをリリースします。当店で販売中の「オランダモルト39」を製造する
メーカーの商品で、今度はビール規格です。

すっきり系のオランダモルトに対し、しっかりとした味わいです。価格も一般的なビールよりは安く出せると思います。ご期待ください。

――本日はありがとうございました。


……この続きは本誌財界さっぽろ2020年7月号でお楽しみください。
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