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Interview

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北海道を東アジアの“食の拠点”にする!
総合特区で食クラスター活動を加速
掲載号:2011年1月号

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近藤龍夫 道経連会長

北海道はどうやって明日の糧を得ていけばいいのか――道経連の近藤龍夫会長は北海道の生き残りを賭けて「食クラスター」構想を推進。札幌・江別・帯広・函館とともに国に対して「国際戦略総合特区」を申請した。その狙いを聞いた。

北海道の存在すら危うくなる懸念も

――まず北海道経済の現状と今後の見通しを。
近藤 北海道経済は08年秋以降の世界的な景気後退の影響で、大きな打撃を受けましたが、全国に比べて輸出依存度が低い分、落ち込みは限定的でした。
しかし、足もとでは逆に輸出が牽引する形での景気回復の恩恵を限定的にしか享受できず、一方で公共事業依存度が高い分、公共投資削減の影響を受けて苦しい状況にあります。
また、過去10年程度を振り返ってみても、国内総生産額(実質)が97年度から07年度までに、国のほうは約12%伸びて約560兆円に増加しているの に、北海道は同じ期間に20.1兆円から19.6兆円へと2.5%減少しており、全国との経済格差が拡大傾向にあります。
さらに今後を展望すると、経済対策効果が薄らぐことや、円高・海外経済減速などによる景気下振れリスクなどの懸念材料があって、道内経済は、今後とも低位停滞という厳しい状況が続く見通しで、企業の経済活動を取り巻く環境は予断を許さない状況です。

i17加えて全国より早いペースで進んでいる人口減少、少子高齢化という構造的な下押し圧力もあります。
昨年、道経連で実施した調査によりますと、今後、何らかの策を講じなければ、北海道の人口が05年の563万人から2040年、つまり35年後には414万人と約150万人減少する見通しです。
こうした急激な人口減少・少子高齢化とともに人口の希薄化が一段と進行し、産業や社会の維持すら困難となる地域が出てくることとなり、大げさに言うと地域社会の崩壊、ひいては北海道の存在すら危うくなることが懸念されます。
――先行きもまた非常に厳しい中で、近藤会長はかねがね「食クラスター」構想を推進されてきた。
近藤 道経連では、この先北海道は「どうやって明日の糧を得ていけばいいのか」ということについて、実際に現場を訪問するなど調査、検討を重ねました。
得られた結論は、他地域に比べて優位性があり、将来の発展性が見込まれ、かつわが国の食料自給率向上に貢献できる「農業・水産業」をベースとした「食の 分野」に、少し大げさに言えば、北海道の生き残りを賭けて挑戦すべきというものです。 そこで「食クラスター活動の強化」を提唱してきました。
北海道の豊富な食資源を活用した食クラスター活動を盛んにすることにより、広い北海道の各地域の持つ強みを活かす基幹産業である農水産業、食品加工業等 の食関連産業について、その高付加価値化、道外・海外への販路拡大や、流通業、観光産業、バイオ・IT・ものづくり産業等の周辺事業との連携を通じ、北海 道ならではの「食の総合産業」の確立を目指すものです。

食で国に貢献できるのは北海道だけ

――先ごろ札幌・江別・帯広・函館と、道経連の5者で「北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区」を申請されましたね。
近藤 国際競争力をつけていくためには、ゆくゆくは北海道に食の分野の研究開発拠点を設ける必要があると考え、食の先進国であるオランダのフードバレー等を調査し、勉強してきました。

そのような中、国の新成長戦略に基づく「総合特区制度」の募集があり、すでに取り組んでいる食クラスター活動の延長線上にあるものととらえ札幌市、江別市、帯広市、函館市と共同で「国際戦略総合特区」の提案を行いました。特区の指定を受けることで、「食クラスター活動」を一層加速化できる大きな推進力となり得ると考えています。
今回提案の検討にあたっては、まず政府が閣議決定した「新成長戦略」で、食料自給率の向上(2020年食料自給率50%)や食の輸出促進(アジア等への輸出1兆円増)を打ち出していることがあります。
そこで東アジアの経済規模が、近い将来にEUや北米とほぼ同じになっていくという点に着目しました。 国際機関では2015年時点の東アジアの名目GDPは、08年の12兆ドルから20兆ドルまで成長すると予測しています。この規模はEUや北米の15年時点の名目GDPレベルと肩を並べる水準です。東アジア諸国では、所得と生活水準の向上で消費の成熟化や健康志向など、食市場の拡大と多様化が予想されます。
この市場に対し、北海道発の付加価値の高い「食」を投入することで、増大する需要を着実に取り込んでいけると考えました。
オランダのフードバレーの一番の特長は産学官の研究機能を集約している点にあります。幅広い技術分野をカバーする研究機関が求心力となって、食関連企業の集積が図られています。
オランダは北海道の半分ぐらいの広さですが、アメリカに次いで世界第2位の農産品・食料品の輸出国です。中心はチューリップなどの花卉ですが、乳製品や機能性食品などの付加価値の高さが輸出額を押し上げている点に着目しました。
仮に北海道がオランダのフードバレーと同様の効果をあげると、日本の食料品輸出額を5兆円増やすことが可能で、これによる生産誘発額は全国で13兆円発生することが見込まれ、これに伴って127万人の雇用を創出することができると予測しております。
特区の指定によって、食に関する研究開発機能を集積させ、その機能が求心力となって道内企業の技術力向上や本州・海外企業の集積をもたらし、成長著しい東アジア食品市場への輸出を拡大し、わが国全体の経済成長を牽引していければと思っております。

国民の食は自国の力で守るべきだ

――韓国も国をあげてフードポリス構想に取り組んでいると聞きます。
近藤 韓国では李明博政権の政策アジェンダとして「フードポリス計画」が打ち出されています。東アジア市場における食品ハブとなることを目指して、今後5年間で5500億ウォン(400億円)規模の投資計画が進められています。
すでに外国企業へのPRも行っているとのことで、韓国の農水大臣が江別の酪農学園大学に来て、技術供与を求めたという話もあるように聞いております。
このまま手をこまねいていると、港湾の釜山、空港の仁川に続き、日本の成長の芽がまた韓国に取られてしまいかねないと危惧しております。なんとしても、国に提案中の「北海道フード・コンプレックス」を実現して、東アジアの食市場をわが北海道のものにしたいと願っています。
また、食分野における知的財産、すなわち品種改良や食品加工などのノウハウに、海外からの関心が高まっています。これら知的財産は、関係者が人と金と時間をかけて育ててきた貴重な財産ですので、不本意な流出のないよう管理をしっかり行うことも大切です。
――環太平洋経済連携(TPP)で、中央の経団連は積極推進論ですが、近藤会長は慎重姿勢ですね。
近藤 貿易自由化については、日本の経済発展のために重要であることは異論のないところですが、これに先立ち、関税撤廃の影響の大きい農業など食産業への対策を講じるべきです。
これは他国の例を見ても至極当然の貿易自由化の事前対策であるにもかかわらず、こういった対策を経ずに一気に自由化は困りますと申しているわけです。
仮に現状の農業政策・制度のまま、何ら対策を講じることなくTPP参加・貿易自由化となれば、わが国の農業、北海道農業が壊滅的な影響を受けることは必至であり、北海道経済が混乱に陥る心配もあります。国には急ぎ検討を行い必要な対策を打っていただきたいと切に願っております。
そして、対策の基本は、貿易自由化の環境下にあっても、一定程度、私は今の国の評価方法で50%くらいと思いますが、食料自給率を持続的に確保できるわが国農業の確立であり、そのためには競争力のある「強い農業者と強い農業」をつくり・支える農業政策・制度が必要です。
もう少し具体的に申せば、競争力向上の点からは生産性の向上と食味・品質などの付加価値の向上に対するインセンテイブが農業者に働く政策・制度。また強い農業者・農業であっても国際的に太刀打ちできない部分は、所得補償などで支え保護する政策・制度を打ち立てる必要があります。
今後の世界の食料事情を考えれば「国民の食は自国の力で守るべきところは守ってくれ」ということです。
――その中で北海道農業の位置づけは。
近藤 北海道農業は、生産高が全国トップで、また本州のような兼業農家主体の農業ではなく、専業農家が主体の大規模な農業経営を展開しており、すでにわが国の食料基地として機能していることは全国的に知られるところです。
したがって現在、国が求めている食料自給率向上など食料安全保障を磐石なものとするためには、北海道の農業を活用することこそ有効でありますから、強い農業づくりの政策・制度の制定に当たり、北海道の農業特性を今まで以上に考慮するよう願っています。
また、北海道農業が、今後も日本の食の大きな力になること、および本州農業と多様性、生産性、営農スタイル等色々な面で異なることから、北海道の農業関係者(産官学)はもっと中央の舞台で北海道農業を論じたり、国の農業政策決定に係わる検討の場に参加すべきです。そのためには、日頃からもっと中央に向かって北海道農業の実態をPRし、また、政策・制度の検討の場に参加を求められるよう努めるべきです。

北辺の守りは明治以来の普遍的テーマ

――最後に北海道局の統合問題について。
近藤 これまでの北海道開発は国のリードのもと、広域分散型社会などの地域特性を考慮した特別な枠組みを使いながら、潜在する可能性の掘り起こしを進めてきました。
戦後は、国の直接統治を強くして国策としての食料増産、石炭政策、人口の適正配置等々を手がけてきましたが、その後の経済発展や東西冷戦崩壊とともに、北海道の地位は低下し、そのせいもあってか、現状の高速道路など社会資本整備は停滞し、現状、農水産業を中心としたわが国への貢献に必要なレベルに至っておらず、早期整備の実現が期待されているところです。
このまま北海道局の廃止、格下げとなれば、北海道の有史以来はじめて国政上の強固な地位を失うことになり、北海道再生に向けて影響は大きいものがあります。
さきほども言いましたが、食の分野で国に貢献できるのは北海道しかないといっても過言ではありません。この推進のためにも北海道局の存続が必要です。
また北辺の守りは明治以来の国の普遍的なテーマなはずです。北海道には北方領土問題があります。世界の国境防備の常識は、軍事力ともう1つ、国境地域の産業経済力といわれています。最近の国際情勢を踏まえれば、国境近接地域である道東地域の地域振興策は重要なテーマなはずです。
以上、総合的に判断すると、北海道局は存続すべきと思います。
――ありがとうございました。

=ききて/干場一之=