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地域活性化プロジェクトが始動

アトピー性皮膚炎の湯治場として全国的にも有名な豊富温泉が自慢の豊富町で、賃貸管理業の札幌オーナーズが宿泊施設を建築中だ。事業再構築補助金にも採択されたモデル事業として、地域の活性化を図る。河田誠一町長と森賢一社長に今後の展望を聞いた。

豊富町を湯治で活性化!

――豊富町と森社長の出合いは。

 当社にアトピーで悩んでいる社員がおり、豊富温泉に湯治に行くという話を聞いたことが始まりです。調べると全国でも珍しい泉質で、全国から湯治客が訪れているということを知りました。

河田 豊富温泉の泉質には油分が含まれており、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬の症状を緩和させると言われています。町営の日帰り温泉施設「豊富温泉ふれあいセンター」は道内で唯一、施設利用料と往復交通費が医療費控除の対象となる厚生労働省の「温泉利用型健康増進施設」に認定されています。コロナ以前は年間7万2000人ほどの利用者がおり、そのうち湯治客は2万5000人ほど。全国各地から湯治客が訪れていました。

 湯治は一日二日ではなく、週単位、月単位という長期戦になります。食事付きの温泉ホテルではどうしても滞在費が高額になってしまう。新たな宿泊施設の建設は、湯治客の経済的負担を軽減できればと当社が動いたわけです。
8月には町内に取得した土地で地鎮祭を行い、来年3月の完成に向けて建築中です。建物は1ルームタイプの全10戸で、1部屋に2人まで泊まれます。家具や家電を完備し、自炊していただくことが前提ですが、10日間滞在で1部屋5万円、20日10万円、1カ月12万円に設定する予定です。2人で泊まれば1カ月宿泊しても1人6万円。アトピー患者や地域活性化に寄与するという公共性が認められ、経済産業省の事業再構築補助金にも採択されました。

河田 町営の療養施設には数に限りがありますし、毎年5~9月の繁忙期には、周辺の温泉ホテルや旅館もほぼ満室となっていたため、森社長の取り組みは町としても大変助かっています。また、札幌オーナーズ様には町へ2019年から複数回にわたって寄付もいただいており、大変感謝しております。

 せっかくの唯一無二の地域資源ですから、しっかり活用できるよう、微力ながらお手伝いしていきたい。現状は古びた温泉街という印象をぬぐえませんが、地域の温泉ホテルさんと連携して、共に豊富町を盛り上げていきたいですね。現在、各ホテルの経営陣の方々にもごあいさつをしているところです。

河田 行政としても地域の要望にはできる限り応えていきたいと考えています。時には森社長のような町外のブレーンの力を借りながら、豊富町をよりよい町にしていきたいですね。

宿泊施設を整備して長期滞在者を呼び込む

――宿泊施設には賃貸管理業で培ったノウハウを取り入れるそうですね。

 当社は札幌市内で4000戸を越える賃貸アパート・マンションを管理し、収益物件の売買も数多く手がけています。管理物件には入居者同士のコミュニケーションの指針となる独自の「挨拶看板」を掲示しています。顔を合わせたら挨拶をするというのは当たり前のことですが、声を掛ける、掛けられるということが質の高い暮らしには大切だと考えています。
こうした取り組みが功を奏したのか、退去率はかなり抑えられています。湯治も長期滞在となりますから、同じ〝ハコ〟に住まう者同士、気持ちよく過ごしていただくことが重要です。

――河田町長が森社長に期待していることは。

河田 競争が激しい札幌で着実に成長されている不動産のプロフェッショナルということで、湯治客向けの宿泊施設の整備だけでなく、町内の空き家問題などにも知恵を貸していただければと思っています。また、豊富町は避暑地としてのポテンシャルも秘めています。さまざまな角度から交流人口を増やすアイデアにも期待したい。

 当社の子会社にはIT企業もありますので、集客面も含め、さまざまな提案をさせていただくつもりです。外国人観光客が復活すれば、海外からの湯治客も積極的に呼び込んでいきたいですね。
アトピー性皮膚炎で悩んでいる多くの人と、豊富町に少しでも貢献できるよう尽力していきます。

(かわた・せいいち)1958年生まれ。北海学園大学卒業。豊富町議会議員、同議長を経て2019年から現職。
(もり・けんいち)1959年名寄市生まれ。地元高校卒業後、札幌市内の大手賃貸仲介会社などで不動産の経験を積み、1994年「札幌オーナーズ」を設立。札幌市内を中心に4000戸を越える賃貸物件を管理する。