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2023年

竹政伊知朗(札医大教授)「日本製・ヒノトリの輸出が 医療経済を活性化させる」

竹政伊知朗 札幌医科大学・教授

手術支援ロボットといえば、アメリカ製のダヴィンチが有名だ。昨年12月には日本製のhinotoriが消化器領域で保険適用の対象となった。それを先導したのが札幌医科大学の竹政伊知朗教授。竹政教授にヒノトリの可能性について聞いた。

 

ジャパンメードの世界基準クオリティ

 

 札幌医科大学消化器・総合、乳腺・内分泌外科の竹政伊知朗教授は、大阪医科大学医学部卒業、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。同消化器外科講師を経て2015年11月から現職。専門は大腸がんなど消化器癌治療だ。

 手術支援ロボットを扱う第一人者としても知られる。国内のロボット支援手術の施行条件は日本内視鏡外科学会がレギュレーション(厳格な規則)を定めている。竹政教授は現在、同学会のロボット支援手術に関する委員長を担当。薬事承認や保険適用のほか、プロクター(教育者)制度のとりまとめなどを行っている。

 日本製の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」は、昨年10月に消化器外科領域で薬事承認。同11月8日には竹政教授が執刀して、大腸がんを切除する手術が世界で初めて札幌医科大学で行われた。

 竹政教授がその後計4例の大腸がん手術を成功させ、ヒノトリは同12月から保険適用が開始された。

 

   ◇    ◇

 

 ――ヒノトリについて、説明していただけますか。

 竹政 ヒノトリは神戸市に拠点を置くメディカロイド社によって製造されています。同社は川崎重工業とシスメックス社の共同出資によって2013年に誕生しました。

 川崎重工業はもともと船舶やオートバイ製造などが有名で、国産初の産業用ロボットメーカーです。一方のシスメックス社は検査・診断領域のヘルスケア企業です。いずれも本社が神戸で、メディカロイド社は両社にとって初めて手術機器製造への挑戦となります。

 メディカロイド社の企業規模はまだ小さいですが、ヒノトリを車にたとえるなら、レクサスのようになって欲しいと思います。今、レクサスは海外でも性能の良い日本車として世界基準のクオリティが広く認識されていますよね。

 同じようにジャパンメードクオリティーのヒノトリが世界に広がることを期待しています。

 ヒノトリのファーストペイシェントイン(初めて患者に使われた)は、20年12月の泌尿器科領域でした。

 今回、昨年11月に執刀を担当した大腸がんの手術は消化器外科領域になります。消化器外科領域はとても広い。そこに適用するためにさらに改良が重ねられ、12月に保険が認められるようになりました。

 保険適用が開始される前、私のところで、4例の手術を担当しました。無事手術を終え、ヒノトリの安全性を証明できました。これはとても大切な過程であったと思っています。

 ――ヒノトリの性能は。

 竹政 世界でトップシェアを誇るアメリカ製のダヴィンチは今、第4世代まできています。ダヴィンチにはすでに20年以上におよぶ開発の歴史があり、その間に臨床現場のいろいろな声を聞いて、改良が重ねられてきました。それに対してヒノトリはまだ第1世代です。やはりそれだけの差はあり、現時点で2つが同じ性能であるとは言えません。

 ――なぜ、国はヒノトリの保険適用を認めたのか。

 竹政 また車にたとえますと、最近の車にはオートパイロットや衝突回避の安全装置など快適に運転できるようなさまざまな機能(付加価値)がついていますよね。しかし一番大事なのは、走る、止まる、曲がるという基本的な性能です。

 つまり、青信号ではスムーズに真っ直ぐに進み、赤信号ではきちんと止まることができ、カーブではドライバーの思い通りに曲がれることが重要です。ヒノトリは第1世代にしてすでにこの基本的で一番大事な性能が十分に備わっていることがわかりました。

 後は、手術中にいかに安全確実かつ速やかに操作ができるかという付加価値を高めていく必要があります。そこはむしろ国がどうこうではなく、実際に扱う医師が評価していくことになります。このような現場の声を拾い上げ、改良が加えられることで、どんどん性能が良くなっていくのだろうと思います。


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