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Interview

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“市民自治、分化を根づかせた“
上田文雄が札幌市長12年間を総括
掲載号:2015年1月

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上田文雄 札幌市長

 上田文雄札幌市長はすでに今期限りでの勇退を表明している。「人間が集中して働ける時間はそんなに長くない」という考えからだ。しかし、3期12年の間に上田市長は札幌に市民自治を根づかせようと奮闘してきた。その思いを聞いた。

「誰かがやらなきゃ」と出馬

――旧社会党や民主党から、いろんな選挙で「出てくれ」と言われても上田さんは、ことごとく首をタテに振らなかった。なぜ、12年前、札幌市長選の出馬要請だけは断らなかったのですか。
上田 さまざまな選挙で何度も出馬要請があったことは事実ですが、自分が権力を担うということには、あまり関心がありませんでした。私は弁護士という仕事が天職だと考えていましたし、法の力を必要としている人々を支えたいという思いが強かったのです。
しかし、25年弁護士をやり、大きな医療事故の案件がいい形で解決し、念願だった医療事故に関する本の脱稿をしたのが、2003年の1月25日でした。その2日後に、大嶋薫市議(民主党、西区)が来たのです。「選挙のことで相談がある」からと言うので、てっきり大嶋さんの選挙のことだろうと思っていたら、「あなたに市長選に出ろという話が進んでいる」ということでした。「そんな話ははんかくさいんじゃないかい」と帰っていただいたのですが、当時は仕事が一段落してホッとしていたこともあって……
――心のすきを突かれた。
上田 いやいや、そんな意味じゃありませんよ。ただ、4・5人で始めた医療問題研究会が弁護団を含め43人にまでなり、一番困難だと思っていた医療事故について協力医のネットワークもできて、自分のライフワークに一定の形ができたときだったのです。
――最後は琴似のホテルヤマチの一室で、民主党札連代表で道議だった西本美嗣さんに膝詰めで説得され、「ぼくが出なかったら、西本さん、困るんでしょう」と上田さんはボソッと言ったそうですね。で、市長選出馬を決意したのは、札幌市政をどうしようと思ったからですか。
上田 それが最初は正直言って、札幌市政のことをあまりよくわかっていませんでした。貧乏な弁護士だったので、「なぜ札幌の国民健康保険料はこんなに高いのか」と思っていた程度でしたが、だんだんいろんなことを知り、「これ(=札幌市長)はやりがいのある大切な仕事だ」と思いました。
でも、最大の出馬理由は「誰かがやらなきゃならない」という思いでした。団塊の世代に対しては「いろいろ言うが、提起しっぱなしで問題を解決していない」という批判もあります。それなりの年齢になって社会の中堅どころになり、私たち世代の責任ということも考えました。ですから、出馬を勧められて、それをむげには断れないとも思いました。
――市長に初当選し、実際に市役所に入って、どんな感じを受けましたか。
上田 巨大組織でしょう、1万6200?300人の部下が急にできたわけですから、戸惑いましたよ。しかも、私が市長になったのは55歳なので、年上の人が5年分いらっしゃいます。なおかつ、私は全然わからない行政に、やたら詳しい人たちがたくさんいます。
ただ、私が弁護士実務をやってきたということに、みなさんがそれなりの敬意を払ってくれたので、あからさまな意地悪というのはありませんでした。
また、司法界と行政は立場は違いますが、扱っている問題は市民にかかわることで、一緒です。役所の仕事の大半は社会のひずみをどう是正するかということです。もちろん先頭になって新しい何かをつくっていくということも大事ですが、その光と陰の中で困った問題、社会的課題を、私は法律家として裁判で解決を図ってきたけれども、行政は予算でできること、税金でできることをする。ですから、私と市職員は社会的問題意識は共有できていました。私は法律を読むことができるので、あまり苦労しなかったですね。

団塊の世代の責任を果たす

――12年間で大変だったなと思うのは、何ですか。
上田 1つは官製談合問題。もう1つは、民間バス会社がおこなった事実上の〝ストライキ〟です。
――市営バスの民営バス事業者への移譲後におこったバス路線の継続問題ですね。営業所の土地の有償化にバス会社が反発し、路線の廃止届けを出し、継承事業者が二転三転しました。
上田 制度としては認められているから適法ですが、あれは公共交通機関として禁じ手、アンフェアだったと思います。一方、札幌市の側も時間的制約があったため、未解決な問題を積み残したまま譲渡契約も発車してしまっていました。
――市財政はずいぶん改善されましたね。
上田 当時は横浜市長の中田宏さんがおこなっていた改革が注目されていました。それに対する是非はあり、私も全てを評価しているわけではないのですが、彼の演説の中で、横浜の市債残高が5兆3000億円もあり「市民のみなさん一人ひとりが連帯保証人なんですよ」と言いました。
ぼくもそれはリアリティーのある話で、市民が財政問題を理解する上でとてもいい説明だと評価しています。市債残高は大きな問題です。私の初当選当時は札幌の人口は185万人くらいで、まだ人口増が見込まれていましたが、ある時期までいくと減少に転じることはわかっていました。また、小泉改革の三位一体で地方交付税が百何十億円減らされるということが起き、職員が顔を真っ青にする状況の中で、予算の膨張路線はもうだめだと決め、市債残高を減らすことにしました。将来、生産労働人口が減ることを見越し、市民の過重な負担にならないように考えました。
団塊の世代と1972年に札幌オリンピックがあり政令指定都市になって激増した時期に採用された職員がちょうど定年となり辞める時期に合わせて、退職者の不補充という考え方で、職員の労働密度を上げていくことで同じ仕事量をこなすことにしました。労働組合も理解して頑張ってくれたと思います。その結果、2000人近くの職員を減らすことができました。
前半8年間で約4100億円の市債残高を減額しました。3期目の4年間では700億円くらいしか減っていないのですが、それは(国が本来現金で渡さなければならないものを自治体に債券を発行させ、国が30年間で補てんするという)臨時財政対策債が3800億円もあるからです。臨財債の分を足せば、3期12年の間に実質的には約8000億円の市債残高を減らしたことになります。

誇りあふれる街・札幌を創る

――市政遂行上、心がけてきたことは。
上田 法律家としてもそうなのですが、憲法を学び、地方自治法を学び、民主主義を実現しようということで、ずっと活動してきました。だから、それを念頭に置いたスローガンを掲げてきました。
それが「市民の力みなぎる、芸術文化そして誇りあふれる街・札幌を創ろう」というスローガンです。それに集約されると思います。憲法の中でもっとも大事なのは民主主義で、「自分の街のことは自分で責任を持て」ということです。自治というのは自分自身を治めることですから、「自分でできることは自分でやる」というのは大原則です。自分でできないことは地域でやる。地域でできないことは役所や国がやる。
自治の3原則である自助、共助、公助をしっかりやっていくため、政策を進めてきました。ごみの問題、雪の問題、敬老パスの問題も、自分たちのできることは自分たちできちんとやろうではないかということです。単に恩恵を受ける客体としての地位に甘んずることなく、主体になっていくんだということです。
「誇りあふれる」というのも大事です。札幌市は毎年、市政世論調査を実施しているのですが、「札幌の街が好きです」という人は95%くらいいます。「この街にずっと住みたい」という人もおよそ90%います。ずっとこういう結果です。
この街は市民に愛されています。でも、私は「好きだ」では足りないと思います。音楽にもピアニシモ、メゾフォルテ、フォルテ、フォルテシモなど強弱があります。「好き」の中にも「不満がない」「まあまあ好き」「満足」などがあります。でも、「満足」と言っている人もサービスを受ける客体なのです。何か不都合があれば「嫌い」に転じてしまうでしょう。
だから好きだけじゃだめで、自分で誇りを持ってもらわなきゃ。誇りを持ってもらうためには参加が必要です。「オレの創っている街だから、いろいろと不満はあっても、誇りを持っている」とね。そんな行動力や活力を持った人たちが90%になってもらいたい。
伝統的に「好きですサッポロ」はそれはそれで悪くありません。しかし、誇りを持って責任ある市民になるというのが自治のもっとも追求されるべき課題だと思います。それは理想ですから全員がそうなるわけではないのですけれども、運動としてそういう方向を目指すことを私は求め続けてきました。

新たな市長も財政健全化を

――次の札幌市長に何を望みますか。
上田 やはり財政規律をしっかりとしてほしいと思います。いまの日本の少子高齢化を考えたら、健全財政を目指さなければ大変なことになります。国の借金は、この間まで1000兆と言っていたのが、あっという間に1140兆円に増えています。サラリーマンなら3回くらい破産している割合の借金です。私は国に日本の収入に合った財布を示してもらいたい。
40兆の収入に50兆の借金で、90兆円の予算を組んでいます。その借金の大部分が借金を返すための借金です。プライマリーバランスがどうのこうのと言っていますが、タコが足を食べ、もう大事な心臓部まで食いちぎってしまいそうな状態です。だから、せめて自治体の健全なる財政は絶対に守らなければなりません。
もちろん、オリンピックなどのように、きちんとした目標を持ち、しかも財政規律を保ちながらできる範囲のことと位置づけられるものは、やるべきだと思いますよ。
また、芸術文化を契機に市民の一体感だとか発想力豊かな人材を育てるため、「創造都市さっぽろ」の取り組みを推進してきました。これも引き継いでいただきたいと思います。

=ききて/酒井雅広=