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Interview

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“土俵の充実”継承、ファンを魅了させる
大相撲を
掲載号:2016年2月

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八角親方 日本相撲協会理事長

日本相撲協会の新理事長に、元横綱北勝海で八角部屋親方の八角信芳氏(広尾町出身)が就任した。北の湖前理事長が掲げた“土俵の充実”を継承。復調した人気を相撲界発展につなげていきたいという。都内の八角部屋で意気込みを聞いた。(取材日=12月28日)

両国国技館の中は江戸時代の雰囲気

――12月18日、日本相撲協会の第13代理事長に就任されました。

八角 広報部副部長に就任してから、武蔵川、放駒、北の湖の3理事長の間近で、いろいろと勉強をさせていただきました。

先代の北の湖理事長からは、何か問題が起きたとき、すぐにポンと答えを出すわけではなく、まずはグッとこらえる。しっかり考えた上で、表にすることを学びました。すぐに「YES」「NO」の答えを出さないということですね。

――2015年夏にスカウトのため、北の湖前理事長の故郷、胆振管内壮瞥町を訪れたそうですね。

八角 洞爺湖に近い高校にスカウトに行ったんです。その帰りに「横綱 北の湖記念館」に寄り、北の湖前理事長の銅像前で写真を撮りました。それを先代に見せたとき「行ってきたのか~」と苦笑いをした表情が、いまでも忘れられません。

――2015年は本場所90日のうち、86日が満員御礼でした。相撲人気は復調しています。広報部長時代に人気回復のため、営業努力をされたのではないでしょうか。

八角 数年前にさまざまな問題が起き人気が下火になりました。協会職員、親方、力士が危機感を持ったことで、いろいろな取り組みができたと思います。

たとえば、新たな試みとして遠藤の「お姫様抱っこ」のイベント、横綱・大関に赤ちゃんを抱っこしてもらえる特典付きチケットなどがあります。

また、和装の観客に限定グッズ配布の特典がある「和装day」を設けました。和装は相撲が一番似合いますよね。実は私が広報部長時代、東京都墨田区の成人式を両国国技館で開催してほしいと、区長に話したことがあるんです。

式典が終わったあと晴れ着のまま相撲を観戦するというものです。ところが、成人は2万人、3万人もいると(笑)。3、4日かかるということで、その話は実現しませんでした。

いずれのアイデアも私の現役時代では、想像できないことです。相撲協会ではこうしたイベント情報を、公式ツイッター、LINEなどで頻繁に発信しています。生で相撲を観戦してみたいと、多くのお客さんに来場いただいています。

――相撲が好きな若い女性は“スージョ”などとも呼ばれています。

八角 舞台演劇やほかのスポーツもそうですが、女性が来なければはやらないですよ。もともと大相撲も女性に支えられてきました。話題になることはうれしいことです。

――北の湖前理事長は“土俵の充実”を掲げ、協会を運営してきました。八角親方も、その精神を継承するとおっしゃっています。

八角 北の湖前理事長の後を引き継ぐわけですが、私自身もずっと土俵の充実の大切さを感じていました。
これが相撲界の発展につながると考えています。

土俵の充実とは、とにかくいい相撲を見せるということです。足を運んでいただいたお客さんの前で、白熱した力のこもった取り組みを見せる。初めて生で相撲を見た人は、男と男の体のぶつかる姿に心を揺さぶられるはずです。いくら宣伝活動に力を入れても、相撲がつまらなければ、リピーターになってくれないでしょう。

大相撲は単なるスポーツではありません。まず、呼び出しがしこ名を読み上げる。床山によって大銀杏を結われた関取が土俵に上がり、行司がさばく。私は国技館の中は江戸時代の雰囲気のままでいいと思っています。国技である大相撲の伝統・文化は、守り続けていく覚悟です。

稀勢の里に足りない勝負所の大胆さ

――力士たちに求められることはなんでしょう。

八角 土俵の充実を図るためにも、力士たちはしっかりと体をつくらなければならない。それは肉体だけではなく心もです。そのためには、普段の稽古から大切になります。

場所中の15日間、毎日力の入った相撲を取り切る。そして巡業もあります。常に体を鍛えていないとダメなんです。

やはり相撲の大きな魅力は立ち会いの当たり合いでしょう。それを立ち会いの駆け引き、変化とかでは、お客さまは納得しないと思います。

最近、高校、大学、社会人など、アマチュアを経験して入門する力士が多くなっています。アマチュアは大会などで勝てばいいんです。プロも勝たなきゃならないのですが、その前に相撲をお客さんに見せるんだと。関取衆になったら、相撲をみなさんに披露するという自覚、心構えを持ってほしい。

大相撲は強ければ、勝てばいいというだけじゃない。競技以外の部分も注目されます。力士も大変だけれども、それなりの責任と自覚を持って、生活もしっかりしないといけない。中でも横綱、大関はとくにです。そういうお手本があって、若い衆も伸びてくるわけですから。

――この人気を継続させていかなければなりません。

八角 人気を支える意味でも、相撲が国技と言われる部分では、巡業こそが一番大切かもしれません。本当に地方の小さなまちまで行きます。地方巡業は地元の人たちとふれあうことができます。一回力士と会うと、テレビを見たくなったりするはずです。

年間90日近く全国をまわっており、その積み重ねが、いまの満員御礼を支えていると思います。巡業を続けてきたからこそ、お客さんが親しみを持って本場所に足を運んでくださります。

――日本出身力士の優勝は約10年近くありません。

八角 よく指摘されることですが、日本、外国出身に関わらず、入門すれば全員協会の力士なわけです。その中で切磋琢磨して、いい相撲を見せて、日本出身の力士が横綱、大関に上がってくれることを、期待しています。

――とくにファンの中には長らく、大関・稀勢の里関の横綱昇進を待望する声が大きいです。

八角 稀勢の里は何かもう1つ足りないですよね。真面目すぎるというのかな。常に勝とう、勝とうと思いすぎて、力んで、固くなってしまう。そして勝負所で、番付下位の力士にコロッと負けてしまう。

真面目さは悪くないけど、勝負にはときに大胆さも必要ですから。「今場所は優勝できなくても仕方がない」という開き直りも必要なんです。稀勢の里はこれまで何回も優勝争いを経験しています。この先、綱を取れるかはメンタルの面が大きいんじゃないでしょうか。

“相撲王国”を支えた北海道気質

――よく、外国出身力士のほうがハングリーさがあると言われますが……

八角 やっぱり強くなろうと思って、言葉のわからない土地に来るわけですから。しっかりした気持ちがないと、日本に来ても強くなれないと思います。

たぶん、私が広尾町から出てきた時と同じ心境だと思います。一旗揚げるんだくらいのね。強くならないともう故郷には二度と帰られないと。

雪が降って寒くても、耐えて、辛抱して、春を待つといいますか、それが東北、北海道の気質、持ち味でもあると思うんです。

厳しい稽古に耐えるためには、精神的に粘り強くなければなりません。北海道にも私たちの時代まで、そうした精神面の強さがあったんじゃないでしょうか。

――かつて北海道は“相撲王国”と呼ばれていましたが、残念ながらいまは低迷しています。

八角 その点は、私も本当に寂しいねぇ。北海道から名力士を輩出した背景には、先ほど申し上げた気質も影響したと思います。

北海道も便利で豊かになり、親も優しくなりました。「ダメだったら地元に帰っておいで」という風潮です。それは相撲だけではなく、世の中がそうですよね。

若い衆を見ていて、あともう少し我慢して稽古すれば伸びるのに、と歯がゆくなることがあります。最後の辛抱ができないので、ケガをすることがあります。

稽古量が増えると、自然と体が鍛えられて、ケガも少なくなります。稽古を少なくして強くなろうと思うから、ケガをするわけです。

――旭大星関(旭川市出身)が北海道出身で唯一の関取です。

八角 旭大星が番付をあげていくには、もっと前に出ることを考えないと。横にいなして勝つ取り組みばかりのような気がします。立ち会いで圧力をかける第一歩がでるようになることが、これからの課題です

体が大きくなってから前に出るというよりも、体が小さいときにその動きを身につけることが大切です。だから、若くて小さいときがチャンスなんです。

たとえば、白鵬、日馬富士、鶴竜の3横綱でも、体が小さいときに前に出る相撲を覚えました。押っつけながら前に出られるので、相手が攻められない。若いうちに、攻めながら相撲を取ることを身につけたから、強くなったんです。

逆に逸ノ城などは最初から体が大きいから、相撲の取り口が決まっています。強さがある半面、もろさもあるわけです。

最後になりますが、北海道のみなさんにも、ぜひ国技館に足を運んでいただけたらうれしいですね。

=ききて/前田=