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Interview

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「秋口以降、道内経済は持ち直す」掲載号:2009年6月

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宇平 直史 日銀札幌支店長

短期的には、拓銀破たん時の水準まで落ち込むという観測もある北海道経済。だが、宇平直史日本銀行札幌支店長は「秋口には回復する兆しがある」という。その根拠は何か。道内経済の現況と将来について語ってもらった。

景気は9月まで落ち込み続ける

――――道内経済の現状は。
宇平 4月1日に企業短期経済観測調査(短観)を発表しましたが、企業の景況感を示す業況判断DIが 2009年3月調査時でマイナス36。このマイナス36という数字は02年以来、7年ぶりの低い水準になります。また前回の08年12月調査時に比べ8ポ イント悪化してます。これはかなり低い水準で、特に製造業の悪化が目立っています。
背景を見ると、輸送用機械や一般機械などでは、海外経済の減速に伴い、需要が大幅に減退しています。その他業種でも、建設・不動産の需要低迷から、関連の金属製品とか、木材・木製品などが良くありませんでした。
非製造業は個人消費が足を引っ張っており、全般的にDIが悪化しています。
需要項目別にみると、住宅関連が札幌を中心に低迷しています。08年の新設住宅着工戸数も4万戸を切り、近年にない低水準ですが、これが09年度も同じ ような形で続く可能性が高いと思われます。分譲マンションの在庫も少しずつ減ってはきていますが、まだ高い水準で推移しています。それと公共投資がずっと 減ってきている影響も大きいと思われます。
――――消費の方は。
宇平 雇用者所得の低迷を反映し、盛り上がっていません。個人消費の中でも食料品などは比較的売り上げは堅調なのですが、衣料品や高額商品、耐久消費財はよくありません。
設備投資は、08年度まで比較的底堅く推移していました。
なぜかというと、1つは非製造業において新規開店とか、店舗改装とかの投資が結構出ていました。また、北電の泊原発とか、新千歳空港の国際線ターミナルビルなど、大型案件もありました。
09年度の設備投資は、3月調査時短観で見ると、弱くなっています。ゆえに、われわれは設備投資の判断を「底堅い」から「減少している」に下方修正しました。また、ウエートは小さいものの、輸出も特に新興国向けが減少しています。
――――全体の景況判断としては?
宇平 弱くなっています。全国ほどの弱さはないのですが、道内も08年10~12月期、09年1~3 月期と2期連続して落ちています。そういった中で、われわれは「厳しさを増しており、低迷している」と判断しています。「低迷」という表現を使ったのは 1998年度以来、11年ぶりです。
98年度は、97年11月の北海道拓殖銀行破たんの影響で、北海道経済が、かなり厳しい状況に追い込まれた時期で、このときに「低迷」という表現を用いました。そのときに近いぐらい、北海道経済は低迷していると見ているわけです。
業況判断DIのマイナス36というのは02年以来、7年ぶりですが、さかのぼれば98年の3月、6月、9月の調査時に、それぞれマイナス38をつけています。

景気の落ち込みは全国より緩やかだ

――――先行きはどうですか。
宇平 短期的には、業況判断DIの先行き3カ月の予測値がマイナス42になっており、弱くなると思います。また、マイナス42という数値が実現した場合、過去最も低い水準ということになります。
ただ、全国・全産業と比較してみると、道内の09年3月調査時業況判断DIがマイナス36に対し、全国・全産業はマイナス46で、全国・全産業の方が悪 い水準です。前々回の調査時では、北海道のマイナス27に対し、全国・全産業はマイナス14で、北海道の方がずっと悪かったんです。
景気はフロー(流れ)と経済水準を見ると分かりますが、経済水準として北海道は低い。しかし、フローでは北海道の落ち方は緩やかです。全国は落差が激し い。例えば、12月調査時と3月調査時の比較では、全国はマイナス24からマイナス46に変化しています。これに対し北海道はマイナス28からマイナス 36。
変化幅は北海道のマイナス8ポイントに対し、全国はマイナス22ポイントとなっており、いかに全国のフローの落差が、激しいかが分かります。
――――この違いは何に起因しているのですか。
宇平 1つは産業構造の違いです。全国は輸出依存型、加工型製造業のウエートが高い。一方、北海道では低い。だから、海外経済が減速し、輸出が減退しても落ち込み方は少なくてすみます。道内は建設のウエートが高いのですが、もともと低迷していたため、落ち込み幅は小さい。
2つ目は道内でウエートの高い1次産業が、比較的底堅いということです。特に食品の安全・安心に関しての国民の意識の高まりから、道産1次産品の需要が高まっています。
タマネギとかジャガイモとか、魚関係は関東、関西方面の出荷が非常に増えてきています。いかに道産1次産品が強いかという例をあげますと、08年度の道内のコメの収穫量は64・7万トンで全国1位です。北海道の強さはそういうところにあります。
――――産業界からは6月危機説が出ています。
宇平 その種の“うわさ話”のたぐいは、時々聞かれます。
年末危機、年度末危機と、いろいろ出てきますが、大概、クリアしてきています。それはどうしてかというと、1つは経済環境としては良くはないが、落差が小さいということだろうと思います。
もう一点は政府が出している緊急保証制度です。この効果が大きく、取り組み件数なども増えています。その他の制度融資の利用も結構多い。そうしたものが功を奏しています。
緊急保証制度の実施期間は1年半ですから、効果が長続きする。そういった意味では、資金繰り支援という点で今後も効いてくると思います。
短観にもそれは現れていて、道内の資金繰り判断DIを見ると、12月調査時と3月調査時の比較では製造業でマイナス1からマイナス13へと資金繰りが苦 しくなっているのに対し、非製造業はマイナス16からマイナス17で、ほとんど変わっていません。全体でもマイナス11からマイナス15と4ポイントの下 落で済んでいます。
――――金融機関の貸し渋りの声も聞かれますが。
宇平 金融機関の対応を表すのが貸し出し態度判断DI。12月調査時のマイナス6から3月調査時はマ イナス7で、ほとんど横ばい。一方、全国では12月調査時はマイナス6で、3月調査時がマイナス13ですから、これを見る限り、少なくとも道内では、貸し 渋りはないと判断することができます。
さらに借入金利水準判断DIを見ると、道内は12月調査時のプラス5から3月調査時のマイナス12に、一気に17ポイントも低下しています。全国はプラス2からマイナス5です。ということは道内の金融機関が、それだけ低い金利で資金を貸し出しているということです。
この数字を見る限り、道内企業の資金繰りは、キャッシュフローが悪化したため悪くはなっていますが、金融機関は貸し出しをしている。それも金利を下げているとも見て取れます。
もともと道内は、預貸率(預金に対する貸し出し比率)が低いわけで、だから、道内の金融機関は、以前から貸し出しをしたいという意欲が強い。そうしたところも貸し出し態度判断DIに現れていると思います。

経済発展のカギは知財の活用にあり

――――景気好転の兆しはありますか。
宇平 短観の売上高を見ると、製造業では、08年度下期で前回調査比マイナス9・9%下方修正され、 マイナス9・3%になっています。これはいかにこの3カ月間で外部環境が悪くなったかということを示しています。ただし、09年度の下期を見ると4・1% とプラスになっています。
これは08年度の下期が悪かったということも理由ですが、09年度下期になると状況が少し改善されるという期待が表れていると思うのです。
そこで経常利益を見ると、製造業は08年度下期で「赤字転化」へと大きく下方修正されましたが、09年度下期は「黒字転化」になっています。非製造業で は前年比72・4%、全産業では4・9倍の増益予想です。この数字を見る限り、09年度下期以降、経営環境の変化が出てくるとの期待感があらわれていま す。
――――その根拠は何ですか。
宇平 1つは製造業において在庫調整が進んでいるということです。道内においても自動車関連、一般機械などで、生産をかなり縮小しています。こうした状況が続くと、在庫がはけて、実需見合いの生産水準に戻そうとする動きが出てきます。
仮に09年4~6月期で在庫調整が進み、生産水準が多少戻るとすれば、今後はそこから先、どう進むかがポイントになってきます。これは極めて重要で、ここで少し回復が見えてくれば、経営者の方の期待成長率というものが維持されます。
また、経営者は先行き景気が上向くだろうという期待感があれば一生懸命、雇用を維持します。これが崩れないようにしなければいけません。  それから、中国向けのインフラ系の輸出が、最近動きだしています。国内の産業でいえば石油・石油製品、化学、金属製品で活気が出てきています。そうした動きを見て、特に製造業の経営者の方々が「下期になったら回復する」という見方をしていると思われます。
――――そのためには何が必要ですか。
宇平 国内景気または道内景気が上向くための要因として、海外景気の動向が大きなカギを握っています。
中国が、4兆元使って内需拡大していますが、これが引き続き伸びていくのかどうか。
そして、アメリカです。
GMなどが問題になっていますが、金融部門もまだ回復していません。いま、オバマ大統領がいろいろな政策を出しています。財政政策とか金融システム改革とか、こういった政策が、どの程度実現するのかがカギになってきます。
もう1つは各国で行っている財政支出です。先ほど中国の話をしましたが、日本でも15兆円規模の対策を出していますし、アメリカもやっています。こういうことによって需要が喚起されれば、下げ止まった景気が上向くことが期待できます。
そうした中で当然、北海道経済も恩恵を受けます。日本経済全体の循環が良くなれば、道内の内需型の産業についても、期待できるでしょう。
直接的なものでは北海道開発事業費が、今回の補正と合わせれば久方ぶりに対前年度比でプラスになる見通しです。
間接的には全国の経済環境が良くなることによって所得が増え、道内の観光需要が増すとか、個人消費が増えるといった動きが出てくると思われます。
――――具体的な回復時期はいつになりますか。
宇平 秋口から年末というのが短観から見る道内の企業経営者の見方です。多少の期待感は入っているとは思いますが、今年10月以降、少し動きが変わってくるのではないかという予想をしています。
確かに足元は暗いです。ただ、経済は必ず回復します。
問題なのは、そのときの北海道経済の立ち位置です。世界経済が回復し、全国の景気が回復する。そのとき、北海道は、どういった手段、どういった考え方で、その流れに乗るかということです。
また、長い目で見たときに、北海道の潜在的な強みを生かす必要があります。潜在的な強みとは1次産業です。これにどう付加価値を付けていくかを考えていかないと、経済活動はプラスになっていきません。
付加価値をつける際に知財、つまり、知識と財産をどう活用するかということも重要です。
北海道は知財が強いのです。その理由の1つにIT関連企業の集積があります。それからバイオ。そういったものを、いかに伸ばしていくかが大事です。
あとは観光ですね。
――――いま中国で道東を題材にした映画がヒットし、中国人観光客が押し寄せてきています。
宇平 北海道からアジアに目を向けてみると、広いマーケットがあります。中国もあるし、香港、台湾もある。
環境として北海道は恵まれている方だと思います。だが、それを生かし切れていないように感じます。発展する余地はあるのですから、あとはそれを実際の発展にどう結びつけていくか。そこで真価が問われるでしょうね。

=ききて/坂井=