海外投資家による日本での不動産投資が止まらない。そうした中、10億円以上の高額不動産を仲介する「ワールドスター不動産」(本社・札幌市)が全国から注目を集めている。不動産鑑定士でもある、長谷川傑社長に話を聞いた。
【世界を股にかける不動産鑑定士】
――長谷川社長の経歴からお聞かせください。
長谷川 札幌西高等学校から青山学院大学に進学し、卒業後に不動産鑑定士試験に合格しました。これは司法試験、公認会計士試験と並んで「三大国家試験」と呼ばれる試験で、不動産系資格の最高峰とも言われています。不動産鑑定士は、不動産の経済価値を評価する専門家で、毎年の合格者は全国で約100人ほどですが、道内合格者は年に1人出るかどうかの狭き門です。
合格後は東京の不動産コンサルティング会社に勤務しました。主に「リーマン・ブラザーズ」が日本の不動産担保付債権に投資する際の助言(アドバイス)業務をおこなっていました。同社が後に世界的金融危機「リーマン・ショック」を引き起こしたことは周知の通りです。その後、不動産投資会社の「リサ・パートナーズ」に移りました。
――そこではどんな仕事をしていたのですか。
長谷川「世界一の投資家」と呼ばれ個人資産が3兆円とも言われるジョージ・ソロス氏と提携し、日本の高額不動産に共同投資をおこないました。
ソロス氏は「イングランド銀行を破産させた男」として有名となった人物です。1992年に発生した「ポンド危機」で、為替安定を目指して自国通貨を買い支えるイングランド銀行に通貨戦争を仕掛けて勝利したことで有名です。
――その後は。
長谷川 米投資ファンド「サーベラス」の傘下にあった「あおぞら銀行」で、海外・国内の投資会社向けに1件あたり数十億円規模の不動産融資をおこないました。このときの経験で世界中の不動産投資会社に人脈を構築することができました。
その後、米コリアーズ・インターナショナルと提携している「谷澤総合鑑定所」に移り、不動産鑑定評価業務に従事。1件あたりの評価額が数億から数百億円の鑑定評価をおこないました。
また、同所在籍時に専門書「事業用不動産等のマーケット分析と評価」(清文社刊・共著)を執筆しました。
【投資家は道内の高額不動産に注目】
――日本の不動産マーケットの最前線で仕事をしてきて、なぜ札幌で会社を設立したのでしょうか。
長谷川 昨今、日本の不動産のグローバル化が加速していますが、東京で働きながら札幌には海外の不動産投資会社に人脈を持つ専門家がいないのではないかと感じていました。そこで、私が高額不動産取引の第一人者として札幌の不動産オーナーと海外の投資会社を結ぶ架け橋になろうと考えたのが動機です。
海外の投資会社の資金力はケタ違いであり、全世界で数兆円の不動産投資をしている会社も珍しくありません。私の感覚では、海外の投資会社は、日本の投資会社よりも約2割ほど高値で不動産を購入しています。
また、東京の不動産が高騰し利回りが低いことから、札幌の物件が注目されています。今年8月には札幌市内で約167億円のホテルが売買されるなど、札幌でも大型取引が増えています。道内の高額不動産マーケットは今後も伸びていくでしょう。
――仲介対象を10億円以上に限定している理由は。
長谷川 海外の投資会社はおおむね10億円以上の高額不動産のみを投資対象としているからです。彼らは1~2人の少人数で数百億円の運用資金を任されているケースも多い。1つの物件を購入するのに約2~3カ月かかることから、少額不動産では巨額の運用資金を使い切ることが不可能なのです。
――海外の投資会社は、どんな物件を好むのか。
長谷川 ホテル、高層ビル、店舗ビル、賃貸マンション、物流倉庫、そして老人ホームなど、家賃収入が入る収益不動産です。彼らは各国の不動産との比較で、日本の不動産は割安だと考えています。それが日本の投資会社よりも高値で購入できる要因です。
――貴社が他の仲介会社よりも優れている点は。
長谷川 やはり海外の投資会社に強い人脈を持っている点です。最近は私の人脈に期待して全国各地から物件売却依頼が来ており、投資家からの引き合いも増えています。実際にこれまで10億円以上の高額不動産の売却依頼が150件ほどあり、取扱物件の総額は1兆円を突破しました。
また、弊社はJ―REIT(不動産投資信託)や私募ファンドの出口案件も扱っており、これらは一部の売却済み案件を除き、現在も進行中です。
――仲介業の魅力とは。
長谷川 弊社は今期、上半期だけで3件の大型案件(10億円以上)を成約させています。不動産仲介業の報酬である仲介手数料は、売主から売却依頼を受けて買主を見つけた場合は、売買価格の約6%が上限となっています。
例えば10億円の案件を成約させると最大で約6000万円の売上が計上できます。一方、設備投資や原材料の仕入れなどがなく、経費もさほどかからない業態なので、売上の大部分が利益となるのです。
私は大学時代にお金がなかったことから5000円で買った錆だらけの中古自転車に乗り、女性にも全くモテませんでした(笑)。今では会社が軌道に乗り、高級外車2台を保有するまでになりました。まさに夢のある仕事と言えます。
【苦難を乗り越え父に感謝】
――華々しい活躍の一方、決してエリート街道を進んできたわけではない。
長谷川 私の両親はともに道北の美深町の出身。父は中学卒業後、家業を継いで、コメ農家を営んでいました。しかし、当時の日本はパン食の普及でコメが生産過剰となってしまい、減反政策の影響もあり、私が生まれる数年前に農家の廃業を余儀なくされた。その後、両親は札幌に転居し、父は建設現場で力仕事、母は病院の厨房で働き、私を養ってくれました。
一方、私の方は恥ずかしい限りですが、高校の成績は学年最下位の常連で、学力テストも全国最下位レベル。合格できる大学などあるはずもなく、当然ながら大学受験に失敗。
しかし、そんな私に両親は1年間の浪人を許してくれた。私を見捨てずに学業を続けさせてくれた両親の思いを痛いほど感じました。これ以上両親を悲しませたくない。これで目が覚め、1年間の猛勉強の末、青山学院大学に合格。経済的に苦しいにもかかわらず、東京の大学に進学させてくれたことは今でも感謝しています。その時に将来は必ず出世して両親の恩に応えようと心に誓いました。
――それで不動産鑑定士の受験を決めた。
長谷川 大学在学中を含めて3度受験しましたが、全て不合格。しかし絶対に諦めるわけにはいかない。期待して待ってくれている両親を喜ばせたいという一心で、試験直前は1日22時間の猛勉強。4度目の受験で合格しました。
父は私を世に送り出すために、何一つ贅沢せずに亡くなりました。父には今でも申し訳ない気持ちでいっぱいですが、不動産鑑定士試験に合格した姿を見せられたのが唯一の救いです。
――今後の展望は。
長谷川 弊社は仲介だけではなく不動産投資事業も開始しました。小さな物件であっても利幅の取れるものであれば積極的に購入していきたいと考えています。
――5月に事務所をJR札幌駅前に移転しました。
長谷川 お客さまの利便性を考えてのことです。私はお客さまと談笑することが好きなので、不動産オーナー、金融機関、サービサー(債権回収会社)、同業の方も情報交換を兼ねて来てもらえるとうれしいですね。
■ワールドスター不動産
札幌市中央区北4条西3丁目1札幌駅前合同ビル7階
電話011・206・4246
https://www.worldstar-f.co.jp/