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Interview

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TPPで大揺れの農業界
道民とともに強い農業を創る
掲載号:2016年1月

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飛田稔章 JA北海道中央会長

 10月5日に大筋合意に至ったTPP交渉。8月に可決された農協法改正。農業界は2つの大波にさらされている。専業農家が多数を占め、日本の食料基地でもある北海道農業は、この危機をどうやって乗り越えていくのか。

選挙の時に我々の意志を示していく

――飛田会長はTPPの閣僚交渉がされている現地に何度も足を運ばれていました。現地では他国の農業関係者とも話をする機会があったそうですね。
飛田 ハワイには全国農業協同組合中央会(JA全中)の副会長として、アトランタの時は北海道中央会の会長として行きました。
ハワイではカナダの農業者、アメリカの砂糖業界の代表者らと話をする機会がありました。カナダの農業者からは「日本がTPPに参加する意向を示したのでカナダも参加することになりました」と言われましたが、カナダにも日本の「重要5品目」と同じように政府が守ると言っている農畜産物があります。カナダは農業輸出国なので立場は違いますが、日本農業への理解を示してくれていました。
――アメリカの砂糖業界とはどのような話を。
飛田 アメリカの砂糖業界には、オーストラリアからの輸入が障害になっているという認識がありました。ですから、TPPによる輸入拡大について懸念を示されていました。
――TPPの大筋合意の内容は、コメ、牛肉・豚肉、砂糖関係の作物、乳製品といった「重要5品目」を守るとした国会決議を破ったという見方もあります。どう考えていますか。
飛田 我々は「重要5品目」について関税の削減・撤廃は反対ですと言い続けてきました。その基本的な意見は今も変わりません。先日、出席した酪農者との会合でも、大変に厳しい意見が出ました。
しかしながら、TPP反対だと言い続けても、最終的に決めるのは政治家です。結論が納得のいくものでないのならば、選挙の時に、我々の意志をきっちり示していくしかないと考えています。
――11月11日に開かれたJA北海道大会で、飛田会長は挨拶の中でこう述べていました。「情報の開示、国民的議論がなされぬまま、国会決議との整合性が厳しく問われる内容で決着したことに、農家は強い不信を抱いている」と。
飛田 反対、反対と言い続けるだけで、農業経営が成り立つわけではありません。現実問題として、我々は日本の中で農業を営んでいかなければならないわけです。農業者として今後、前向きに取り組んでいかなければ。
TPP交渉が大筋合意した10月5日以降、政治家や政府に繰り返し訴えています。我々も頑張りますが、どうやって日本の農業を守っていくのか、どうやって自給率を維持するのか、と。
――TPP対策の政府案が発表されました。評価は。
飛田 TPPはおそらく2年後ぐらいに発効するスケジュールでしょう。その前に対策を実施するということは、農業の体質を強固なものにするための道筋を、今から作るということだと思っています。
ただ、「輸出をもっとすればいい」と言う方がおりますが、違和感を感じる部分があります。

「攻めの農業」は輸出だけではない

――政府もさかんに言っている「攻めの農業」ですね。
飛田 「攻め」は必ずしも輸出だけを意味するとは考えていません。国内に良質の農畜産物を供給し、日本の食の大切さをこれまで以上、国民のみなさまに理解をしていただくことも「攻め」だと思います。
スイスなどでは多少高くても自国の農産品を買うというムードができていると聞いています。日本でも、そうした流れを作っていきたい。
やはり食料自給率は大事です。「どんどん輸入でまかなえばいい」という論調が一部でありますが、地球規模で見ると人口が増加していく一方、気候変動もあり、農業生産力が落ちていく可能性があります。実際、いまも世界では10億人以上、食べ物の不足で大変な生活を強いられている人々がいます。特にアフリカでは深刻な問題となっています。
今後、発展途上国が経済発展していけば食料需要も増えるわけです。なんでもかんでも輸入に頼ればいいというのは危うい意見だと思います。
――ついつい「攻めの農業」=輸出拡大というとらえ方をしていました。国内市場における「攻め」という見方を忘れていました。
飛田 もちろん輸出も1つの「攻め」です。我々も積極的に取り組んでいきます。ただ、国内の農畜産物を自国で消費するという基本をしっかり見つめ直すべきでしょう。その土台があって、輸出を考えていくべきです。
――輸出について言えば、TPPを奇貨として日本農業は輸出産業に変われる、といった見方もあります。
飛田 それぞれの国によって検疫制度は違います。例えば中国にコメを輸出するのは非常に難しい。国内でモノを動かすのとは違い、物流の課題もあります。
ともかく検疫については国と国が約束を交わすものですから、そこは農業者がタッチできるものではありません。
我々は良質で安心・安全な農畜産物を生産し、輸出をするためにはどういう努力をすればいいか、きちんと考えて努力を重ねます。一方、検疫などの部分は国にやってもらう。そこは役割分担です。

全中は単位農協を束縛してはいない

――文藝春秋12月号に奧野長衛JA全中会長が、このようなことを書いていました。牛肉をEU向けに輸出するにしてもEU基準をクリアしたと場は全国に4カ所しかない。輸出のためのインフラが十分に整っているとは言い難いと。本当に政府が輸出をバックアップするつもりなら、そうした部分を支援すべきではないでしょうか。
飛田 輸出対策だけでなく国内対策でも、お互いにしっかりやっていくということです。ただ、北海道は約75%が専業農家で、以前から「攻めの農業」への取り組みはやってきました。今後はさらに強化していきたい。
――コメや小麦といった土地利用型の農業で儲からない農家は輸出に向く野菜や果物に生産物を変えればいい、といった意見もある。しかし、そんな単純な話ではない。
飛田 農業の現実をよく知らない人が、そういったことを言っているのかもしれません。政府の規制改革会議でも、農業の現実、農協の本質を本当にご存じなのだろうか、と疑いたくなる議論も残念ながらありました。
――その規制改革会議の答申もあり、8月に農協法が改正されました。そもそもの改正の狙いは単位農協が創意工夫をしやすいように、もっと自由に経営できるようにということでした。ところが、今回の改正内容は、そういった本筋に沿っているとは思えません。例えば、JA全中が握っていた単位農協への監査権限を開放しましたが……
飛田 規制改革会議の議論の中では、まるで全中の監査が各単位農協の自由を奪い、束縛しているかのような主張がありましたが、私は違うと思います。一部の偏った意見に影響されているのではないでしょうか。
――以前、規制改革会議の議事録を読みましたが、ヒアリングに出席してきた単位農協の組合長の中には、全農出身の男性がいました。彼は経営上の観点から、全農以外から資材を調達していますとはっきり言っていました。全農あるいは全中に各単位農協が支配されているというのは極端な見方だと思います。ただ、身内の監査で、甘くなってしまっているのではないか、という懸念は持っています。
飛田 監査には会計監査と業務監査があります。今回の農協法改正で公認会計士も参画できるようになりますが、農協の場合、業務監査が非常に重要だと考えています。果たして農業を知らない公認会計士に、どれだけしっかりとした業務監査ができるのか、ちょっと疑問というか不安はあります。

全国に先駆け自己改革プランを策定

――2014年11月、全国の農協に先駆けてJA北海道グループは、改革プランを打ち出しました。これはどういう狙いだったのですか。
飛田 日本で農協が誕生してから68年の歳月がたちました。実は私も68歳。つまり生まれた時から、農協が身近にありました。
時代や環境が変わっていく中、農協の役割、原点を組合員一人一人が再認識をし、将来に向けての足がかりをつくろうというのが、改革プランの基本的な理念です。
――農協自らが改革をするという点に意義があるわけですね。
飛田 そうです。一般の会社組織とは違い農協は、組合員が立ち上げ、運営する協同組合組織です。改革すべき点があるなら、自らの手でやるべきです。
これから11月11日に開催したJA北海道大会で決議したことも着実に実践し、改革を加速させていきます。
――大会では「地域とともに」「道民とともに」という点を強調されているように感じました。
飛田 農協と組合員の信頼関係だけではなく、消費者、地域社会としっかりした連帯を持たなければいけない。ややもすると、そこを忘れてしまう。
地域社会にも農業の状況、目指すべき方向を発信し、理解していただき、一体になって強い農業と豊かな地域社会を創っていく。そういう思いを込めて「北海道550万人と共に創る力強い農業の実現と豊かな魅力ある農村」というスローガンを掲げました。
北海道農業は、消費者が求める幅広いニーズに応え、安全・安心な農畜産物の生産と安定供給を通じて、国民・道民の食生活に貢献するとともに、地域社会・経済を支える基幹産業としての役割を発揮していきます。また、日本の食料基地を担うにふさわしい所得を確保する農業を目指します。

=ききて/野口=