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Interview

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IOCは札幌のスピード感
潜在能力に期待
掲載号:2019年12月

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橋本聖子 東京オリンピック・パラリンピック担当大臣

オリンピアンでもある橋本聖子東京オリンピック・パラリンピック担当大臣は、突然の開催地変更をどのように受け止めているのか。マラソン、競歩の札幌実施が決まった4者協議終了直後に橋本氏を直撃した。(取材日=2019年11月1日)

10月15日、森喜朗会長の電話で…

――11月1日正午から、IOC、東京2020組織委員会、東京都、政府の代表による4者協議が開催されました。その中で、札幌でのマラソン、競歩の開催が正式に決まりました。現在の率直な心境を。

橋本 10月に入り、IOCからマラソン、競歩の開催地変更案が突然出されました。10月31日からの3日間の調整委員会の中で、それぞれの立場で議論されたと思います。

IOC憲章にはすべての決定権はIOCにあると明記されています。唐突な変更を余儀なくされた小池百合子東京都知事の気持ちも理解できます。

その結果、それぞれの立場や思いを最大限くみ取った形で、お互いに敬意を払いながら、4つの点で合意することになりました。大変な苦労もあったのかなと思います。関係者のみなさんには、政府を代表して感謝申し上げます。

多くの方々に理解を示していただいて決められたことを、政府として取り組んでいくという心境です。

――昨晩(10月31日)に開かれた関係者による食事会には出席されたんですか。

橋本 はい。私の隣はIOCエグゼクティブディレクターのデュビさんでした。その時間帯は、断続的に実務者会議がおこなわれていました。その進捗状況が入ってくるので、コーツ調整委員会委員長とデュビさんは携帯電話を片手に席を離れることが多かったです。

――橋本大臣はいつ、どのような形で札幌開催案を知ったのでしょうか。

橋本 組織委員会の森喜朗会長から電話がありました。10月15日です。

――どのように言われましたか。

橋本 森会長は「IOCが暑さ対策、アスリートファーストの観点から、IOCよりもしかしたらマラソン、競歩の開催地を札幌に移す提案がなされるかもしれないので伝えておく。どのような形になってもしっかり頼む」と。

――森会長に告げられたとき、どう思いましたか。

橋本 本当に驚きました。誰もが同じ思いだったのではないでしょうか。

――10月10日に森会長、秋元克広札幌市長、橋本大臣が集まり、都内で会談しています。その席上、開催地変更の話題はあったのでしょうか。

橋本 何も出ませんでした。ラグビーのワールドカップが札幌で開催されましたよね。観客席は満員にふくれあがり、2日間にわたって盛り上がりをみせました。

森会長は札幌ドームでラグビーの試合を観戦している時から、今後のドームの活用に触れられていました。森会長は北海道のラグビー熱は思っていたよりすごいと、感心していました。

経費の負担は協議の動向を注視

――橋本大臣は過去7回、オリンピックに出場しています。これまで東京で走ることを目標に頑張ってきたアスリートの気持ちもわかるのでは。

橋本 私は現役時代、オリンピックの開催都市の文化、色、自然環境といった情報を早い段階から取り入れていました。何度も許す限り、現地に足を運び、その都市の開催であることを脳裏に焼き付けます。そうした映像をイメージしてトレーニングして、オリンピックに臨みます。どの競技のアスリートも、そういうものだと思います。

東京オリンピックの開催決定が7年前です。ましてや自国開催です。新しい国立競技場でゴールしたい。そうした思いで準備をしてきたので、選手たちが戸惑う気持ちもわかります。

――選手たちをどうサポートしていきますか。

橋本 今回の決定について、どのように理解を求めて、オリンピックでパフォーマンスを最大限発揮してもらえるのか。森会長に開催地変更の可能性を告げられたとき、そうした精神的な部分のケアについて頭をよぎりました。

私自身は政府側にいますが、精神的な部分のサポートをし、エールを送りたいと考えています。

気持ちを切り替えて最大のパフォーマンスをすることも、アスリートに与えられた1つの“競技力”です。その点で最大の強みは、レースを楽しむことです。札幌でマラソン、競歩が実施されるけれど東京大会なんだと。ここはなんとか受け止めてもらって全力でレースを駆け抜けてほしいです。

――札幌でのマラソン、競歩の実施をめぐり、課題も多いです。受け入れ体制を早急に構築しなければなりません。

橋本 札幌はこれから雪が降り積もります。五輪代表選手のオフのトレーニング、事前合宿も今までの大会とは異なります。実際にコースを走れないわけですからね。そこへの対策も考えていかなければいけません。

オリンピックの大会期間中、選手への快適な空間の提供という意味では、選手村のような場所が必要になります。ホテルという形でオリンピックビレッジを確保することになるかもしれません。

あわせて、警備を含めたセキュリティ、引き続いての暑さ対策も必要になるでしょう。地元自治体とワンチームで取り組んでいきたい。

――コースは、北海道マラソンが軸になるのでしょうか。

橋本 これだけの短期間で、コースを決定していかなければならない。

冬がありますから雪が降る前にコースを決定していくことが、アスリートたちの納得にもつながると思います。

今後、国際陸連と日本陸連が協議を重ねて、コース設定がなされていきます。最終的にはIOCのコーディネーターが決めますが、雪が積もる前にすべてを決めて、12月のIOC理事会で承認を得る予定です。

――経費負担については、本日の4者協議でも、道、札幌市の負担の可能性は否定していません。鈴木直道知事、秋元市長は経費の負担については消極的です。

橋本 コーツ委員長は「開催を受け入れていただく道、札幌市も含めて、協議をする必要がある」と話しています。負担するしないにかかわらず、地元抜きに決まっていくことにはなりません。現時点でどの程度の追加経費がかかるかわかりません。

今後、IOCと組織委員会で経費に関して調査をして、どうような枠組みでやっていくのか議論されます。政府としては、その推移を見守っていきます。

冬季五輪招致と関連性はない

――今回の唐突な開催を道民、札幌市民はどう受け止めればいいですか。

橋本 当然、日本でその時期に一番涼しい場所、そしてマラソンを開催した実績もある。そう考えれば、札幌が思いつきます。もともと札幌は、東京オリンピック・パラリンピックの開催地の1つです。受け入れる競技が増えたという認識が必要ではないでしょうか。

――札幌は2030年の冬季オリンピック・パラリンピックの招致を目指しています。

橋本 今回の開催と冬季オリパラ招致との関連性は、考えるべきではないと思っています。まずは北海道、札幌市が全力を尽くして、東京大会の成功の一助になるんだと。この短期間で受け入れ、準備をして、成功にもっていくことが大切です。札幌市は元々、開催地の1つですので、その立場としてサッカーの予選、マラソン、競歩をしっかりと運営していくことに、全力を尽くすという姿が大切だと思います。

――IOCのバッハ会長は何度か札幌を訪れたことがありますよね。

橋本 17年の冬季アジア札幌大会にも、来られていますね。

――冬季アジア大会の開催が決まったのが、11年11月です。当時の竹田恆和JOC会長が開催を札幌に正式に要請したのが、10年の末でした。

橋本 17年の冬季アジア大会の時は、ものすごい短い時間の中で、北海道、札幌市に開催を受け入れていただきました。そうした経緯を、IOC関係者も覚えています。札幌には、こうしたスピード感を期待した側面もあるのではないでしょうか。

マラソン・競歩の開催は、ポテンシャルが高い都市であることの証明でもあります。だからこそIOCが札幌に受け入れてほしいと頼んだはずです。

――橋本大臣が知るバッハ会長は、どのような人柄なのですか。

橋本 西ドイツ出身のバッハ会長はオリンピアンです。1976年のモントリオールオリンピックのフェンシングフルーレ団体で、金メダルを獲得しています。

オリンピック金メダリストがIOCのトップになっているということは、オリンピアンにとって誇りなんです。さらにバッハ会長は弁護士でもあります。

理事の頃から、あらゆるIOC内の問題を解決しながら、新しい組織をつくっていこうとする改革派として知られています。

――14年12月にモナコIOC総会が開かれました。そこで20+20(アジェンダ2020)の改革案が採択されました。バッハ会長が13年の会長選挙で掲げた公約で、最大の目玉は実施競技の見直しでした。内容としては、夏季大会で最大28としていた競技数の枠を撤廃。開催都市がその大会に限り、実施を希望する種目を提案できるなどが盛り込まれています。

橋本 バッハ会長は、アジェンダ2020をつくりあげたときの中枢でした。見識も含めて高い能力があります。バッハ会長が強力なリーダーシップを持っているという意味では、オリンピック憲章というほかに、特別な存在感があります。そのため、言葉に重みがあり、なかなかぶれない方ですね。自分がこれだと思ったことに対しては、周囲にとことん理解を求めていくタイプです。

今回もそのような状況だったと感じています。バッハ会長だからこその決断だったのかもしれません。

=ききて/前田圭祐=