「情報を先取り、タブーに挑戦」を編集方針とし、生活者・企業経営者に
最新かつ有益な情報価値をご提供する、北海道の地域政治・経済誌

ロゴ

トップページ > インタビュー

Interview

このエントリーをはてなブックマークに追加

60年ぶり北大水産卒の水産庁長官・長谷成人
“漁業を成長産業にする”
掲載号:2017年12月

photo

長谷成人 水産庁長官

7月に就任した水産庁長官は、霞が関のルールからすれば異例の人事と言われている。このポストは長い間、事務系幹部の〝指定席〟だったが、長谷成人氏は北海道大学水産学部卒の技術系だ。経験豊富な実務家の新トップに話を聞いた。

サッカー好きが高じ大学を1年休学

長谷成人氏は1957年、東京都調布市生まれ。北海道大学水産学部水産増殖学科卒。81年に農林水産省に入省し、水産庁で主に漁業調整や資源管理の分野でキャリアを積み重ねてきた。

今回、水産庁次長から長官に昇格を果たした。この人事は漁業関係者の間で話題を呼んだ。実は長い間、水産庁の技官における最高ポストは次長と言われてきたのだ。長谷氏はいわば、天井を破った格好なのだ。

――長谷長官と同じ北大水産卒は庁内にどのくらいいるのですか。

長谷 正直なところ、この組織で仕事をする中で、出身大学がどこかということは気にかけていません。ですから同窓の人数を数えたことはないのですが、技官の中で多いことは確かです。

――聞くところによると、北大水産出身の長官は久しぶりだそうですね。

長谷 そういうことも意識はしていませんでした。ただ、7月に就任後、報道などで、いろいろと言われましたので調べてみました。

そもそも技官出身の長官は60年ぶりで、その時の長官が北大水産卒の方でした。ちなみに水産学部出の技官出身の長官は、実業界から選ばれた初代長官も含めると、過去3人しかいないそうです。

――非常に珍しい。

長谷 ハレー彗星ほどは珍しくありませんよ(笑)。内示を受けた時は私自身、驚きましたけれど。

――東京の高校生だった長谷さんが北大を志望した理由はなんだったのですか。

長谷 水産を学びたいと考えたからです。それから若者特有と言っていいと思うのですが、親の引力圏から離れたいという思い。北の大地への漠然とした憧れもありました。

――なぜ水産に興味を持ったのですか。

長谷 高校1年の夏休みの時、長崎の五島列島に住んでいた叔母の家で過ごしました。海に潜ったりして遊んでいるうちに単純に海はいいな、と。さらには、当時、ローマクラブの「成長の限界」が大きく注目され、人口増加に食料生産が追いつかないという警鐘の本や報道に触れ、海の恵みについて考えたこと。フランスの海洋学者ジャック=イヴ・クストーが出演するテレビシリーズを観て、こういう仕事に就いてみたいという憧れもありました。

――北大時代の思い出を教えてください。

長谷 卒論のテーマは、風蓮湖のヤマトシジミの生息環境に関する研究でした。大学院生の手伝いで噴火湾でのフィールドワークに参加したこともありました。

――サークルや部活動は。

長谷 ずっとサッカーを。サッカー好きが高じて1年間の休学をしました。

――どういうことですか。

長谷 友人と、1978年のワールドカップ・アルゼンチン大会を現地で観戦しようと決め、費用はアルバイトで必死にためました。ところが、観戦のために1カ月間大学を休むと実験の単位が取れず、留年になると言われました。それならいっそのこと休学をしようと。

現地で何試合も観戦しました。アルゼンチン対オランダの決勝戦もスタジアムで見ました。

――サッカーは今も。

長谷 ええ。いまも水産庁のチームに入っています。各地の水産研究所のチームが集まる大会が今年も宮城でおこなわれ、私も試合に出場しました。

――ポジションは。

長谷 FWです。さすがに動きでは若手についていけないので、もっぱらポストプレーとなり、残念ながらゴールはできませんでしたが、還暦でプレーするという目標は達成できました。

――水産庁に入ってから、思い出深い仕事は。

長谷 いろいろとありますが、若手の頃、アメリカとの漁業交渉の下働きをしました。まだ遠洋漁業が盛んで、アメリカからの割り当て枠が140万トンもあった時代です。

その後は資源調査の部署に配属されました。実際に調査船に乗り込んだこともあります。

本来は、調査船として北転船を用船するなどのコーディネート業務だけで十分だったのですが、志願をして約1カ月間、北太平洋の最北部に広がるベーリング海に。船は揺れるし、船室は狭いし……出港当初はちょっと後悔をしましたが、陸では決して味わえない貴重な経験をしました。いい思い出です。

――管理職となってからのキャリアは。

長谷 漁業調整と資源管理の分野が長いです。

――漁業調整というのはどのような業務ですか。

長谷 単純に言えば、漁業者の権利関係を調整することです。資源を守っていくという視点に立ちつつ、関係者が円滑に操業できるように〝交通整理〟をする行司役と言ってもいいでしょう。

――当事者は互いに権利を主張するのでしょうから、タフな仕事なのでは。

長谷 使える手段を全て活用して解決を図ります。部下には、漁業調整は一種の総合格闘技だと言っています(笑)

特定の業者が小型クロマグロを大量漁獲

――北海道では近年、サンマの不漁が続き、漁業関係者が困っています。不漁の原因について、どのように考えていますか。

長谷 サンマだけでなく、イカ漁も秋サケ漁も悪い。水温も含めた海洋環境の変化は無視できないでしょう。

サンマは寿命が短く、せいぜい2年。ですから、ふ化した時の環境がいいと増え、環境が悪いと逆に少なくなる。変動幅が大きい。  

それから、サンマが日本の水域に来る前、公海での漁獲が増えています。日本船も公海で取っていますが、近年、公海上での台湾船や中国船の漁獲量がかなり増えてました。その影響もあると考えています。

――サンマについては、7月に札幌で国際会議が開かれました。

長谷 公海での漁は基本的に自由です。しかし、各国の船が好きなだけ取ってしまうと資源が枯渇してしまいます。

そこで日本が主導して2年前、各国が参加するNPFC(北太平洋漁業委員会)が発足しました。

サンマについては、まず日本の調査データを各国の科学者らに提示し、客観的な評価をいただきました。おおよその合意が形成されたので、7月に札幌で開かれた会議では国別割り当てを提案しましたが、残念ながら今回は漁獲枠の合意には至りませんでした。

「日本に有利な提案をしても合意ができるわけがない」といった論評も耳にしましたが、あくまで議論のたたき台として提案をしました。引き続き粘り強く交渉を続け、国際管理をしっかりやっていきたい。

――秋サケはなぜ不漁なのでしょうか。

長谷 現段階では、これが原因と断定する状況ではありません。ただ、放流した時の水温条件が悪かったのではないか、という見方があります。圧倒的な主産地の道東での漁が厳しい一方、日本海側の漁は好調なのです。日本海側の放流時の条件が良かったかもしれません。放流時期・方法の改善などが今後の課題ではないか、と考えています。

――養殖など育てる漁業の重要性が言われています。

長谷 そうですね。北海道では、台風や低気圧でホタテが大きな被害を受けましたが、幸い、これから持ち直していく見通しです。政府はマツカワ、ヒラメなどの放流事業についても支援をしています。

――南茅部地区の定置網が小型クロマグロを大量に取った結果、年間漁獲枠を超えた問題についてうかがいたい。

長谷 先日、南かやべ漁協の組合長が私の所に来られました。魚を上手にとり分けられない定置網の難しさはよく分かります。

しかし、クロマグロは資源状態が悪いため、日本が主導して韓国やメキシコなどを説得し、小型クロマグロの漁獲制限の合意を成立させました。その中で、日本の漁獲上限も世界に対して約束したわけです。

現在、特定の漁業者が大量に漁獲したために、北海道外を含む漁業者に定置網漁の自粛を要請せざるを得なくなりました。仕方がなかった、で済まされる問題ではありません。

工夫を重ねてみんなで資源回復に取り組んでいる最中です。この問題についても、なんとか乗り越える知恵を出さなければならない。

水産物の輸出拡大を支援していく

――政府は食の輸出に力を入れています。

長谷 政府としては、2019年の水産物輸出を3500億円にするという目標を掲げています。北海道が主産地のホタテは16年度で約677億円の実績があり、エースです。同じく北海道で水揚げが多いナマコの実績は約204億円。北海道には、引き続き輸出拡大に向けてがんばっていただきたい。

国内マーケットはもちろん大切ですが、人口減少が続いています。一方、海外の水産マーケットはどんどん伸びています。日本の漁業を成長産業にするため、水産物の輸出拡大は重要と考えています。

水産庁としても応援をしていきたい。輸出先が要求する衛生基準を満たすための支援も実施しています。たとえばホタテを含む二枚貝をEUに輸出する場合、生産海域のモニタリングが必要で、その助成をおこなっています。

――北方領土海域についてロシアとの共同経済活動が検討されています。この海域は水産資源が豊富です。

長谷 漁場条件の調査をおこない、データを土台に、どのような事業の可能性があるかを見極めていくことになるでしょう。

道東、とりわけ根室地区はロシアの排他的経済水域でのサケマス流し網の禁止、そしてサンマの不漁も重なり、厳しい状況です。道東の水産業振興につながるようなプロジェクトが実現できれば、という思いを抱いています。

――外国漁船の違法操業が目立っています。中国漁船の大群が日本の海で赤サンゴを取っていったこともありました。

長谷 日本は世界6位の200カイリ水域を有していますが、外国漁船が境界線を越え、日本の海のあちこちに染み出てきています。これが極東アジアの海の現実です。取り締まりの徹底、あるいは関係国とのルール作りを通じ、違法操業をやめさせていく。一足飛びに解決できない難しい課題ですが、懸命に取り組んでいきます。

=ききて/野口晋一=