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Interview

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アメリカの自宅訪問で確信
「イチロー選手はメジャー通算安打でも一番になれる」
掲載号:2016年8月

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稲葉篤紀 北海道日本ハムファイターズSCO(スポーツ・コミュニティ・オフィサー)

北海道日本ハムファイターズSCOの稲葉篤紀氏とイチロー選手は、愛知県出身で同郷。稲葉氏はイチロー選手が日米通算4257安打の瞬間を現地で観戦。「メジャー単独の記録でも一番になれる!」と期待を寄せる。

幼少期同じバッティングセンターで

――稲葉篤紀さんとイチロー選手の愛知県の実家は隣町だったそうですね。

稲葉 ええ。面識はありませんでしたが、通っていたバッティングセンターが同じだったので、幼いころから存在を知っていました。

小学生は金属バットで打つのが一般的なんですが、彼は木製バットで、バッティングセンターのMAX120キロのボールを見事に打ち返していました。

イチロー選手は僕の1つ下。当時、周囲は僕のことを「将来確実にプロに入る」と言っていたみたいで。でも、僕のバッティングを見た少年・イチロー君は「俺もプロに行ける」と思ったそうです(笑)

――プロになってから交流は。

稲葉 現役時代は同郷ということで試合で挨拶するぐらいでした。話をするようになったのは2009年のWBCで一緒のユニホームを着て以降です。プライベートで初めて食事に行ったのが昨年10月。僕が現役を引退してからのことです。

いま、テレビ朝日の「報道ステーション」で解説者としてスポーツコーナーを担当しています。今年3月にはインタビュー取材をさせてもらいました。

――イチロー選手が6月16日(日本時間)、パドレス戦で日米通算4257安打を放ちました。稲葉さんはピート・ローズ氏の最多記録を抜いた瞬間を現地で観戦しましたね。

稲葉 報道ステーションの取材で10日間ほど、アメリカに滞在しました。記録を塗り替えた前日15日に現地入りし、その日もナイターがあったので、そのまま球場のあるサンディエゴに向かいました。

試合前にイチロー選手にお会いして「見に来ました。頑張ってください!」と声をかけました。

新記録、その瞬間は素直な拍手が

――そのときのイチロー選手の様子は。

稲葉 新記録まであと2本という状況でした。その日はスタメンではなかったこともあり、ピリピリした感じはありませんでした。本人も代打で出場しても1打席しかまわってこないと思っていたのでしょう。

ただ、球場で感じたのは、敵地ではありましたが、どこか記録達成を待ちわびているような空気感がありました。試合が始まり、イチロー選手は終盤に代打でファーストゴロでした。それでもスタンドからの歓声はすごかったです。

――翌日の試合はスタメンでした。

稲葉 イチロー選手自身も試合前から明らかに前日とは雰囲気が違いました。試合に入り込もうとしていたというか。

そして最初の打席で、キャッチャーへの内野安打を放ち、ピートローズの記録に並びました。球場は大きな歓声に包まれました。

次の打席以降、新記録の期待がかかるわけですけど、その後、3打席は打てなくて。そして9回表2死一塁。前のバッターのゲッツー崩れがあって、まわってきた最終打席でした。

そのため、盛り上がりも最高潮。そこでイチロー選手はパドレスのクローザー・ロドニーからライト線を破る二塁打を打ち、日米通算4257安打を達成しました。

――打った瞬間の様子は。

稲葉 絵に描いたようなスタンディングオベーションが起こりました。そして、イチロー選手はセカンドベース上で、ヘルメットを取ってファンに応えました。

成績については純粋にアメリカだけのものではないということで、達成前から賛否両論がありました。でも、その瞬間だけは野球ファンの素直な拍手があったように感じました。

――イチロー選手には試合後、何か言葉をかけられましたか。

稲葉 チームは試合後、本拠地のマイアミに移動することになっていて、イチロー選手の記者会見が終わると、すぐ出発でした。本人もバタバタとしてたので、ゆっくり話す時間はありませんでした。

それでもイチロー選手が着替えてクラブハウスを出て行くとき、歩きながら「お疲れさま、打ったね。おめでとう!」と声をかける程度でした。本人は「ありがとうございます」と。少し重圧から解放されたようなホッとした表情を浮かべていたのが印象的でした。

別れ際にイチロー選手から「もう帰られるんですか」と言われて「マイアミに行く」と返答しました。

僕が現役だったとしたら、記録のときだけ取材をされて、達成したらすぐに帰るというのは「寂しいな」と思いますからね。その後のイチロー選手に同行したいと考えていました。

イチローが語った打者・大谷翔平

――マイアミで3試合観戦したそうですね。

稲葉 はい。2日目の夜には試合後にイチロー選手の自宅に招待してもらいました。イチロー選手の運転で、到着したのは午後8時半くらい。

奥さま・弓子さんの手料理をごちそうしてもらいました。どの料理も食事のバランスに気を遣ったメニューで、どれもとてもおいしかったです。

ワインを飲みながら、3人でいろいろな会話をしまいた。楽しかったですよ。つい時間を忘れて、自宅には午後11時過ぎまでお邪魔してしまいました。翌日、デーゲームだったのにね(笑)。

一通りのトレーニング器具が入る広さの自宅でした。イチロー選手は家にいるときは毎日トレーニングをしているそうです。食事を終えてからもすぐに体を動かしていたのでとても感心しました。

――イチロー選手は今シーズン、とくに好調です。

稲葉 昨年からマーリンズに移籍しました。これがよかったのかなと思います。本人も話していましたが、チームメートに恵まれましたね。

いま、チーム内に〝イチロー信者〟が多いんですよ。練習中もよく若手がイチロー選手にアドバイスをもらっていました。後輩に慕われるってうれしいですよね。本人のモチベーションにつながっていると思います。

あと、今年に限っていえば、ピート・ローズさんの記録やメジャー通算3000本という近い目標があったので、高い意識でシーズンに臨めているのではないでしょうか。

――技術的な部分は。

稲葉 年齢を重ねると、どうしても反応が鈍くなり、速いストレートに対応できなくなるんですよ。でも今年のイチロー選手は速いボールへの反応がいい。しかもガンガン引っ張れています。年齢を感じさせず進化していますね。

僕はね、イチロー選手に侍ジャパンに入ってもらいたいんです。決めるのは監督なんですが、僕の意見としてです。

WBCで一緒にプレーをしてすごく影響を受けました。イチロー選手は練習で、キャッチボールひとつ取っても、誰よりも一番離れて遠投をします。そして、誰よりも全力でホームランを打つんです。こういうのは練習中にやっておかないと、絶対試合ではできないんですよ。

このような姿勢を実際に見て、いまの若い日本人選手に何か感じてもらえないかなと個人的に思っています。間違いなく参考になるはずです。

――今後、イチロー選手みたいな日本人プレーヤーは登場しますかね。

稲葉 いや。あそこまでの選手は今後も現れないでしょう。イチロー選手の場合、ケガにも強いですからね。それにいま、日本人野手がメジャーで通用していないと言われがちです。

――野手・大谷翔平選手とかはいかがですか。

稲葉 ん~、わからないです。でも、イチロー選手は「大谷はメジャーでバッターとして見てみたい。生でバッティングを見たい」という話をしていました。大谷のバッティングに魅力を感じていたみたいです。

僕はいまの大谷だったら、投手のほうがメジャーで通用するのではないかと思っています。

ダルビッシュ(有)選手が言っていたんですが「ストレートで160キロを投げるピッチャーは、メジャーにいくらでもいる。重要なのはバッターの打ち取り方なんだ」と。ようは一球一球考えて投げるということです。

最近の大谷は考えながら自分の思い通りに投げられている気がします。大谷は〝スーパー22歳〟ですよ。今後どうなっていくのか本当に楽しみです。

――イチロー選手の今後については。

稲葉 ピート・ローズさんの記録を超え、ここからは一本一本が新記録になっていくわけです。これもイチロー選手の中で「挑戦」という意味で、モチベーションになっていくのではないかと思います。メジャー通算3000本安打も時間の問題でしょう(7月4日取材)。

自宅を訪問して、今年43歳になるイチロー選手がいまもトップアスリートとして現役を続けてこられた理由が少しわかった気がしました。奥さまの協力と本人のたゆまぬ努力がいまのイチロー選手をつくりあげたんだと思います。

イチロー選手はよく「50歳まで現役を続けたい」という話をしています。それも可能ではないでしょうか。

イチロー選手にはメジャーでナンバーワンのプレーヤーになってもらいたいです。日本人がベースボールの本場・アメリカで一番になるって、何か誇りじゃないですか。王貞治さんではないですが、「世界のイチロー」になってもらいたいです。

イチロー選手もアメリカに渡って、ここまでいろいろな経験をしてきたわけですよ。日本人ですから現地の選手にどこか格下にみられることもあったかもしれません。僕らにはわからないつらい思いもしてきたでしょう。そういう逆境を乗り越えてここまできたと思うと、やっぱりすごいなと感じますね。

今回、イチロー選手に会って思ったのが、彼はメジャー通算でもピート・ローズさんの4256安打超えの記録を狙っているのではないかということです。

記録には賛否両論ありました。だったら、メジャーで記録をつくり世界一になってやろうと。これはあくまでも僕の臆測ですけどね。現実的には難しい数字ですが、イチロー選手ならきっと達成できます!

=ききて/竹内洋規=